怒髪天を突き抜けまくるアタシ

naka-motoo

アタシが特異なんじゃなくてテメエらが根性無しなだけだろうがボケが

 アタシが特異体質だって?


 ああまあ分かってるさ。


紫炎しえん、怒ってない?」

「いや、別に」

「・・・本当に怒ってない?」

「怒って無えよ」

「でも、髪が・・・」


 アタシは怒ると髪が逆立つ。

 ショートだけど完全に直立真上に立つもんだから、あれだな。


 磁石に引っ張られる砂鉄みたいな感じになるんだな。


「紫炎のスイッチは分からんな」

「なんだ、金田かねだ。スイッチって」

「普通高校生の女子が怒るって言ったらキモいもの見たり、面白くないギャグを聞いたり、美味いと聞いてた食い物屋が不味かった時とかじゃないのか?」

「年取ったら女も男もキモくなるからお互い様だ。ギャグもそもそもアタシは笑いって感情は基本的に極めて冷酷で優しさのカケラも無えモンだって知ってるから笑えねえギャグの方がいい。食いモン屋は家で作るのと違う手間かけて蘊蓄こいて自己満足でやってるだけの話だから不味かったとしてもどうってこと無え。そもそも食いモンに美味い不味いを言えるような身分なのかテメエは?」

「う・・・・・じゃ、じゃあ紫炎が本当に怒るのはどういう時だ」


 ちょうどばい菌だって呼ばわれてくだらねえ男女どもから円陣組まれて唾棄されてる女がいるな。


 唾棄、ってことは本当に唾を吐きかけられてんだよ。


「おい、テメエら」

「あ、な、なんだよ紫炎。お前には関係ないだろ」

「メス!」

「な、なに・・・・・紫炎だって女じゃない?」

「テメエは畜生のメスだ」

「な、ビ、ビッチで悪かったな!」

「ビッチですら無え。形すら無えもしゃもしゃした肉のホロロにまるで最初から骨折してたみてえなわしゃわしゃの骨組みが中に入ってるだけの畜生のメスだテメエは」

「こ、この唾かけられてる奴はねえ、根っからのいじめられっ子なんだよ!だ、だから、いじめられて当然なんだよ!」

「じゃあ、テメエは根っからの畜生だから駆除してもいいんだな」

「な、なに、その甘々の論旨は」


 アタシは円陣組んでる男女どもの輪の後ろから真ん中でひざまずいている女に声をかけた。


「おい。お前がいじめられっ子なのか」

「・・・・・・・・・・いいえ」

「このクソ共に復讐してえか」

「・・・・・・・・・・はい」

「て、テメエ!」

「黙れ!畜生のメス!」


 アタシは丸まってるクズどもを黙らせて、女に聴聞を続けた。


「どうやって復讐してえ?」

「・・・・・・・・皮を」

「ああ。皮を?」

「額の生え際にカミソリで切れ目を入れて、そこから皮を目、鼻、口、首、胸、臍、下腹部、陰部、太腿、ふくらはぎ、足首、つま先まで剥いでいきたいです」

「はははははっ!いいじゃねえか。それをどうやってやるんだ?」

「わたしが将来働いて、稼いだお金を使って、人を雇います」

「うん。それで?」

「雇ったひとたちに、今わたしに唾を吐きかけた全員を拘束してもらいます。そうして抵抗できない状態の時に、カミソリを使って切れ目を入れた後、やっぱりそのカミソリの刃を寝かせて、皮と脂肪の間に滑り込ませて、時間を・・・・・・ゆっくりとかけて・・・・痛いと言ってもおそらくその頃にはわたしはいじめに遭い続けた嘆きで耳が聞こえなくなっているでしょうから特に罪悪感や生理的嫌悪を抱くこともなく作業を継続できると思います。同じように嘆きで嗅覚も無くなっているでしょうからこのひとたちの気持ちの悪い臭いも嗅ぐことなく冷静に作業を続けられると思います」

「怒って雑に処置してしまわねえか?」

「いいえ。単なる作業ですから。このひとたちを単に処置するだけの作業ですから別に」

「おい、テメエら、よかったな。これでテメエらの将来は皮膚が無い一生だ」

「こ、この女がそんな甲斐性あるわけないだろ!」


 甲斐性、か。


「なあ。それだけのことをするとなると犯罪に加担する人員を集めなくちゃいけねえからカネが相当かかるぞ。どうやって稼ぐ?」

「朝は明けの明星が見える時間から日付が変わっても働き続けて、眠ったら怒りが削がれますから臥薪のようなトゲトゲの寝具に体を横たえるだけの休息で命を繋いで、本願を果たすまでほぼ寝ずに働き続けます」

「寝ずにか」

「はい。そもそも、今、わたしは、毎日、眠っていません」

「いじめが辛くてか」

「いいえ。悔しくて、です」


 ほお。


「悔しくて眠れねえのか?」

「いいえ。悔しさのエネルギーを削がないために自らの意思で眠らないんです」

「ふむう・・・・・・その悔しさを直接的な復讐でなく、たとえば研究者になるとかして昇華するんじゃダメなのか」

「紫炎さん」


 そいつが初めてアタシを名前で呼んだ。


「昇華などと甘ちょろいことで救われるのは、部分否定のいじめの人間です」

「部分否定のいじめ?」

「はい。紫炎さん。部分否定のいじめの子は、親だとか兄弟だとか先生だとか友達だとか・・・そういう誰かから『あなたはいじめに遭って、辛かったね』と、いじめに遭うことそのものが『努力』だと認めて貰える状態の子です。だから、自分がいじめを脱してたとえば研究者となった時には、『いじめを乗り越えた。いじめにあって辛い思いをしたから今成功している』などと、全否定のいじめに遭っている、本当にこの世の苦悩の全てを引き受けるような子達を却って絶望させます」

「全否定のいじめ、ってのはつまりお前みたいな人間のことか」

桃花とうかです」


 桃花・・・・・・

 いい名前だな。


「すまなかった。桃花。全否定のいじめとは?」

「親からもいじめに遭うのはお前が悪いと言われ、先生はいじめをする側に同調し、友達はおらず、兄弟からは他人の前では絶対に話しかけるなと凄まれる・・・決して認められることのない人間。それが全否定のいじめに遭う人間です」

「わかった。桃花」

「はい、紫炎さん」

「アタシが将来、桃花の復讐をサポートしよう」

「な!?紫炎!テメエ!」

「桃花はホンキだしアタシもホンキだ。必ずやテメエらの皮が剥がれるよう、石に齧りついてでも成し遂げる」

「で、できるわけない!」


 アタシの髪は完全に逆立って、天空を向いていた。


「殺されても構わねえって覚悟も無え奴が、人をいたぶるんじゃねえよ、この甲斐性無しが」














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