第4話 さあ、どうしてだろう

 あれから篠山は途中まで百山に見送られ家に帰った。時間は仮面の人物に追いかけられた時くらいからほとんどたっておらず、街には人気や夕日が戻っていた。

 そして翌日、百山は登校してきた。

 大体寝ているか退屈そうに本を読んでいるだけではあるが。


 昼休み。百山の席へ篠山は向かった。

「百山さん、調子はどう」

「ああ、篠山か。来てみたら興味が湧くかと思ったが、やはり退屈だな」

「決めるの早くない!?――ってそうだった、コンビニ行く?」

「まだコンビニに行ってるのか」

「まあ、学食場所わからないし」

「まだ見つかってないのか!?」

「そんなに驚かなくても……。友達に誘われたりもするけど、そうするとなんか悔しいんだよね」

「ちんけなプライドを持ちおって。よしじゃあついてこい。今日は私が場所を教えてやろう」

「そんな! よりにもよって学校三日目の人に教えられるなんて!」

「ピザはおとなしく運ばれてればいいんだ。いくぞ」

 篠山は腕を引っ張られ、学食デビューを果たした。


 *


 その翌日。仮面の人物が転入してきた。

 赤い般若のような面に、ブレザータイプの制服。スカートの腰には刀。

 授業前に担任の教師から説明があった。

「今日から一緒に勉強する百山ももやま九十九つくもさんだ。百山千鶴さんのご家族で、この仮面や刀は体の一部というように校長先生から聞いているので、そのあたりは気にせず勉強に励んでくれ。じゃあよろしく」


 かくして仮面の人物もとい百山九十九との学生生活が始まった。

 当然平然ではいられなかった篠山は昼休みに九十九を学食へ誘った。

「学食の場所を教えてあげよう」

 得意げな顔をして言った。

 そして学食にて。

「百山九十九っていいます。妹、千鶴の件はありがとう」

「お姉さんなんですね。よろしくお願いします」

「そうだよ。ツーちゃんって呼んでね」

 すかさず隣に座っていた千鶴が口を開く。

「その距離の詰め方はどうかと思うね。私の方が友達歴は長いんだ」

「日数的にはたった数日でしょう」

「期間としてはずっと長い。それに私は篠山と親睦を深めるまじないである『アーン』というものを済ませているんだ」

「ほう、ちゃんと人間社会の勉強はしているみたいね」


 篠山は手を挙げる。

「あのー、お話し中すいません、まじないっていうのは……」

 千鶴が答える。

「あの日ポテチを私の口に運んだだろう。私が勉強したところによるとこれはかなり有効なまじないだそうだ」

 篠山は「どこで勉強したんだろうか」と心に疑問を浮かべた。

 九十九はうんうんと頷く。

「やっぱり篠山を呼んで正解だったみたい」

「え?」

「千鶴が学校に行きたくなる作戦を考えてた時に、前に千鶴から『篠山という、ポテチが主食の変わった半べそがいる』と聞いたのを思い出してね、ほかに友人もわからなかったから呼んでみたの」

「昼飯だと勘違いしたまま教えてたんだな……。だから僕があの日に呼ばれたってわけなんですね」

「そうそう。でもホントよかった。これで人間社会についての理解が深まる」

「人間社会?」

「うん。うちの人間社会勉強担当は昔から千鶴なんだよ。娯楽とか食べ物についても新しいものは千鶴に押し付け――じゃなくて試してもらってたんだけど、最近は全く手を伸ばさなくなってて困ってたの。ちなみにあそこは千鶴の部屋」

「それであのゲームとかポテチが――っていやいや! それより人間社会担当ってなんですか!?」

「あ、これは秘密なんだけどね、うちは元猫が多いんだ。だから人間社会についての理解を深める役目が昔から必要だったの」

「猫ねえ……」

 篠山は半信半疑といった表情で百山姉妹を交互に見る。

 しかし脳裏で火花がパチリと弾ける。

「……猫、ん? 猫、猫……そういえば、猫まみれになったことがあるんですよね、僕。なんか徐々に猫が集まってきて、重さに耐えられなくなって……」

「ああ、それは猫守ねこまもりのまじないじゃないか。千鶴の得意技の」

「千鶴……百山さん?」


 百山は「ふっ」と笑い、

「半べそに一人で行かせるのが不安でな。別れ際にまじないをかけておいたんだ。さすがにあんなになるとは思ってなくて……フフッ、いやすまない」


 篠山はあの日のことを思い出していた。


「ねえ、百山さん」

「何かな」

「どうしてこうなったんだっけ」

「さあ、どうしてだろう」

「だよねー」

 だよねー――

 だよねー――――


「よし、これからチーちゃんって呼ぶからね」

「なんだと!?」

「まじないのお返し」


 効き目を確かめるには、もう少し一緒にいる必要がありそうである。

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百山さんは退屈 向日葵椎 @hima_see

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