お題:終わりよければ全て良し。
「終わりよければ全て良し」という言葉がある。確かに最後にしっかりと大団円となれば、その経過に疵があろうともその終わりに価値はある。
ならば問おう、人生とは無価値では無いか?
人の終わりは主観世界が閉ざされて屍になってしまうのだから、終わりの手前がどれだけ幸福に満ちていたとしても無に還る虚無以外の何物でもないだろう。
終わりが『無』へと画一してしまう我々は、自らの生み出した「終わりよければ全て良し」という幸福な結末への賛辞によって粉々に砕かれてしまう欠陥を抱えている。
「それを、僕に言うのかい?」
と、私の独白を覗き見ていた隣にいる吸血鬼が言う。
そして、吸血鬼は続けるように言い放つ。
「うん、それは正しい。実に正しい。少なくとも物理法則という観念下では死後という概念すら証明できない君たちの生は、確かにどこまでもニヒリズムでドライに捉えてしまえばその通りだ」
「だからこそ、僕がうらやましいのだろう?時間によって虚無へ至る事のない器、悠久を生きる吸血鬼という存在が?」
「終わったらスタッフーロールが流れて劇場で眺められるような生死でない限り、生に価値はないというのは一面的には正しい。けどだけれでども、起承転結の承転だけ繰り返す人生もそれはそれで虚しいぜ」
「終わらないということは瑕疵が禊がれる事なく積もり続けるっていう事だ。最後に清算されるからこそ人は業も徳も好きに積める。清算されない業をいつまでも肩にのっかって取れないってのはどうしようもなく駄目だ」
「吸血鬼は相似した肉体・精神・知能を持つ
「だけど君の消費はたった百年だ。しかも同類からそういった物を得る機会もないし、命なんてなおさらだ。むしろ君が救う場合もあるだろう。そして君が善行を行えば収支はプラスで終わるかもしれない」
「けれども僕は分からない。膨大な未来のマイナスに僕の生み出すプラスは保証できない。そう、死なないからいつまでもどこまでも裁かれる。終わりのないテストだ。答案の価値を確かめる事もできない」
答案結果が見れないという意味では人も同じだろう?と私は返す。
「でも、客観がある。君が閉じても、君を見た他人はそれを決められる。結果は見れなくても、結果そのものはちゃんとあるじゃないか。ゴールを見れなくても。ゴールまでを振り返ってくれる誰かはいる」
と吸血鬼は芝居がかった仕草と言葉で言う。
「だけど……僕らはそうじゃないのは分かるだろう?不死たる僕らの総計はいったい誰が取るんだい?だから、終わりは無かもしれないけれど。終わる事は、区切れる事そのものには意味があるんだよ」
吸血鬼はその仕草を止める事なくなお語る。
「後が続くにせよそのまま途切れるにせよ、一度終われてしまえばそれらを追認する事が出来る」
私は、語り終えた吸血鬼に対して、個人にとって世界を世界たらしめるのは主観だ。ならばこそ終わった後の客観の価値とは何か?客観を受け取るべき世界が無いのならばその意味は?と再び返す。
「まぁそこは言い返せないな。それがわかっているならば吸血鬼なんて続けてないしね」
と少し困ったように言うと、少し間を置いて語り始める。
「でも、あえて言うならば。人は未来を考える生き物だという事だね。人はあてのない未来を、その場にあるはずのない、関わりのないものを見つめる事が出来る。」
「その時にはあるべき世界がなくても、あるべき世界を今作り出せる。君には無の先を、君を見る世界という観客を思えるはずだ。それを踏まえてとりあえず聞き返したいかな?」
そして、吸血鬼は私に問い返す。
「「終わりよければ全て良し」が、本当に人生を無価値と断ずる言葉と言い切れるのかい?」
長田のワンドロ短編置き場 長田空真 @tyotakuma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。長田のワンドロ短編置き場の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます