お題:刀

刀、それはヒトの攻撃的意志をカタチにする武器。ゆえに、刀には心が乗り移る。


人々から乗り移った心はやがて集積し、魂となる。魂を宿す無機物とはすなわち、

妖や神の類でありふわさしき『権能ちから』が宿り時として他の姿を持つ。


それらは魔剣と名付けられ、巷に出回っている。


そのうちのひとつに、『万人切宗経』というものがある。


宗経と呼ばれる刀匠が合理も呪術も何もかもを以て『至高の剣』を目指し作られた刀であり、高い耐久性から長きに渡って実用され人々の手を渡った結果『1万人もの人間を切った刀』としてその名があげられているものである。


戦国の世も江戸の世も、明治との端境すら振られ続けた銘刀は誰よりも人々の思念を吸い上げた魔剣であり、ある時ばったりと行方がしられなくなってしまった。


時が経ち剣と銃が法度になってなお剣に力を求まんとする、いや非合法・超法規的な形でいまもその力が振るわれる世界の者の至宝であり、誰もがその『宝探し』に奔走している。


それを求める男がいた。

男は、魔剣の蒐集・管理を目的とした組織の一員である。曰くの中だけになった万人切が無銘の刀としてどこかにあるのだろうと考え、最後で発見された地を中心に粘り強く探した結果とある店にたどり着く。


街外れにある古びた、商売してるかも怪しい骨董店。


「いらっしゃい。お客様。まさかまさかこんな場所まではるばる訪れるとは」


物腰柔らかで女性的な雰囲気すら漂う中性的な、店の印象からしてあまりにも不自然に若い店主が迎える。


「刀とか美術品を集めるの趣味でね。必要となれば僻地にだって来ますよ」


「それでこの店とは。実に実に嬉しいですねぇ、何がお求めですか?ここにあるのは歴史に埋もれてはいますがその美しさは名ありの品にも負けない一品たち。貴方もご満足するでしょう」


「僕は、刀を探しています。」


「刀……ですね。では、これでしょう」

と店主は店の中を案内する。古びてはいるが、思ったより広く。刀は数本飾られている。


「これは……どことも知れぬ刀匠が、己なりの美しさを求めて作り上げたものです。一般的な価値こそ外れてはいますが、しかしてその文様と刀身は見る者の目を惹くでしょう」


そう言って見せられた刀に、男は驚愕を覚える。

それは宗経が作ったとされる刀にある独特の『刃紋』であった。万人切以外広く目立つことがない宗経だが、しかしその刃紋だけは伝わっている。ゆえに、それを見分ける事が出来る。その上、魔剣に独特の霊力らしき反応、周囲の人間に与える『圧』の

ようなものを男は感じ取っていた。

そういったものを鑑みて、もしかしたら……この刀は、千人切かもしれない。と男は思った。


「おやおやお客様。熱心にも刃紋を見つめてらっしゃる。この刀がそれほどお気に入りのようですねぇ。刀のほうも心なしか、貴方を気に入っていますよ?これはもう、貴方が手にするしかないでしょう」

無銘の刀を品定めする男を前に、店主はそうおだてる。


「もしかしたら……自分が欲しかったものかもしれません。これ、買います」

男は自らが求める刀である可能性に加え、おだても加わってすっかりそれを手にする気になり、買う事を選んだ。



そして、諸々の手続きを終えて嬉しげに刀を抱えて店を去る男を見て店主は、呟く。


「兄弟……君は人の手にある事を選ぶんだね。厄切、君は守り刀だ。悪いものを払おうとする攻撃性を受け取った霊験の剣だ。だからこそ君は人を守ることを選んだみたいだね。さて、もう彼の人払いもないとなればじきにここは知られてしまう。店じまいにしてまたどこかをさすらうとしよう。当分私は、誰かに持たれたくはないんでね」


店主だった者は、どこかへ風のように去る。そして、そこにあったはずの骨董店も煙のように消えていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る