番外編 アルフのクリスマス
僕の名前はアルフ、本当の名前は……しばらく呼ばれてないから忘れちゃいそうニャ。
最近はすっかり寒くなってきて、僕はコタツやヒーターの側でゴロゴロして毎日を過ごしてる。
いつものように気持ち良く昼寝を楽しんでた時に、広がやってきた。
広ってのは……僕の世話係の一人ニャ。
もう一年ぐらい僕の世話をさせてやってるってのに、僕の好みを全然覚えない困った奴ニャ。
『アルフ、今から咲の実家に行ってくるから、帰ってくるまで井田さんに預かってもらう事になったからな。イタズラしないで良い子にしてるんだぞ?』
「ニャ?ニャア!」良い子?何言ってるニャ!僕はいつも良い子にしてるニャ!
『広が言わなくてもアルフは良い子にしてるもんねぇ』
そう言いながら、咲が抱きかかえて頭を撫でてくれた。
「ニャア♪」咲はよくわかってるニャ♪気持ち良いニャ♪
「というワケで、チビ、しばらく遊び相手になってやるのニャ」
「アルフ、お前は成長しない奴だな」
寝そべったまま、眠たそうにチビがこたえる。
「何言ってるニャ!僕が来ないとチビは散歩の時以外いつもゴロゴロしてるニャ!運動しないと駄目ニャ!」
「そんな事はないさ」
「でも眠たそうニャ」
チビはさっきからアクビばかりしてる。
「ほら、入り口のトコにクリスマスツリーが飾ってあったろ?ピカピカして眠れないんだよ」
「あのピカピカしてるのはクリスマスツリーっていうのニャ?」
クリスマスツリー、そう言えば広と咲が楽しそうに出してたニャ。
「知らなかったのか?今日はクリスマスイヴなんだぞ?アルフは気にならないのか?」
「お布団やコタツはヌクヌクのポッカポッカでよく眠れるのニャ♪イヴってなんニャ?」
「寝てばっかなのはアルフなんじゃないのか?そんな事だからイヴもわからないのさ」
「そんな事ないニャ!チビ、遊ぶニャ!」
「寝てばっかだとサンタクロースがアルフのトコには来てくれないかもな」
「??サンタ、クロース?」
聞いた事ないニャ……美味しいのかニャ?
「アルフ、お前クリスマスもサンタクロースも知らないのか?」
「初めて聞いたニャ!美味しい食べ物なのニャ?」
「ふぅ~。お前はいつも食べ物だな」
呆れ顔でチビが僕を見てる。
「そんな事言って、チビが知らなかっただけで『退院』は『お刺身』の事だったニャ!美味しかったニャ♪」
「サンタクロースってのはな、良い子にしてるとクリスマスにプレゼントをくれるんだぞ」
「プレゼント?お刺身がいいニャ!お刺身お刺身♪」
「だから、良い子にしてたらだよ」
「僕はいつも良い子にしてるニャ!」
「イタズラして遊んでるってよく聞いてるぞ?」
「そ、そんな事ないニャ!広の背中に乗ったりしてるのは広と遊んでやってるだけニャ!」
「まぁ、サンタクロースは忙しいから、アルフの事をわざわざ見たりしてないだろうけどな」
「なら一安心ニャ♪」
「サンタクロースはプレゼントの準備で忙しいんだ。でもな、代わりにトナカイが悪い子がいないか見に来てるんだぞ?」
「!?」
大変ニャ!昨夜も寝てる広の鼻を軽く噛んで起こすイタズラをしたばっかりニャ!
お刺身がもらえなくなっちゃうニャ!
「アルフ、お前イタズラしてただろ?」
「そ、そ、そんな事ないニャ!僕はいつも良い子にしてるニャ!そうニャ!そういうチビは何をプレゼントしてもらったのニャ?」
「俺か?お前が寝そべってるクッションをサンタクロースにもらったのさ」
「!!このフカフカのクッションをプレゼントしてくれたのニャ?」
「そうだよ。他には散歩の時に遊んでるボールもサンタクロースにもらったんだぞ」
「し、知らなかったニャ!アルフさんにも教えてあげるニャ!」
「アルフ、また動物園に行くのか?親父を困らせるからすぐ帰ってくるって約束しなきゃ駄目だぞ」
「僕は良い子だから井田さんを困らせるような事はしないニャ!」
「仕方ないな、そろそろ散歩の時間だから、その時に協力してやるよ。約束を破ったら……」
「破ったらどうなるニャ?」
「サンタクロースが来ないだけさ」
「!?や、破ったりしないニャ!すぐに帰ってくるニャ!お刺身をプレゼントしてもらうのニャ!」
『チビ!アルフ!散歩に行くぞ!』
そんな話をチビとしてると井田さんがやってきた。
「ワン!」アルフ、約束破るなよ。
「ニャア」当たり前ニャン。
「というワケで、アルフさんにサンタクロースの事を教えにやってきたのニャ!」
「そうか、そうか。でもな、アルフ、俺はサンタクロースを知ってるんだよ」
「ニャ!?アルフさん、物知りなのニャ!凄いニャ、凄いニャ!」
「アルフが知らない事だらけなのさ。そんなんじゃいつまでたっても俺のようにはなれないなぁ」
「そ、そんな事ニャいニャ!アルフさんのようなカッコイイ虎になれるニャ!」
「ほら、アルフ、良い子にしないと駄目なんだろ?人間達が騒ぎ出したぞ?」
「ニャ!!井田さんを困らせる事になるニャ!急いで帰るニャ!」
「アルフ、気を付けてな」
「うん、また遊びにくるニャン♪……アルフさんは何をプレゼントしてもらったのニャ?」
「俺か?フフフ、可愛い友達が出来た事かな」
「友達?サンタクロースが連れてきてくれたのニャ?」
「そうじゃない、友達が出来るようにお願いしたのさ」
「サンタクロースはお願いも叶えてくれるのニャ?」
「アルフが良い子にしてたら叶えてくれるかもな」
「良い子にしてるニャ♪アルフさん、それじゃ、今度は何をもらったか教えにくるニャア♪」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
『アルフ!何処で遊んできたんだ?お前さんと来たら気付くと遊びに行って、困った奴だな』
「ニャア」困った奴じゃニャいニャ、ちゃんと帰ってきたニャ。
「ワン!」アルフ、ちょっと遅いぞ!
『チビと遊んでる間にちゃんと帰ってきたから良しとするか。さて、帰ろうか』
「ニャア♪」わ~い、良い子ニャ♪
「ワン」俺が遊ぶ時間を長くしてたからだぞ。
「アルフさんは友達をサンタクロースにプレゼントしてもらったって言ってたニャ」
「友達?そうか、それは確かに嬉しいプレゼントだな」
「僕はまだ何にももらってないニャ!ずるいニャずるいニャ!」
「そんな事はないさ、アルフだって素敵なプレゼントをもらってるハズだぞ?」
「???美味しいモノももらってないニャ。……悪い子にしてたからかニャア」
「アルフはそのプレゼントに気付いてないだけさ」
「チビは知ってるのニャ?」
「あぁ、知ってるとも」
「お、教えてほしいニャ」
「広さんと咲さんだよ」
「???」
「アルフの為にご飯や暖かい寝場所を作ってくれるだろ?」
「!!」
「素敵な贈り物だろ?」
「サンタクロースって凄いニャ!」
「二人を困らせてるとプレゼントくれないかもしれないぞ?」
「困らせたりなんかしてニャいニャ!いつも仲良くしてるニャ」
「ふふ、なら大丈夫さ」
「二人もサンタクロースからプレゼントもらえるのニャ?」
「もらえると思うよ」
「サンタクロースってとっても凄いニャ!」
二人が素敵なプレゼントをもらえるようにお願いするニャ♪
トナカイさん、二人にもプレゼントをあげるようにサンタクロースに伝えてほしいニャ。
ピンポーン♪
『アルフ、お迎えが来たぞ』
広と咲ニャ♪
『アルフの奴、悪さしたりしてませんでしたか?』
『いつものように、チビの散歩の時にフラッと遊びに行ってたけど、探す前に帰ってきたしな』
『アルフ~、何処で遊んできてたのかニャ?』
そう言いながら、咲は僕を抱きかかえてくれた。
「ニャア」アルフさんに会ってきたニャ。
『迷子にならないで無事帰ってこれたからいいけど……アルフ、遠くに行っちゃ駄目だぞ?』
「ニャア♪」良い子にするニャ♪
『井田さん、いつも預かってもらってすいません』
『なに、チビも喜んでるみたいだから気にしなくても大丈夫だよ』
『チビ、いつもありがとうね』
そう言いながら、咲はチビの頭を撫でてる。
「ニャア~」咲、僕も撫でてほしいニャ~。
『それじゃ、井田さん、また改めて伺いますね』
『アルフ、またな』
「ニャア♪」井田さん、またね~♪チビ、また今度遊ぶニャ♪
「ワン」またな、アルフ。
『咲、アルフは?』
『コタツにいないの?』
『あぁ、ヒーターの前にもいないんだよ』
『布団で寝てるんじゃない?』
『布団か……咲、アルフがベランダから外をジッと見てるぞ』
『どうしたんだろう?』
料理の手を休めて、咲もベランダから外を眺めるアルフを見つめる。
『アルフ、どうしたんだ?』
「ニャア」サンタクロースが来るのを待ってるニャ。
『いつもならコタツかヒーターの前でゴロゴロしてるのに……置いてけぼりにしたから拗ねてるのか?』
「ニャア!」違うニャ!サンタクロースを待ってるのニャ!
『アルフ?もしかして……雪が降るの待ってるの?』
『寒がりのアルフが雪を待ってるワケないよ。もしかしてサンタさんを待ってるのか?』
「ニャア♪」広、僕の気持ちがやっとわかるようになってくれたニャ♪そうニャ、そうニャ♪
『アルフ、サンタさんはね。夜、寝てる頃にやってくるのよ?』
「ニャ?」起きてると来ないのニャ?
『クリスマスを理解してるのかなぁ』
『アルフは自分の事、ネコだなんて思ってないからね。アルフはサンタさん待ってるだよな?』
「ニャア♪」そうニャ♪会ってお願いしたい事がいっぱいあるのニャ♪
『アルフ、サンタさんはね、こんな姿してるのよ』
そう言うと、咲は書斎から大きな本を持ってきて開いて見せてくれた。
す、凄いニャ、空を飛んでるニャア。
『アルフの奴、食い入るように見てるよな?』
『うん』
「ニャア」こんな風にプレゼントを持ってきてくれるのかニャ?
『アルフ、今夜はアルフの好きなお刺身も用意してあるわよ。夕飯を食べて、サンタさん待った方がよくないかニャ?』
「ニャア♪」お刺身♪お刺身♪
サンタさんにお願いしようと思ったらお刺身が食べれるニャんて……サンタクロースって、やっぱり凄いニャ♪
「サンタさん早くこないかニャぁ・・・」
『アルフ、アルフ……』
「誰ニャ?」
ベランダが明るいニャ!もしかして。
『良い子にしてたかな?』
「やっぱりサンタさんニャ♪良い子にしてたニャ、イタズラニャんかしてニャいニャ!」
咲が見せてくれたのと同じ格好をしてるニャ!トナカイさんもいっぱい来てるニャ!
『そうかそうか、アルフは良い子だ。何をプレゼントしようかな。アルフの好きなお刺身にしようか?』
「お刺身♪違うニャ、お刺身は咲や広が用意してくれるからいらニャい」
『ふむ。それじゃアルフは何が欲しいのかな?』
「う~んと、う~んと。……咲と広とずっと仲良く一緒に暮らせる毎日が欲しいニャ」
『よし、それじゃまた来年のクリスマスにやってくるとしよう』
「ニャ?お願いはきいてくれニャいのニャ?」
『アルフが良い子にしていれば、その願いはちゃんと叶うさ』
そう言うとサンタさんはソリに乗って行ってしまったニャ。
『アルフの奴、ぐっすり眠ってるな』
『素敵な夢でも見てるんじゃない?』
『だろうな。この寝顔は山盛りのお刺身とか食べてる顔だぞ』
『わからないじゃない。もしかしたら』
『もしかしたら?』
『TVゲームとかで遊んでるかもよ?ネコの自覚ないし』
『確かに自覚ないよなアルフ』
「あ!?アルフさんみたいになりたいってお願いすれば良かったニャ!サンタさん、サンタさ~ん!!」
Fin
雪と猫と彼女と ピート @peat_wizard
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます