番外編 家族の風景
バタバタバタ……階段を駆け上がる足音が響き渡る。
子供たちが目覚めたようだ。
もうそんな時間なのか?天気は、いいみたいだな。
あきらめて起きるようとすると
バタン!
「パパ!朝だよ!!」
「早く起きて~!」
子供たちが元気いっぱい枕元で呼んでる。
「う、う~ん、わかってるよ」
とは言うものの、まだ頭は目覚めていない。
「パパだけだよ、準備できてないの~」
「そうだよ、早くぅ!」
そいえば今日は、約束していた動物園に行く日だ。
「うぅ~ん、わかったよ。ママも準備できてるのか?」
「うん!パパだけだよぉ」
「10分で準備するからちょっとだけ待ってな」
「布団から出るまでここにいるもん」
「そうそう寝ちゃうといけないからね」
どうやら信用されてないらしい。まぁ、以前寝てしまった事があるから仕方ないのかもしれない。
「わかったよ、起きる起きる。着替えて準備するから20分後に出発な」
「車で待ってるね」
「遅れちゃダメだよ」
ニッコリ笑うと二人は部屋を飛び出していった。
大きくなったよなぁ、毎日見てるのにふとそんな事を考えてしまうのは年取ったせいなんだろうか?
いかんいかん、準備しないと。パジャマ姿のまま急いで洗面に向かう。
考えてみると家族で遊びに行くのは久しぶりかもしれない。
役職なんてのが付いてから、無駄な会議やら、しょうもない付き合いが増えてしまったのが原因だ。
無駄とか、しょうもないなんて事は、社長には絶対に言えない言葉ではある。それで生活が成り立ってるんだから仕方ないのかもしれない。……時計に目をやると、もう5分過ぎてる。
慌てて準備をし、リビングに向かう。
「おはよう、子供達ならもう車に乗ってるわよ」楽しそうに綾乃が笑う。
「ずいぶんと子供らと遊びに行ってなかったからな。仕方ないさ」
「あなたも上司らしい仕事してるみたいなんだし、仕方ないわよ」
「上司らしい、か?知人を紹介しただけだよ。あいつは部下って感じでもないしな」黙々と仕事してるアイツの姿が浮かぶ。……と同時に苦笑いも浮かぶ。
「どうしたのよ?」
「その部下の事を考えてたらな、昔の自分を思い出してな」
「昔の?言いたい放題だったじゃない、上司にもお客さんにも」綾乃はクスクスと笑う。
勤務先は今とは違うが、綾乃とは社内恋愛からの結婚だった。
若い頃の俺の姿はすべて知ってる。……確かにそうかもしれない。
「パパ~、まだ~?」
龍の呼ぶ声が聞こえる。
「ほら、早くしないと芽衣も呼びにくるわよ」
「龍、今から行くからもう少し待ってて!さてと、それじゃ向かうとするか」綾乃と一緒に車に向かう。
「ほら、靴ちゃんと履いて。こら龍!暴れちゃダメだって」
「ヤダヤダヤダヤダ!肩車して!」
動物園に着いたものの、龍の駄々が始まった。
もう少し聞き分けがいいと……普段なかなか遊べないから仕方ないのかなぁ。
「ほら、中に入ったらちゃんと自分で歩くんだぞ」
「キャーー!」持ち上げた途端、楽しそうに笑い始める。現金なヤツだな。
「芽衣は帰りに肩車しような」
「恥ずかしいからいいよぉ」今のうちなんだよなぁ、女の子女の子し始めると、友達の目とか彼氏とか……彼氏?冗談じゃない!
「どうしたの?あなた」心配そうに綾乃がのぞき込む。
「何年かしたら芽衣も彼氏とか連れてくるんだろうなぁと思うとなぁ」
「芽衣は昌君が好きなんだよねぇ」
「亮君の方がもっと好きぃ」ニコニコしながらそんな事を口にする。
「ふ、ふ~ん、そうなんだ。綾乃、帰ったら写真見せてくれ。その二人の」どんな男なんだろう?
「あなた、何の心配してるのよ。まだ幼稚園なのよ?」クスクスと綾乃は笑うが、やっぱり気になる。
「何言ってるんだよ、今から心配しないと、芽衣は本当に可愛いんだから」
「……貴方がこんなに親馬鹿になるとは思ってなかったわ」呆れ顔でクスクスと綾乃が笑う。
「世の男親の娘に対する感情はきっと同じだと思うんだけどなぁ」
「パパ、お馬鹿なのぉ?」龍が茶化すように聞いてくる。
意味なんかよくわかってないんだろうけど。でもわからないまま使ってくんだよな。
「龍!そういう事言うヤツはこうだ!コチョコチョコチョコチョコチョ」
「キャー、アハハ!イヤ、ハハハハハハハ」
「もう言わないか?」
「パパのお馬鹿!」そう言うと龍は虎の檻へと駆け出した。
「甘やかすからよ」そう言う綾乃は楽しそうだ。
「甘やかしてきたか?躾してたハズなんだけどなぁ」
「一緒に遊んでばっかじゃないの」綾乃は笑ってばかりだ。
「パパぁ!ネコもいるよぉ!」龍が大きな声で呼んでる。ネコ?虎との区別はつくよな?
「龍、虎がいる檻だよ、ココ。あ、本当だ」大きな虎と一緒に猫が檻の中にいる。
迷い込んだんだろうか?って、大変な事になるんじゃないのか?
「綾乃!」その声に反応するように、猫は檻から出ていった。
どうやら事なきを得たようだな。
「待って~!」芽衣が猫の後を追う。
「お姉ちゃん、待って~」
「どうしたのよ、大きな声で?」
「二人が追いかけてる猫が虎の檻の中にいたんだよ」
「あそこで抱きかかえられてる猫?」
抱きかかえられてる?
「猫抱きかかえてるの……藤だ」
「知り合い?」
「噂の部下」苦笑いが浮かぶ。
「昔の貴方の面影があるわね」
「俺あんなに愛想悪くないぞ」
「なんとなく雰囲気が似てるのよ」
「そうかなぁ」子供らに囲まれて、少し困った様子だが……隣にいるのがそうなのかな。
「藤さんのね、隣にいる女性を見る目、貴方が私たちを見る目と一緒よ」照れたように綾乃は続ける。
「貴方と家族になれて本当に良かった。あの人もきっと幸せな家族を持てる人だと思うわ」
「俺も綾乃と一緒になれて良かったよ」
遠目に藤達を見ながらそう思う。
「パパぁ~!!」
芽衣と龍が大きな声で呼んでる。
藤が気付いたようだ。家族の時間はここまでかな。
……ま、いっか。アイツの前で気ぃ使う必要ないしな。
「龍!芽衣!」二人を呼び、綾乃の手を取ると藤の方へと歩き出した。
Fin
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