番外編 アルフの大冒険?

僕の名前は……アルフでいいや。

広がしっかりしないから、咲が家を出てしばらくになる。広が言うには、今日帰ってくるらしいけど、ホントに広は困ったヤツだニャ。

主人として、咲には苦労ばかりかけて申し訳ないニャン。

広が『仕事』とかいうので、出かけてる間、僕は井田さんていう、じいさんの世話をしなくちゃいけニャい。『管理人』とかいう『仕事』をしてるハズなのに、首にヒモもつけてないし、何で出かけないんだろうニャ?

問題なのは、井田さんトコにいるチビって奴ニャ。

コイツは僕より大きいのに『チビ』なんていうふざけた奴ニャン。

僕の事をいつも子供扱いする生意気な奴ニャ!後一年もしたら、僕がどれだけ大きくなるのか、アイツはわかってないニャ!

絶対に口に咥えて、散歩に連れてってやるニャ!

どれだけ大きくなるかって?……そんな事、僕にもわからないニャア。




『アルフ、咲さん退院してくるそうだな』

「なんっでチビがしってるニャ?」

『じいさんが嬉しそうに話してたからな』

「ふ~ん、ところで『退院』って何の事ニャ?」

『そんな事も知らないのか?まだまだ勉強が必要だな』

「ニャー!今、馬鹿にしたニャ!きっと美味しい食べ物の事ニャ!!」

『ハハハ……やっぱり子供だな、アルフは』

「一年もしたらチビよりもきっと大きくなってるニャア」

『俺よりもか?ハハハ、楽しみにしてるよ』

「……もしかして、チビはまだ大きくニャるの?」

『俺か?これ以上は大きくならないさ』

「これからどんどん大きくなって、チビを口に咥えてやるニャ」

『ふ~ん、こんな風にか?』

「ニャー!咥えるニャ!離せ!離すニャ!!」

『フフフ、楽しみにしてるよ』チビは僕を離すと眠り始めた。

「覚えてるニャ!」




『アルフ、散歩の時間だけど、どうするんだ?普段のように昼寝してるか?』

「井田さんの世話を頼まれてるんだから、今日こそは、ついていくニャ!」

『頼まれてるのはアルフの事だよ』

「何言ってるニャ!僕がいつ世話になったニャ!」

『……ついてくるのはいいが、迷子になるなよ』

「馬鹿にしてるニャア、僕はチビの背中に乗って行くから迷子になんかならないニャ」

『何で背中に乗せなくちゃならないんだよ』

「チビの背中に乗ってみたいニャ!文句言わないで、大人しく乗せるのニャ!!」

『これだから、ガキのお守りは嫌なんだ』

「あ!今、また子供扱いしたニャ!ヒドいニャ!ヒドいニャ!!」

『わかった、わかった。乗せてやるから、悪さするなよ』

「わ~い♪」



井田さんの横をゆっくりと歩くチビの上で、僕は景色を楽しんでいた。

普段よりも高い視点での散歩は楽しいニャン♪

『アルフ、ホントに歩く気ないんだな』

「当たり前ニャン!普段と違う景色は楽しいニャア♪」

『フン、いい気なもんだな』

「チビはイチイチうるさいニャア!……うん?嗅いだ事のないニオイがイッパイするニャ」

『すぐ横が動物園だからな』

「動物園?何する所ニャ?」

『俺達よりも大きな動物がたくさんいる所さ』

「チビよりも?」

『ココにいる連中に比べたら、俺なんかホントにチビだよ』

「入ってみたいニャ!」

『中には入れないよ』

「簡単に諦めるのがチビの悪いクセニャ!」

『アルフ!ドコに行くんだよ!!』

「中で遊んでくるニャ!後でイロイロ教えてやるニャア!」僕はチビの背中から飛び降りると、ニオイの強い方へと走り出した。



ずっと柵がしてあるけど、僕なら簡単に入れるニャ。

柵の隙間をすり抜けると、僕は『動物園』に入る事に成功した。

中にいるのは人間ばっかりニャ!大きい奴なんて……へ、変な奴がいるニャ!!

『なんだ、猫の坊やじゃないか。ドコから入ってきたんだい?』

「大きい!チビなんかより何倍も大きいニャ!!」

『チビ?そりゃ坊やよりも小さな子と比べたら、何倍どころか、何十倍も大きいさ』

「坊やじゃないニャ!僕はアルフっていうニャ、おばさんは?」

『私かい?私は象のギン。坊やはアルフさんの知り合いなのかい?』

「アルフさん?ココにもアルフがいるの?」

『この先の檻にアルフさんはいるよ。でも絶対に檻には入っちゃダメだよ』

「大きいの?」

『坊やの何倍も大きいさ。何度も言うけど檻に入っちゃダメだからね』

「大きいんだ……きっと、僕はアルフさんのように大きくなるニャ!おばさんありがとう♪」

僕は人波を抜けると、アルフさんの檻へと向かった。

たくさんの檻や、柵の中には、ギンさんのように鼻の長い奴はいなかったけど、首の長い奴や、口がやたら大きい奴……見たこともない連中がいっぱいニャ。

『坊や、ドコに行くんだい?』

「アルフさんのトコ♪」

『怒らせちゃダメだよ』

「そんな事しないニャ!」皆、僕を坊や扱いしてヒドいニャ!

アルフさんには、坊や扱いされないように、ビシっと言ってやるニャ!

『気をつけるんだよ、坊や』

「は~い♪」



人ごみを抜けると、僕はやっと目的の檻に着いた。

『何だ、猫の坊主じゃないか。迷子になったのか?』

「すごいニャ・・・カッコイイニャア♪」

『何言ってるんだ、坊主?』

「アルフニャ!坊主じゃないニャ!!」

『お前もアルフというのか?』

「そうニャ。って事はおじさんがアルフさん?」

『そうだよ、坊主』

「すごいニャ!こんなに大きくなったら、チビを口に咥えて散歩に行けるニャア」

『チビ?……坊主は大きくなりたいのか?』

「そうニャ、大きくなってアルフさんのようになるニャ」

『俺みたいに?ハハハ』

「なんで笑うニャ?ヒドいニャ!ヒドいニャ!!」

『坊主は猫じゃないか。俺はトラだぞ?同じように大きくはなれないさ』

「そ、そんニャ~」

『フフフ、それじゃぁいっぱい食べて、しっかり動くんだな。デブ猫じゃ俺のようには絶対になれないからなぁ』

「わかったニャ!大きくなったら、また遊びにくるニャ!アルフさんをビックリさせてやるニャ!!」

『ハハハ、坊主が大きくなるのを楽しみにしてるよ。ほら、人間が騒ぎ出したぞ、早く帰った方がいい』

「アルフさんのように、きっと大きくなるニャ!」僕は檻から離れると、来た道を引き返した。



「広、あそこ歩いてるのアルフじゃない?」咲が指差す方に、のんびりと歩くアルフの姿が見える。

「本当だ。アルフ!」

「ニャ?」アレ?広と咲がいるニャ。お迎えに来るとは、ご主人思いの二人ニャ♪

二人の元に駆け寄ると、咲が優しく抱き上げてくれた。

「アルフ、迎えにきてくれたの?」

「ニャン」お迎えご苦労ニャ。

「アルフ、井田さんと散歩中に脱走したんだろ?」

広は『携帯』とかいうのを取り出すと、一人で話しはじめた。誰もいないのに頭を下げたりして、本当におかしな奴ニャ。

「久しぶりだね、アルフ。元気にしてたみたいだね。少し大きくなったかな?」

「ニャア」これから、どんどん大きくなるニャ、チビを咥えてお散歩するニャ!

「井田さん、チビと一緒にアルフも散歩させてたら、急に走り出して、姿見失ったって、心配してたよ。困った奴だな、アルフは」

「ニャン」広、咲を困らせたりしちゃダメニャ!咲がいないとつまんないニャ!

「もうしないもんね、アルフ」そう言いながら、咲は僕を優しく撫でてくれた。

「ニャア~」気持ちいいニャ♪

「井田さんに、お礼の品を買って帰るとしようか」

「そうね。アルフ見るまで、井田さんも心配だろうしね」

「ニャア~」咲に抱かれるのが一番ニャア♪

「アルフ、今日は咲の退院祝いだから、ご馳走だぞ」

「そうなの、広?」

「俺の手料理だから、咲はそんなに期待するなよ。アルフにはお刺身を用意してあるからな」

「アルフ、お刺身だってさ」

「ニャ~ン♪」お刺身♪お刺身♪

『退院』は、やっぱり美味しい物だったニャア~♪

チビに今度教えてやろうっと♪

咲の腕に抱かれ僕は家路についた。




「ガオーー!!」その晩、夢の中で、僕はトラになっていたニャ♪



Fin

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