第54話 アヤカの日記END(LAST)

 先日の体験を親友に話した。案の定、夢でも見てたんじゃないの、と返された。

 でも私は確信しているし、それに確証もある。

 手の中には小さな子猫。

 名は『オコサマ』という。母に、昔から変な名前ばかりつけるわね、とからかわれたが私は気にしてなどいない。


「ねェ、オコサマ」と私は言った。

「アンタのお父さんのお父さんの——えーっと、まあ、とにかくすっごく前のお父さんはね、昔々に私を助けてくれたのよ。どう? 凄いでしょ」


 言葉に反応してか、みゃあ、とオコサマが鳴いた。

 残念ながら、理解があるとは思えない。


「……まあ、いっか」


 猫を床に放した。途端、逃げ出した。しかし、私が学習机に向かうと、オコサマは足元で丸くなった。幸せそうな顔をしているのは、事実、そうだからなのだろう。私の表情と同じだ。


 物語もそろそろ終わる。アパートでの不可思議な日々は、だから胸の奥底に仕舞うことにした。いま以上の証拠を得ることに、意味はない。この日記をもって、私の物語を完結させたいと思う。


 ——が、しかし。


 舞台を降りる前に一つ、心残りを解消しておきたい。

 私には解けなかった問題だ。よって、『私』こと『結城 彩香』の日記を盗み読むような人間がもしも居たのなら、その誰かに向けての依頼文をここに残しておくことで解決とすることにした。

 したがって、ここまで読んだアナタは、甘んじて引き受けなければならない。女学生の秘密を垣間見た罰である。


 では、私の日記を読んでいるアナタへ。


 もしも、件の猫アパートと思しき物件を見かけたら、裏庭を覗いてみてほしい。猫に囲まれた一人の女性が居たら、そのときアナタは使命を帯びる。

 私の知らない彼女の物語を、アナタに探って欲しいのだ。ぜひ、彼女の原体験に触れてほしい。彼女もそれを望んでいるはずだ。少なくとも、私はそう思う。


 ただし、注意してほしいことが一つだけある。万が一にも、猫屋敷に辿り着いた時点で不幸を感じていたのなら、必ず引き返さなければならない。それは絶対だ。


 さて、ここで問題。その理由を答えなさい。

 理由が分かる——それなら安心。

 理由は分からない——それだと大変。

 解らないなら教えましょう。心の中で繰り返して、きちんと覚えておくように。


 問いに対する答えは一つ——、


 ——魔法使いに出会うから。

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——魔法使いに出会うから。 斎藤ニコ・天道源 @kugakyuu

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