第64話:王都の地下

 王都テリヤキージュに到着した俺たちは、城に入るための準備をした。


 表から堂々と入って行ければいいんだけど、流石にそれは出来ない。

 こっそり侵入して、こっそり抜け出さなきゃならないんだけど……そのための道具はクラウティス王子から渡されてある!


「にゃ~。これは透明化マントだにゃ~」

「ミト、知っているのか?」

「にゃ~。繊維そのものに呪文を染み込ませて作ったマントにゃ~」


 呪文を染み込ませる?

 さっぱり分からない。

 まぁマントに透明化の魔法が付与されてるってことだろ。


「で、侵入する時間だけど。やっぱり夜がいいよね?」

「どうかしら? 侵入者って、夜に来るのが定番だもの。警備が厳しいんじゃない?」

「安直ですぅー」

「ぐっ。だからって真昼間に行くわけにもいかないだろ?」

「そもそも透明化のマント着て侵入するんだから、昼も夜も関係ないわよ」


 ぐっ。そう言われると身もふたもない。

 

「一応、明日一日使ってお城の周辺を見ておきましょう」

「そ、そうだな」

「オイラがこっそり中の様子を見て来てもいいにゃよぉ」

「そうですねぇ。ミトさんならいざという時、猫のふりできますしぃ」


 だったらミトにポーションを持たせて──とも思うが、いまいち不安もある。

 それに、お姫様の侍女だって人にポーションを渡す際に、喋る猫相手だと妖しさMAXじゃないか。

 素直に受け取ってくれるか分からない。


 中の様子を見て貰うってのはいかもしれないな。


「じゃ、ひとまず今日はゆっくり体を休めるか」

「そうね」

「やったぁ~」

「ご飯にゃ~」






 翌朝、朝食を取ってたら直ぐにお城の下見へと向かった。

 お城を中心に町を発展させた形だが、町に入るのにも分厚い壁を潜ったのに、城の周りにもまた壁がある。

 

「外からじゃ、どんな形のお城なのかも見えないなぁ」

「そうねぇ。中に入るなら、やっぱりあの門からになるのかしら」


 つまり正面玄関だ。

 お城の周りは堀があって、水も流れている。ぐるっと一周してみたが、壁に穴なんてものはなかった。


「うーん……うぅーん……」

「なんだ? どうしたんだトーカ」

「お手洗いかしらぁー?」

「そ、そんな訳ないですぅ。トーカは精霊なんですからぁ、生理現象なんて起きませんからぁ」


 顔を真っ赤にしてそう抗議するトーカ。

 じゃあ食べたものってどうなっているんだろう?


「で、どうしたんだトーカ?」

「はいぃ。実はですねぇ、なんだか足元に感じるのですよぉ」

「感じる? 足元ってまさか……揺れてるのか?」


 地震の前兆か!?


「は? 何を言っているんですかマスター? 揺れているんじゃなくって、感じるのですぅ」

「だから何をだよ」

「ダンジョンの気配をぉ~」


 ……え?


 思わず自分の足元を見てしまった。それからトーカを。

 するとトーカはにっこり笑って見せる。


 この足元に……ダンジョン?






 俺たちはその足で冒険者ギルドへと向かった。

 城の下にダンジョンがあるのかどうか。それを知りたいなら、ギルドに行けば一発だろう。


 するとだ──


「はい。王城の地下にはダンジョンがございます。ただ一般には入れませんが」

「入れないんですか?」

「えぇ。王国兵士の訓練場として使われていますので」


 あぁなるほど。


 ギルド職員の話だと、元々ダンジョンのあった場所にお城を建てたらしい。

 足元ダンジョン物件とか、当時の王様の頭は大丈夫か?


 まぁ要はダンジョンから産出されるお宝を独占したいため、というのが市民や冒険者の意見らしい。

 口には出しませんけどね──と職員さんが。


「ま、中には入れませんので、王都の冒険者さんはみなさん外のお仕事がメインなんですよ」


 外っていうのは、要は地上のモンスター退治のことだ。

 そういや王都の近くに大きな森があったなぁ。ルーシェ曰く、モンスターが好みそうな深い森だって言ってた。

 近くには山もあったし、そっちもモンスターがいるだろう。


 もっとも、この世界じゃどこに行っても、だいたいモンスターがいるんだけどさ。


 ギルドをあとにした俺たちは、再び城壁へとやって来た。 


「マスター。侵入さえしてしまえば、帰りは楽かもしれませんよぉ」


 そそり立つ城壁を見上げて、トーカがそんなことを呟いた。


「楽って、なんで?」

「ふっふっふ」


 不敵な笑みを浮かべたトーカの手に、真っ黒な鍵が握られている。

 

 マスターキー?


「ダンジョンの上に建てられたお城、ですよね。もしかするとお城の中でマスターキーが使えるかもしれません~」

「え、本当か?」


 衛兵に聞かれちゃマズいので、俺たちは少し城壁から離れる。

 そこでトーカは、ダンジョンの真上にあたる地面なんかもキーが差せる場合があるという。


「ダンジョンランク次第なのですがぁ、地面の上に立っていても感じるほどの気配ですぅ。きっとランクの高いダンジョンなのだと思いますぅ」

「ランクが高いと、地面にも影響が?」

「はいぃ。それに、お城がダンジョンの入口に蓋をするように建てられていますから、お城が一体化しているようなものですぅ」


 もちろん可能性の話だ。

 もし挿せなかったとしても、地下に逃げ込むこともできる。


「そうね。侵入者がいた場合、普通は出口になる場所を塞ぐものね」

「ダンジョンに逃げ込む馬鹿はいないにゃ~」


 ダンジョンの出入口はひとつ。常識だ。

 そんな場所に入ったら、出口を塞がれて逃げ場が無くなる。

 誰にだって分かることだ。


「けど俺たちは、別の出口を作れる」


 なるほど。帰りのルート候補が一つ増えたってことだ。


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異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~ 夢・風魔 @yume-

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