第63話:テリヤキへ

 魔法王国ルーンで王子がポーションを作り、それを持って俺たちは国境へとやって来た。


「ピリピリしてるわねぇ」

「してますねぇ~」


 魔法王国ルーンとテリヤキ王国。

 二国は険しい山を境目に国境線がある。だけど一部だけ平野部があって、ここがそこにあたる。

 

「だから小競り合いはいつもここってことか」

「わざわざ山の上で戦争なんてしたくないでしょうからね」

「でも山からこっそり侵入してきて、奇襲を仕掛けることは出来ないのでしょうかねぇ?」


 トーカがそう言うので周囲の山に目を向ける。

 岩がごつごつした山肌で、かなり遠くのほうまで木が一本も見えやしない。

 隠れる場所がない状態でこっそり侵入……いや丸見えだろ。

 たとえ夜だとしても、今度は足場が悪すぎて奇襲する側のほうが危険だ。

 滑落すれば命だってないだろうし、何よりもその音でバレる。


「出来ないだろうな」

「出来ないでしょうね」

「無理にゃー」


 だからここがまず最初の戦場になるんだろう。

 

 それにここ。山脈の切れ間といっても狭い場所じゃない。

 切れ間は数百メートルとは言わない距離がある。

 そこに壁が築かれてはいるんだけど、あちこち穴だらけだ。今のその穴の修繕作業が行われている。


「そろそろ俺たちの準備かな?」

「そうね」


 国境を通るので、もちろん検問とかがある。

 王子の近衛騎士の人が言ってたが、ルーンの国民はいかなる理由があってもテリヤキには入国できないらしい。

 ルーンが規制しているのではなく、テリヤキが規制しているのだ。

 そうなったのは10年ほど前。

 当時、仕事でテリヤキに入っていたルーン国民は、テリヤキから出国も禁止されている。

 テリヤキの情報を持ち帰るのは許さん!

 として。


 ただしテリヤキ国民がルーンに出入りすることは許可されている。

 そしてルーンも入国を拒んだりはしていない。


 テリヤキが一方的に喧嘩をしているような、そんな気がしてならないな。

 眠っているお姫様もかわいそうに。


 ただお姫様が眠ってからは、一度も国境を攻めてこなくなったそうで。

 一応、娘のことが大事だったんだろうな。


「次!」

「あ、はい」


 俺たちの番になって、兵士の下へ行く。

 身分証はルーシェの冒険者証だ。


 そこには出身大陸や出身国も書かれているが、それがルーン国民でない証拠にもなった。


「冒険者か?」

「はい。ミシュクリンから、ルーンを経由してテリヤキスタに。お勧めのダンジョンとかありますか? レベル250ぐらいの」

「ほぉ、250か。なかなかの腕前だな。んー、そうだな。王都に向かう途中にチムチ渓谷というのがある。そこに適正240のダンジョンがあるな」

「チムチですね。ありがとうございます」


 ルーシェがにっこり微笑むと、兵士は鼻の下を伸ばして満足気に頷いた。

 もうひとりの兵士はずっとミトを見ている。猫好きか。

 そのミトは門に掲げられている国旗から伸びる赤いリボンを、じーっと見ていた。

 風になびくそれが、猫じゃらしにでも見えているんだろう。

 時々「にゃっ」っと跳ねて手を伸ばすが届かない。

 そのたびに兵士が「あぁー、惜しい」とか小声で言ってた。


 本当に戦争なんてしているのかねぇ……。






「兵士の方々も、戦争は嫌々のようですねぇ」


 国境を越えてすぐの、テリヤキ側の町の宿。

 部屋ではトーカがそんな話を始めた。


「嫌々って、誰がそんなことを?」

「先ほど、食堂で話していた非番の方に聞きましたぁ」

「非番のって……え、話したのか?」

「はいぃ~」


 なんでもトーカを普通の子供だと思ったらしく、酒も少し入っていたようでペラペラ話してくれたそうだ。


「この町出身の兵士さんも多いそうでぇ。戦争になったらここも戦火に巻き込まれてしまうだろうから、嫌なんですってぇ」

「じゃあどうしてルーンを攻めたりするのかしら?」

「そりゃあ、王様の命令ですからぁ」

「王命には逆らえない、か」


 逆らった兵士がいれば、その兵士の出身地の税金が上げられる。

 兵士ひとりに対して1%とか、そんな感じで。

 

「そりゃ逆らえないよな……」

「酷い話ね」

「ただ兵士さんが言うには、テリヤキが──いえ、テリヤキスタが攻め込んでも、あちら側は防戦のみで攻め返してくることがないのが救いだって言ってますぅ」


 トーカがテリヤキに洗脳されてきたな。


 兵士曰く、


「戦力が違う、と。ルーンは魔法兵士が優れているようで、遠距離からの範囲攻撃なんてお手の物。もちろん一般の兵士さんもいますし、彼らには魔法の手厚い加護が加わるので」

「そりゃ勝ち目ないよなぁ」


 ルーシェの魔法援護でどれだけ助かっているか。

 身をもって知っているだけに、ルーンの強さが想像できる。


「対するこちら側は、ルーンを目の敵にしている王様ですからぁ」

「もしかして国内の魔術師って……」

「あぁ、追放とかされてませんよぉ。ただ魔術を学ぶ機関が皆無なんだそうですぅ」


 魔術師を目指すならルーンに行くしかない。

 テリヤキではここ数十年は、魔術を学ぶためにルーンへ渡ったら、帰国後、必ず王宮に使える義務がある──としているそうな。

 それが嫌なら帰国は許されない。


「だからそのまま国外で冒険者をやる方がほとんどだそうですぅ」

「ぷふっ。冒険者の魔術師供給に役立ってるのね」

「自滅してるんじゃないか、それ?」

「たぶんしてますねぇー。お話した兵士さんも愚痴をこぼしてましたぁ。それですねぇ、ちょっとおもしろいお話を聞きましてぇ」


 面白い話?


「うにゃっ。にゃにゃにゃっ」


 ベッドの上で丸くなっているミトが夢でも見ているのか、髭をピクピクさせて変な声を出していた。

 ただの猫だろ。


「えぇっとですねぇ……お姫様が目覚めなくなってから、王様は宮廷魔術師たちにある命令を出したそうなんです」

「目覚めさせる方法を探せとか?」

「いえ違います。ちょっと物騒な命令なんですけどぉ……目覚めさせるためには、術者の殺害もありなんですよぉ」


 え、術者の殺害って。

 くるりとルーシェを見ると、彼女は頷いた。


「ただ全てじゃないわ。ものによっては解除の呪文が必須ってのもあるし。でも大半はそうね、術者を殺せばその魔法は消えるわ」

「まさか王子暗殺を宮廷魔術師に命令したのか!?」

「ブッブー。違いまーっす」


 え、違う?


「回りくどいのですけど、王子を殺害できる力を持った人物を──異界から召喚しろって命令なんですぅ」


 ……。


 ……。


 は?

 




******************************************************


人物名とか国名とか、考えるのって面倒だよね(´・ω・`)

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