第22話:今日もワンパンですわ
タドラが全身の力を放った一撃は、漆黒の刃となり、迫る闇色の大炎球へと激突。
王都の上空で闇が爆散する。
「馬鹿な……馬鹿な!!」
自らが放った必殺の一撃が消え、王都どころか、塔すらも無事であることに、サンズが激怒する。
何よりも、自分の邪魔をするあの女が消えた。
「……ふはは!! 馬鹿め!! 自らの命を犠牲に防いだのか! ならばもう一度放てば良いだけだ!! 今度こそ王都を!! そして俺が世界を支配――」
「お馬鹿さんですこと」
サンズが、その声に反応し、上を向いた。
そこにはどこから現れたのか、ワイバーンぐらいの大きさの黒い竜が飛んでおり、その背には――タドラが乗っていた。
「空中戦で俺に勝てるとでも思ったか!! 死ね!!」
サンズがその巨体を捻り、顎を広げてタドラを黒い竜ごと飲み込もうとする。
「――あとは私がやりますわヴェロニカ。ありがとう」
「ぎゃる~」
タドラがそういって黒い竜――膨大な魔力を帯び、一時的に成長したヴェロニカの頭を撫でると、そのままその背から飛び降りた。
落ちるタドラの真下に、巨大な牙が並ぶ顎が開いていた。
「噛み殺してくれる!!」
空気を切り裂く音と共に顎が閉じられた。しかしその直前に、タドラは【竜断】を振り、衝撃波で落下スピードを緩めた。
結果、間一髪で閉じられたサンズの顎に、タドラが着地した。
「……っ!!」
「さようなら、ご機嫌よう」
再び顎を開こうとしたサンズだったが、既にタドラは黒い光を帯びた【竜断】を振りかぶっていた。
【竜断】がサンズの顎へと叩き付けられたと同時に黒い衝撃波を放つ。それは、いとも簡単にサンズの顎どころか顔ごと吹き飛し、それだけで終わらず、巨体の尻尾の先まで衝撃波が伝播していく。
同時に、巨体が上空で爆散。
肉片と血の雨となって、サンズ――だったものが王都に降り注いだ。
「流石に……力を使い過ぎましたわ……」
【竜断】の重さで、落ちていくタドラは、上空に立ちこめていた暗雲が吹き飛ばされ、晴れていくのを見た。
そして、その青空から黒い影がこちらへと猛スピードでやってきている。
「ぎゅるぅ!!」
タドラに追い付いたヴェロニカがタドラを前脚で掴むと、そのまま翼を広げゆっくりと地面へと降下していく。
その丁度下には、塔から脱出できたルーンとイディール王が立っていた。
暗雲が消え、光差す中、塔から竜と共に降りてくるタドラを見て――ルーンとイディール王は、きっとこれは伝説になると確信していた。
後に、イディール王国に伝わる伝説が増えるのは言うまでもなかった。
☆☆☆
その後、王都はとにかく大騒ぎだった。
魔物の死体や邪竜の肉片や血が王都中に溢れており、死傷者の数も馬鹿にならなかった。
しかし、王都の人々の顔には笑顔があった。
「俺は見たぜ……あの邪竜が一撃で爆散したのをな」
「マジかよ……俺は明後日の方向を向いたまま麻痺してたせいで音しか聞いてねえ!」
「いや、例のお嬢様も凄いけど、一人で何体もワイバーンを倒した冒険者がいるんだぜ?……すげえなあ」
「んなことよりさっさと家を建て直すぞ」
彼らは、伝説を目の当たりにしたということ、そしてそれを為した英雄が普通に存在し、復興に協力しているという事実に浮かれていたのだ。
「凄えよなあ……【ビートダウン】」
「ああ。王国一のギルドだぜ」
王とルーン王子によって陣頭指揮された復興作業と、伝説を聞き付けてやってきた冒険者達によって王都はすぐに以前の活気を取り戻した。
そして幾人もの冒険者が、鍛冶屋通りの狭い路地にある、とある店へと殺到したという。
「俺達にも武器を売ってくれ!!」
「ぜひ、このギルドに入れてほしい!」
その店の名は――【アゼル武具店】
「――もう武器は全て品切れです! 個別の作成依頼も来年の分まで埋まっていますので今は受け付けていません! ギルド加入についてはこちらではなく組合庁にて申請してください!」
そこでは、今日も看板娘が声を張り上げていた。
「――おい、良いから作れって言っているだろ? 俺はブラン興国のSランクギルドに所属している【劇毒のブラザ】だ? まさか知らねえとは言わせねえぞ?」
中には、客ですら輩もいる。
「知らないわ。あんたが誰だろうと、無理なものは無理」
ちょっと脅せばすぐに言う事を聞くと思ったが、思ったより強情な娘だと思ったその男はゆっくりと短剣を抜いた。
「どうやら痛い目にあいてえようだな……【ヴェノムスラッシュ】」
男が毒の刃でその看板娘に斬りかかる。しかしその刃は、看板娘が抜いた白銀の剣によって、消失した。
「へ?」
「当店での抜刀は禁止です。破った者は――」
男の首に、目にもとまらぬ早技で刃が突きつけられた。
「ぶっ殺しますよ?」
「お、覚えてろ!!」
男が尻餅をつきながら後ずさりし、去っていく。
「はあ……今日で何人目だろ……」
ため息をつく看板娘――アイネは再び営業スマイルを取り戻すと、押し寄せる冒険者達の対応にまた戻ったのだった。
☆☆☆
ある日の夜。
「くそ…… 伝説だとかなんだとかで調子乗りやがって!!」
「でも、あの店番してる女、めちゃくちゃ強いぞ」
「ああ、くそ! ぶっ殺して、伝説殺しを名乗りてえ」
暗闇の中で見当違いの恨みと怒りを募らせる男達の前に、黒いドレスを着た女が現れた。
「ふふふ……簡単なことよ。貴方達が結託して……やればいいのよ」
「お前か、ここに俺を呼んだのは」
更にもう一つの影が現れた。それはいつかの昼間に、アイネに追い払われたブラザという名の男だった。
「そうです。さあ、私が貴方達に力を与えましょう」
黒ドレスの女が歪な杖を掲げた。
「ん? なんだこれ! 力が溢レテ……ク……ル……ギュルアアアア!!」
男達が黒い光に覆われ、肉が溶けていく。気付けば男達はまるで腐乱死体のような姿になっていた。
「ふふふ、私の可愛いアンデッドとなって、この街を死の都へと変えましょう……まずは、王国一とやらの【ビートダウン】を崩しに行きましょうか」
黒ドレスの女がその男達――グールを従えて歩きだそうとしたその時。
「ごきげんよう。良い夜ですわね。ところで、【ビートダウン】という名前を聞こえましたけど?」
暗がりから月明かりの下へと、そう言って歩み出てくる人物がいた。
どこかの社交界の帰りなのか、豪奢かつ動きやすそうなドレスを来た美女だが、その手になぜか闇よりも黒い鉄塊が握られている。
「貴方……誰? まあいいわ、貴方もグールに変えて【ビートダウン】を崩す戦力にし――」
しかし黒ドレスの女が言い切る前に、黒い衝撃波に飲み込まれた。
器用に、通りの幅分だけに抑えられた衝撃波によって、女も、グール化した男達も全員粉砕される。そして、黒い鉄塊を振りぬいた美女がため息をつきながら口を開いた。
「やれやれ……今日も王都は賑やかですわね」
通りの建物の屋根の上に現れたグールの群れを見て、その美女が【竜断】を構えた。
王都がどんなトラブルや策動に巻き込まれようと、全てを一撃の下に伏す彼女の名前はタドラ・フリン・アマジーク。
後に、蛮族令嬢として世界に名が轟く――伝説の冒険者である。
蛮族令嬢、今日も元気に鈍器で無双する ~【軽装】になるほど【破壊力が増す】蛮族スキルのせいで追放されましたけど、最強のギルドを作りましたので何の問題もありませんわ~ 虎戸リア @kcmoon1125
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