第21話:邪竜ですって
王都――王宮大通り。
「……え?」
羽根のように軽いその剣に、それを振っている本人であるアイネが一番驚いていた。
何の抵抗もなく、まるで水を斬るかのような感覚で、ブラックリザードマンの身体が切り裂かれていく。
「グオオオ!!」
アイネを強敵だと認識したブラックワイバーン達が空中から一斉に火球をアイネへと放った。
普段のアイネなら、【マジックシールド】のスキルで防ぎつつ物陰に隠れてやり過ごすのだが……。
「はあああ!!――【
アイネは【魔封剣イリス】を迫る火球へと振り払った。白銀の刀身に火球が触れると、まるで吸いこまれるように刀身へと吸収されていく。
アイネが時間差で迫る火球を次々と吸収していく。
全ての火球を吸収したその白銀の刃は、ほんのりと赤く光っていた。
「ギュアアア!!」
火球が効かないと分かったブラックワイバーンが翼を畳み、アイネへと急襲。
しかし、アイネは焦らない。
「分かる……魔術を刃に乗せるのと同じ要領でやれば……っ!――【
頭上に降ってくるブラックワイバーンの群れへとアイネは剣を薙ぎ払った。白銀の刃が煌めき、刀身から巨大な炎の刃が放たれる。
それは、振られた剣の軌道の形にアイネの頭上を薙ぎ払った。
アイネの周囲に身体が切断され、火に耐性があるはずのブラックワイバーンがボロボロに焼け焦げた死体となって次々と落ちてくる。
「……あはは。なにこれ」
アイネのいる大通りの上空にいたブラックワイバーンが全て地に落ちていた。彼女は思わず、想定以上の一撃を放った白銀の剣を見つめた。
「アゼルさん……また凄い武器を……」
しかし遠くでブラックワイバーンが吼えているのを聞いて、アイネは気を取り直し、剣を構えそちらへと走っていく。
王都の上空にはまだまだブラックワイバーンが残っている。
「私がやらないと」
「ぴ、ぴぎゅう!! ぴぎゅぴぎゅ!」
「ん? あ、ヴェロニカ駄目!」
肩にいたはずのヴェロニカがなぜか勝手に、遠くに見える塔の方へと飛んでいった。アイネは制止するも、その速度は速く、すぐに見失ってしまう。
「追わないと……!」
アイネがヴェロニカを追うべく王都を駆けていく。
☆☆☆
違う場所で、奮戦していたガイラス達も順調に魔物達を殲滅させていた。
「剣は効きづらい!! 刺突攻撃が入りやすいからそこに魔術を叩き込め!!」
ガイラスが試行錯誤を繰り返しようやく見付けた攻略法で一体ずつ確実に倒していく。
剣による斬撃と魔術には強い耐性を持っているが、槍や矢といった武器にはどうやら弱いと気付いたのだ。まずは刺突攻撃で傷を付け、その出来た傷へと雷の魔術を放つ。
ガイラスは先頭に立ち、槍を巧みに使って、ブラックリザードマンを的確に突いていく。彼は幼い頃から武器全般を扱えるように教育されていたおかげで、槍さばきも達人級だった。
背後から、部下の騎士達が弓や魔術を放っていく。
「しかし……キリがないな」
遠くで、炎の斬撃がブラックワイバーン達を次々墜として行くのをみて、希望を感じるものの、やはり数が多すぎる。さらに、上空で何やら強大な魔力が蠢いているのを感じた。
「早く何とかしないと……くそ、王は無事なのか?」
気になる事は沢山あるが、今は目の前の敵を倒すしかない。
そんなガイラス達へと、ブラックワイバーンの群れが上空から迫る。
「っ!! まずい! 皆、何かの陰に隠れろ! 無理な者達は防御陣形だ!! 来るぞ!!」
ブラックワイバーン達が一斉に火球を放った。高度を下げていないせいで、こちらの魔術も矢も届かない距離だ。
「ちっ! 万事休すか!」
ガイラスが迫る火球の雨を睨む――突如結界が彼らを覆うように張られた。全ての火球が結界によって弾かれた。
「これは……まさか!」
同時に、部下の騎士達とは比べ物にならないほどの威力と精度の魔術と矢が上空のブラックワイバーンの群れへと殺到する。
「第三部隊か!!」
赤いマントを羽織った銀鎧の集団が駆けてくる。
それは対空防衛の要である、騎士団の第三部隊だった。
「ったく……遅いぜ」
ガイラスは、次々とブラックワイバーンを墜としていく彼らを見て、ようやく安堵した。これで何とかなるだろうと。
しかし、空の暗雲に雷鳴が轟くと同時に――真の脅威が姿を現したのだった。
☆☆☆
「あらあら」
黒く染まった空をタドラが見上げた。雷が走り、黒雲が渦を巻いていく。そして魔力が集まる気配し、世界が一瞬、白く染まるほどの雷光が放たれた。
タドラは手を上げ目を守ると、上空を再び睨んだ。
「ゴアアアアア!!」
大気が震え、タドラが立つこの塔までもが揺れるほどの大咆吼が王都に響き渡った。
その瞬間に――王都にいたほとんどの生物が動けなくなった。
その咆吼には、ブラックワイバーン達すらも麻痺させるほどの魔力がこもっており、麻痺したワイバーン達が次々と地面に激突していく。
「これはまた……随分と大きいですわね」
咄嗟に【竜断】から衝撃波を放ち、迫る咆吼を掻き消したタドラだけは無事であり、そして上空を睨む。
そこには、それの影だけで王都がすっぽりと収まってしまうほど巨大な竜が飛んでいた。
見た目だけで言えば、ブラックワイバーンと似たような見た目だが、頭に生えた無数の角と、額の真ん中に三つ目の瞳がある点が大きく違っていた。
「フハハ……これが……これが力か!!……かつて世界を闇へと導いた邪竜――【暗黒龍ネヴァルフスカ】。俺の血と魂と、僅かに残っていた【竜王の血】……つまりネヴァルフスカの血を合わせる事で、かつての邪竜を復活させることが出来た!! これで世界は再び竜の世界へと変わる!!」
「……言いたい事はそれだけですか?」
タドラは平然とその言葉を受け止め、【竜断】を構えた。
「もはや貴様も虫けらに過ぎない!! 王都ごと闇に消えるが良い!!――【
邪竜と化したサンズがその巨大な顎を開けた。膨大な魔力が紡がれていき、漆黒の炎球が生成されていく。
「あれは流石に、ヤバイですわね」
あれが放たれたら、最後、王都ごと消滅してしまうだろう。
だからこそ――タドラはす自分がすべき事を分かっていた。
タドラはマントを脱ぎ、防具を一つずつ外していく。
「私は普通に冒険者をやりたいだけですわ。それを邪魔するというのなら……邪竜だろうがなんだろうが――
タドラは脚甲すらも脱ぎ、裸足に、防具は僅かに下半身と胸部を隠すだけの姿になっていた。
それだけで、また力が湧いてくる。どうやらこの短期間の間で、スキルも成長したことをタドラは実感していた。
塔に上に立ち、半裸で巨大な武器を構えているその姿は――まさに神をも恐れぬ蛮族の女王が、天を舞う竜へと戦いを挑んだという神話を彷彿させた。
「ぴぎゅう!!」
そんなタドラの下に、ヴェロニカが現れる。
「ヴェロニカ!? なぜここにいますの!?」
「ぴ、ぴぎゅ! ぴぎゅぴぎゅ!!」
「そう……貴女も一緒に戦ってくれるのね」
「ぴぎゅう!!」
「ええ、一緒に行きましょう」
そう言ってタドラとヴェロニカが目を合わせ頷き合った。
「虫けらが!! 死ね!!」
サンズのその言葉と共に――漆黒の炎球が放たれる。
「私の辞書に……不可能はありませんわ!!」
タドラはここに来て――初めて全力で【竜断】を振るべく、全身に力を込めた。
【竜断】が黒いオーラが纏い、そしてそれはタドラの全身すらも覆っていく。それを浴びたヴェロニカの身体が黒い光を放つ。
「っ! 力を貸してくれますのねヴェロニカ。ではいきますわよ!!」
タドラが全ての力を込めて、迫る巨大な炎球へと――【竜断】を振りぬいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます