第6話 神
「私さ、わかってたんだ」
街を全体を望む丘に、一本の
牧草地へと向かう
山車は家々の屋根に
「アルパのために行動していたんじゃなかったってこと」
サチの言葉に「ふーん」と曖昧に返事をした。さっきから、ユーはグプタの様子が気になってしかたがない。
——こんなの無理に決まってる。
街全体を一望できるから、というサチの誘いに、なんとはなしにのってしまったことを、ユーは少し後悔していた。丘から見るよりも、街に立って見た方が安心できる気がした。
「じゃあ、食や医療の支援はあきらめるんですか?」
サチは静かに首を振ると、梢に向かって腕を伸ばした。指先からかすかに光が
「あきらめないよ。あきらめるわけない」
さらにもう一つの角を過ぎ、赤い傘がぐらりと揺れた。
「この国にはこういう言葉がある。『虎を創り給うた神を憎むべからず、虎に両翼を授けぬことに感謝せよ』とな」
揺れた傘に遅れて、悲鳴に似た人々の奇声が届いた。それもすぐ、
「なんですか、それ」
「虎を創った神様を恨むんじゃなくって、虎に翼を与えなかったことを神様に感謝しなさいっていうこと。実はね、私もそれが本当のところ、何を意味しているのかはよく知らないんだけどね」
揺れる。しなる。でもまだ、倒れない。ユーは気が気でなかった。
「サチさん、神様なんて信じてないじゃないですか」
ユーもまた、神を信じてはいなかった。
なにげなく隣のサチの表情を盗み見た。サチは宙を巡る赤い傘に見入っていた。真剣な表情で、その行方を見守っている。赤い傘は坂道を下りながら速度をあげ、最大の見せ場の一つである、マンデルの前の角を無事に過ぎたのがわかった。残りの曲がり角は三十五。まだまだ道は長かった。
「違う。私は、神様を信じている人たちを信じているの。だから、大丈夫」
サチは、ユーが今まで見たことないような、晴れやな笑顔を見せた。
「なんか、よくわかんないです」
ユーは、自分がどうしてむくれているのかわからなかった。なんとなく恥ずかしくなり、視線を街へと戻した。すると、グプタの軋む音が丘まで聞こえてくるかと思うほどに、丸太の塔がぐにゃりとたわむのが見えた。
「あっ!」
と、ユーは思わず上擦った声をあげた。それが祈りとなって届いたのか、グプタはなんとか体勢を立て直して、また何事もなかったかのように街を巡った。サチはこんな光景を五年間も見続けてきたのか、と思いながら、彼女の方に視線を向けることはできなかった。
「わかんなくてもいいんだよ。きっと君は、これからわかるから」
メェェと、一頭のヤギが鳴いた。
それを合図に、サチはにわかに立ち上がると、ユーの頭に手を置いて、ぽんぽんと埃を叩くみたいに叩いた。
「なんか、久々に
アハハハハと、サチの
「だって私、先輩だもん。さあ、街に戻ろう。
「でも、まだ——」
空には雲ひとつなかった。
「大丈夫だよ。大丈夫」
ユーはサチを見上げ、差し伸べられたその手をつかんだ。
虎の背には翼がない testtest @testtest
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