008. ギルドを設立したらセットで美少女?がついてきた件

――神の奇跡から3週間後、夕刻


 ここはユピテル王国の王宮にある謁見の間。国の威厳を示すためか部屋の中にある調度品はどれも最高級の品で揃えられている。


 俺とヘクトルお父様は顔を床に向けひざまずいていた。謁見の間の入り口から奥の玉座まで真っ赤な絨毯が敷かれている。その真ん中で2人は国王の到着を待っていた。


 2人とも黒を基調とした軍服とマントを着用している。ユピテル王国貴族の正装だ。お父様の胸には大量の勲章メダルが付いている。俺は商会長アルノルトさんに影響を受けて、父親譲りの茶髪をオールバックにしてキメていた。


 両脇には王国近衛騎士隊の隊員。全身を煌びやかな銀色の鎧で覆っており、腰には宝玉を配した剣を差している。戦闘時にこのような格好はしないが、国王と謁見の際の正装らしい。普段この騎士隊の隊長をしているお父様が言っていた。



 しばらくして護衛の騎士と共に国王と大臣が入ってきた。国王は玉座に座り、大臣は隣の机に座った。


「面をあげよ」


 ここで顔をあげてはいけない。お父様から予め教わっていた礼儀作法だ。


「良い、面をあげよ」


 2人は顔をあげる


 そこにはユピテル王国国王ブラハード・アイテルがいた。白く長い髪は緩いウェーブがかかっている。銀縁の丸眼鏡の奥には黒い三白眼さんぱくがん。立派に蓄えた白いひげを右手で撫でている。眉間に皺を寄せ、心の内を見透かすように鋭い表情を浮かべる初老の男。まさに"国王"の名に相応しい威厳があった。


「アレス侯爵よ、お主の息子がギルドを設立すると聞いている。子細を申せ。」


 低い声が謁見の間に響く。心なしか空気がピリピリしている。


 重い空気の中、お父様は咳払いをして口を開いた。


「ごほん。国王陛下、今日はわざわざギルド設立の場を設けてくれて有難うなのである!だが細かいことについて我は分からないのである!!」


 国王陛下に対して堂々と大きな声で"分かりません!"と答えるお父様。普段通りすぎて何だか気が抜けた。わざわざ時間を取ってくれている国王に対して失礼だろとは思うが、普段から近衛騎士隊長として一緒にいるし仕方ないのかもしれない。


 そんなお父様の様子に国王も気が抜けたのか眉間の皺が緩む。空気が少し軽くなった気がする。お父様有難う。国王は鼻を鳴らして口を開いた。


「ふん、構わん。息子の名はトールだったな。ヘクトルには話を聞いているが"神の奇跡"で不治の病から回復したそうだな。ギルド設立の子細を申せ。」



 ・・・お父様、神の奇跡が起こったことは言ったのね



 まあ良いだろう。


「はっ、お初にお目にかかります。私はアレス侯爵家四男トール・アレスと申します。陛下のおっしゃる通り私は神の奇跡で体調が回復致しました。元気がありあまってしまったのでギルドを設立し、社会経験を積もうと考えた次第でございます。」


 玉座の隣、机に座る大臣がメモを取り始めた。


「ふむ、社会経験か。それにしてはギルド設立とは大がかりすぎるとは思うが。いつも世話になっているヘクトルの頼みゆえ無下にできず此度の謁見を設けることになったのだ。具体的には何をするつもりか?」


 流石に"元気がありあまったし社会経験を積みたい!"などと子供っぽい理由だけではダメだよな。俺のギルドがどのようにして王国に役立つのかメリットを示す必要がある。


「科学という世界の六元素を組み合わせた魔法でユピテル王国に貢献したいと考えております。その魔法を魔法陣に閉じ込めて誰でも使えるマジックアイテムを作ります。科学は魔力さえあれば魔法を簡単に扱うことができるためユピテル王国の力になれると考えます。

 具体的な商品は既にいくつか構想がございます。ただし既存ギルドとの利益交渉がありますので、この場で言及することは差し控えさせて頂きます。」


 嘘はついていない。科学だって一種の魔法だと言える。というか科学を発動するために魔法陣を使うので正真正銘の魔法だ。


 世界の六元素という言葉も間違っていない。勝手に火水風土光闇と勘違いするようにミスリードしただけだ。


 ここで馬鹿正直に「CHONPSチョンプスを組み合わせて利用します!」と言う必要は全くない。


「科学とは全く聞いたことがない魔法だな。実に興味深い。魔力さえあれば魔法を扱えるとなれば国力が増すことは間違いない。なによりユピテル王国のために貢献したいという心意気が立派である。失敗も経験のうちだろう。トールよ挑戦してみるが良い。」


「はっ、認めて頂き感謝至極でございます。」


「ただし魔法や魔法陣に関しては魔法ギルドが存在するため、そこと揉めぬよう配慮するように。」


「かしこまりました。」


「して、ここからは事務的な話になるのだが、ギルドの名前は何にする?」


「魔法科学ギルド、といたします」


「宜しい。あとはジェイアムと事務的なやりとりを済ませるように」


 そう言って、国王陛下は護衛の騎士と共に謁見の間から去っていった。


 そして、なぜかお父様も陛下と一緒に部屋から退出した。



・・・何でだよ!騎士隊長だからってズルいぞ!調子乗るなよ!!



 まあ、すんなりギルド設立を認めてもらえて良かった。流石は国王の剣として名高いアレス侯爵家だ。転生初日にお父様の協力を得られていて良かった。お父様有難う。


 部屋に残ったのは机に座るジェイアムと言う名の大臣と両脇にいる騎士だけだ。陛下とお父様という大人物がいなくなった途端に何となく謁見の間が寒くなった気がする。2人の存在感が強すぎたのだろうか。


 ジェイアムさんが口を開く。


「ごほん。トール様でしたね、私はジェイアム・メガイラと申します。ユピテル王国の筆頭文官ぶんかんを務めております。ギルドを設立するに当たって予めギルドについて説明させて頂きますのでよろしくお願い申し上げます。」


 深々と頭を下げたジェイアムさんの頭頂部は綺麗にハゲていた。正面から見ると紺色の髪がフサフサだったため気づかなかった。ジェイアムさんのてっぺんは薄く油がコーティングされており、謁見の間の煌びやかな照明が反射して眩しい光を放っていた。


 いやいやそんなことはどうでも良い。説明を聞こう。



 ギルドを設立するには初期費用として1000万テネットかかる。そして翌年から最低維持費として500万テネット徴収される。最低維持費は毎年2の月に徴収されるらしい。現在6の月中旬なので、約半年後に500万テネット納める必要がある。


 またギルドには"ギルドランク"なるものが存在し、ギルドに入ってくる収益に応じて金・銀・銅・鉄と4つのランクに分けられる。


 鉄は年間収益が1億テネットまでの駆け出しギルドを指し、収益の20%が徴収される。


 銅は10億テネットまでの新興ギルドを指し、収益の30%が徴収される。


 銀は100億テネットまでの中堅ギルドを指し、収益の40%が徴収される。


 金は100億テネットを超える大物ギルドを指し、収益の50%が徴収される。


 徴税割合はランクが上がるごとに10%ずつ増えていくが、その分ギルドには王国から色々な権利や協力が与えられる。


 ちなみに、ユピテル王国内のほぼ全ての店はギルドに所属している。その理由の1つは王国からギルドに与えられる権利の重要性である。商売をしていると個人店レベルで日常的に問題が発生する。この時にギルドに所属していない場合、不平等な立場となってしまい自分の身を守ることができない。ギルドへの上納金を差し引いても王国から与えられる権利だけでギルドに所属するメリットは大きい。


 ギルドの決算は1の月始まりの12の月締めだ。収益の報告は毎年2の月に行い、同時に納税もする。収益の報告書はその後不正がないか王都の文官によって調査が入る。


 王国の収入の柱は4つらしい。地方を治める貴族からの徴税、国内ギルドからの徴税、王都の人頭税、貨幣の発行である。勿論この他にも細々とした税制度は存在する。そして支出は主に5つ。辺境伯へ送る防衛費、王都の維持費、近衛騎士団の維持費、ギルドの維持費、褒賞、である。


 今は平和な時代なので税制度は緩いそうだが、戦時になると軍事費のために貴族とギルドへの徴税が特に厳しくなるらしい。



 1時間後、ひと通り話し終えたジェイアムさんは、疲れて汗をかいていた。ポケットから白いハンカチを取り出して顔を拭く。そしてそのままハンカチを上の方に持って行ってテッペンを拭きはじめた。


 ――キュッ、キュッ



 ・・・いや、頭頂部のくせにめっちゃ良い音だな!



 謁見の間にあまりにも綺麗に響くので「良い音ですね」と言おうかどうか迷っていると、ジェイアムさんが声をかけてきた


「奥の部屋で国王陛下とアレス侯爵閣下が"魔法科学ギルド設立記念"と称して晩餐会を行っております。これでギルドの説明は以上になりますので奥の部屋へ向かって下さいませ。」



 ・・・魔法科学ギルド設立記念の晩餐会って何だよ!



 主役不在で何勝手に始めちゃってんだよ!


 おっさん2人がただ飲みたいだけだろ!!


 ジェイアムさんも"称して"とか言い回してくるあたり、分かってるな。ギルドの説明も真面目で分かりやすかったし何となく仲良くなれそうな気がする。


 俺は国王に感じた威厳が崩れていくのを感じながら謁見の間から退出し、廊下を歩いた先にある晩餐会の会場へと足を運んだ。




「おお、ようやく来たか!」


「うむ、ご苦労だったのである!!」


 おっさん2人は既に出来上がっていた。手にはジョッキのビール。顔は真っ赤になっていた。


「お父様も陛下もどうして勝手にギルド設立記念パーティーしてるんですか」


「細かいことは良いのである!トールもご飯を食べるのである!!」


「そうだ、子供はたくさん食べないと大きくなれないぞ!ガッハッハ!!」



 ・・・とても帰りたいし、酒くさい



 幼児の身体になってから味覚や嗅覚が鋭敏になったため、より気分が悪い。



「お父様!酒臭いの!!」


 ん?


 陛下の影にいてすぐには気づかなかったが、女の子が国王陛下に向かって叫んでいる。


「アリスごめんな〜今度パパが欲しいもの買ってあげるから許してくれよな〜」


 陛下は娘にデレデレの父親の顔になっていた。


 国王がお酒と娘に弱いことは最高機密にして良いかもしれない。こんな国王誰も見たくない。謁見の間で見た威厳のある国王ブラハード・アイテルのイメージは俺の中で完全に崩れ去った。


「分かったの!特別に許してあげるの!!」


「あ〜素直で良い子でちゅね〜流石は国王の娘アリスしゃんでちゅね〜」



 ・・・とても帰りたいし、見ててイタい



 俺は国王、いやブラハードに冷たい視線を向けていた。


 しばらくして俺の目線に気づいたブラハードは顔をより一層赤らめて気まずそうにしだした



 ・・・だったら初めから赤ちゃん言葉使うなよ!!



「ごほん、本日このような晩餐会を開いたのはほかでもない。アイテル家の秘蔵っ子、アリスをトール君に紹介したかったのだ。ほらアリス、挨拶をしなさい。」


「私はアリス。アリス・アイテル。よろしくお願いしますなの。年齢は3才なの。」


 指を頑張って3本にして年齢を教えてくれた。利口そうだ。


 サラサラの白銀の髪にあおい瞳。真っ白のドレスを着た天使のような王女様だった。


 美少女、というか完全に"幼女"なのだが、将来絶対美人さんになるな!


 ・・・だが、おい、後ろの白髪のおっさんよ


 ・・・お前だよ、ブラハード



 何で泣いてるんだよ!!!



「アリスが自己紹介をできるようになったとは。ぐすん、娘の成長が愛おしい!!」


 国王は涙と鼻水が混じった液体を服の袖で拭っている。汚いし、酒臭い。


「という訳で大切な娘アリスなのだが、私は娘を旅立たせることにした。

 旅を通してたくさん社会勉強をさせたいと思っている。旅先は魔法科学ギルドだ。勿論王族の娘であることは秘密にしておくし、私も頻繁には会いに行かない!

 これは既にアレス侯爵家に通してるし、侯爵家の屋敷にアリスの部屋も用意している。アリスの世話をする使用人も送り込む予定なのだよ。」


 ブラハードは涙を流しながら天井の方をキリッと見つめている。


 いや、なんか一大決心をした顔になっているが、よく考えてくれ。今ココ王城があるのは王都クロトの中心部だ。北側にアレス侯爵家の屋敷がある。大体徒歩で1時間くらい、馬車なら15分だ。いつもお父様は馬車で王城へ通勤している。


 旅というには近すぎやしないだろうか。お出かけ、だろう。それに頻繁には会いに行かないってたまには来るんだろうな。


「お気持ちお察しします。しかしながらアリス王女殿下を魔法科学ギルドに派遣というのは、具体的に何か手伝ってもらえるということなのでしょうか?」


「勿論だ。うちのアリスしゃ、アリスは計算が得意なのだ。家庭教師の先生よりも早く計算をするくらいだ。帳簿の付け方を教えたらすぐに覚えるだろう。アリスをギルドの経理担当として働かせてやってくれ。」



 ・・・え、めちゃめちゃ有難いのだが!?



 これからギルド運営を行うに当たって会計が面倒だなと思っていたところだった。まさに渡りに船だ。


「左様でございますか。では遠慮なく、アリス王女殿下を魔法科学ギルドでお借りします。経理担当の者がいなかったので本当に助かりました。」


「トール、私のことはアリスと呼んでほしいの。あと敬語も使わなくて良いの。」


「分かりました、できるだけ頑張ってみますね」


 またブラハードが涙を流し始めた。「娘が成長した」と感動しているのだろう。ところでブラハードはアリスをギルドに送り込むつもりだが、アリス本人はどうなのか確認する必要がある。聞いてみよう。


「アリス、俺はこの国のため、そして世界のためにこれから魔法科学ギルドを成長させるつもりだ。経理として大変だとは思うがアリスは俺に着いてきてくれるか?」


「勿論なの!アリス計算得意だから頑張っちゃうの!!」


 右手をグーにして上に突き上げて満面の笑みを浮かべている。めちゃめちゃ良い子だ。本人がやる気なら大丈夫だろう。仕事に関してはシル爺についてもらって会計がちゃんとできているか確認してもらえば問題ない。


「そうだ、トールよ。今回娘がお邪魔するので迷惑料として、ギルド設立の初期費用を王家で負担しようと思っている。つまり1000万テネット免除だ。」



 ・・・まじかよ、さっきから話が美味しすぎるだろ。帰りたいなんて思ってしまってごめんなさい。



「本当に良いのですか」


「構わん。娘の社会勉強代と考えれば安いものだ。」


「では有り難く頂戴いたします」


 この1週間後ギルドの設立許可は正式に認められ、いよいよ魔法科学ギルドとしての活動が始まるのだった。



【トール所持金】

1560万テネット


【ギルド資産】

現金 0テネット

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平凡な研究員だった俺が【六元素魔法陣師】に転生したところ最強の文明世界を作ってしまった件 タカシザニート @takashi_the_neet

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