第5話 12月21日(月)後日談

 冬休み直前、学校は午前中で放課となり、部活もいつもより長くできるようになりました。

 無事恋仲となれた先輩と、それだけ一緒にいられる時間が増えるわけで。


「こんちはぁ」

 いつもの調子で部室に入ると、すでに先輩がいます。


 ですが、描きかけの絵を前にしてただならぬ様子。

「どうかしたんですか?」

「渡辺……、これ…」

 先輩が指差した所には。


「白い…女生徒?」

 そう、エッシャーもどきの階段を、後ろ向きで上がっているセーラー服の女生徒が、白の水彩鉛筆で描かれていたのです。

「これ、先輩が?」

「まさか‼︎周りの絵と全然合ってないし、描くわけない!第一、わたしとはタッチが違う!」

 先輩はチラッと僕を見ましたが、

「渡辺には、これを描く技量がないか…」

 はい、おっしゃる通り。


「すると、誰が?」

「…言霊、かもしれませんね。あんな怪談話を作っていたから、それにひかれた霊魂が…」

「ちょっと!変なこと言わないでよ…」

 先輩が不安げな顔で僕を見ます。手は僕の制服をギュッと。

 …そんな怖がっている顔も、いいですね。




 先輩、誰か忘れてませんか?

 イラスト上手の幽霊部員、服部のことを。


 僕が電話してこのいたずらを話したら、萌え豚と言われたことを忘れてなかったようで、「あのグロ女の絵なら」と書いてくれたんですよ。白の絵なら、修正も楽ですし。

 …それにしても、服部はやはりうまいですね。10分あまりで、これだけのイラストが描けるんですから。


 なんでこんなことするのかって?

 もちろんそれは、先輩のこの顔を見たいからですよ。


 怖がる、かわいい先輩を。

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階段の怪談 〜城東高校七不思議〜 墨華智緒 @saku-taro

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