暴走動物
「空気が美味しい」
目的地に着いたので、将人はバイクから降りてヘルメットを取った。
雪乃によって連れて来られた場所は箱根。
ナノマシンによって人間の能力が上がって都市開発が進んだ今の時代であっても、箱根は沢山の緑がある人気の観光地だ。
将人は箱根の美味しい空気を肺に入れる。
「そうですね」
バイクから降りた雪乃も同じ意見のようだ。
休日箱根だから人が沢山いて、ずっと魔法師として働いていた将人に今の状況は少し慣れない。
「夕方まで箱根デートを楽しみましょう」
「デ、デート?」
「ええ。男女が二人でいるのだし、デートですよね」
雪乃の言葉に将人は驚きを隠せなかった。
今までも雪乃の二人きりになったことがないわけではないが、デート、と言われると意識せずにいられない。
「ぎゃあああ、助けてくれええええ」
差し出された雪乃の手を取ろうとした瞬間、男性の叫び声が聞こえた。
声がしたのはここから右手に数百メートルと思われる場所からのようで、声の大きさから相当切羽詰まった状態だと思われる。
大事故なのか、それとも事件なのか……木々が多くて見渡しの悪いこの場所では将人にに判断がつかなかった。
「会長、行きますか」
「そうですね」
魔法師は事件のみならず事故巻き込まれた人を魔法を使って救出することがある。
まだ正式な魔法師でないとはいえ、雪乃は魔法学院……しかも色付きだから、近くで何かあってスルーするわけにはいかないだろう。
たとえ楽しいデート中だといえど……。
将人と雪乃は急いで声のした方へ向かった。
☆ ☆ ☆
「どうしました?」
向かっている途中、将人は逃げている人に話しかけた。
後少しで目的地まで着くが、少しでも情報が多い方がいい。
単なる事故であればすぐに駆け寄って巻き込まれた人を助けた方がいい……だけど沢山逃げている人がいるので単なる事故ではないだろう。
ここ数日は纏まった雨は降っていないし地盤が緩んで崩落……なんてことはないだろうから、事件と思うのが普通だ。
「な、な……」
よほどのことがあったらしく、逃げている人はまともに話すことが出来ないらしい。
「な、何でか、動物が巨大化して……襲いかかってきて……」
ようやく話すことが出来たが、巨大化した動物が襲ってきたという異世界ファンタジーのような話だった。
だけど将人には覚えがあり、雪乃と共に急いで現場へ向かう。
「やはり……」
現場に到着した将人は思っていた通りの光景を目にした。
五メートルはあろう巨大な熊が人を襲っているのだ。
既に何人のも人が犠牲になっていて、熊の前には数人の人が血を流して倒れている。
いくらナノマシンで身体能力や治癒力が上がっているとはいえど、このままでは沢山の被害者が出てしまう。
かすり傷程度なら一日もかからず治るが、重傷になればナノマシンが活性化してもすぐには治らない。
放っておけば沢山の死者が出る。
「これは一体……」
今の惨状を見て雪乃は唖然としているようだった。
巨大な熊が人を襲っているのだから仕方ないことだ。
「ナノマシンを野生の動物に投与した結果です」
人間だけでなく、ナノマシンは動物にも投与された。
もちろん最初に投与されたのは人間ではなく、実験用に飼われていたマウスで人間は二番目になる。
実験でナノマシンを投与されたマウスは投与されていないマウスより知能が上がり、人間の言うことを聞けるくらいになった。
だから人間に害をなす動物にナノマシンを投与すればおとなしくなるのではないか、という科学者が現れたのだ。
その結果……ナノマシンを投与された動物は巨大化して暴走した。
実験で投与されたマウスはあくまで人間に飼われていた動物……だけど害になるのは自然界で育った動物……ナノマシンを投与された野生動物は本能を強大にしてしまったのだ。
暴走した動物は見境もなしに襲う。
「でも何でこんなことに……」
暴走した動物は全て魔法師によって駆除されたので、人気観光地である箱根にいるのはおかしい。
それに巨大化した、と逃げて来た人が言っていたので、ナノマシンが投与されたのは最近ということになる。
「まさか……」
動物の暴走を人為的に起こした人がいる。
だとしたら大変なことだ。
もしかしたら魔法で暴走させたのかもしれないが、どちらにせよ人為的なことに変わりない。
「いや、今は暴走した熊を止めなければ」
これ以上被害者を出さないためにも、今は暴走した熊の駆除が最優先事項になる。
今は人為的かどうかなんて考える時間ではない。
「こんなのどうすれば……」
雪乃は暴走した熊を見て体を震えさせていた。
まだ実戦経験のないのだし、怯えてしまっても仕方ないのかもしれない。
「大丈夫です。俺がいますから」
「あ……」
ギュッと雪乃の肩を抱いて自身に引き寄せる。
野生の動物で実験されていたのは大分前のことになるから将人も暴走した動物を見るのは初めてであるが、雪乃とは違って実戦経験が豊富だ。
動物が巨大化して暴走してしえば普通の人間には止めるのは難しいかもしれない……だけど将人は最強の魔法師だっので、魔法を使って止めることは出来るだろう。
「俺が止めますから会長は救急車を呼んでください」
「ええ」
将人から離れた雪乃は、携帯端末で救急車を呼んだ。
だけど熊を倒さない限り救急車は近づけないため、急いで倒す必要がある。
「おい、熊こっちだ」
まずは熊の注意をこちらに向け指す必要があるため、将人は大声で叫ぶ。
思惑通り熊は「ぐおおおお」と叫びながらこちらに向かってくる。
「
先日のデモンストレーションみたいに幻の傷を付けて痛みによる失神を狙って放つ。
だけどナノマシンによって正気を失っている熊には幻は無意味なようで、幻影の刃では傷を付けるこちは叶わなかった。
「仕方ない、か……」
ほとんど人は逃げていなくなってしまったし、今は魔法を出し渋っている場合ではない。
「
霧属性最上位魔法──幻影の空間は術者が絶対になる空間を作り出す魔法だ。
作り出す幻影を実態変えることも、相手による攻撃を幻に変えて消し去ることも、術者が受けたダメージすらなかったことにするのも造作もない。
直径百メートルの空間では将人を倒すことはもちろん、少しの傷も与えるのすら不可能だ。
ただしナノマシンが異常に活性化してしまうため、長時間の発動が出来ないという欠点もある。
将人以外に使える人はいないだろう。
今は熊が一頭しかいないので、持続時間は気にしなくてもいい。
「ごめんね。キミに罪はないけどこうするしか手段がないんだ」
幻で作った鎖を実体化させて巻き付け、将人は熊にそう言う。
一度暴走してしまった動物を鎮静化させる手段はないため、熊を殺すしかない。
「幻影の刃」
実体化した刃熊の首を切り落とした。
即死させたのせめて楽に死んでほしいと思ったからだった。
最強魔法師、追放されたので魔法学院に入学して青春を謳歌しながら幻を現実に、現実を幻にする魔法で再び最強となる しゆの @shiyuno
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