生徒会長とツーリング
ナノマシンは体内に入れて身体能力などを向上させる以外にも様々な用途で使われている。
魔法学院の制服の他にも車などの乗り物を安全に制御したり、携帯端末やパソコンの処理機能向上などだ。
魔法を使える者、使えない者問わず、ナノマシンは人間にとってなくてはならない存在だ。
「まさか本当にツーリング行くことになるとは……」
学院が休みである土曜日の朝八時、将人は雪乃とツーリングに行くことになった。
まだ十五歳の将人は免許がないため、雪乃が運転するバイクの後ろに乗ることになる。
雪乃はレザーのジャケットにデニムのパンツと、いかにもバイク乗りが着そうな格好だ。
「約束しましたから。私のバイクはナノマシンが入っていないので、レース並の臨場感を味わえますよ」
レーシング用に使われる車やバイクにはナノマシンが使われていていない。
確かにナノマシンがあれば安全に運転出来るが、レースはスピードが大事なために必要ないのだ。
ナノマシンを使って来馬やバイクのスピードを上げることは可能だが、レーサーはいかに自分の腕で勝ちたいという強い想いがあるらしい。
自分の体にナノマシン以外頼りたくないようだ。
公道では法律によってスピードは制限されてしまっていても、雪乃はナノマシンがないバイクが好きなのだろう。
「にしてもゴツいバイクですね」
とてもじゃないが、女子高生が乗るようなバイクには見えなかった。
大型なバイクの全長は、下手したら小柄な雪乃より大きいかもしれない。
いくらナノマシンで身体能力が強化されているとはいえ、女の子が簡単に扱える者ではないだろう。
「大型の方がカッコいいので。色々とカスタムしているので、凄いスピードが出ますよ」
確かに所々チューニングが施されているようだった。
本当にバイクが好きなようで、雪乃からはバイク愛が感じられる。
「よく車検に通りましたね」
「ギリギリだったんですけどね」
白い目で見ている将人に、「あはは……」と雪乃は苦笑い。
車検が通ったのであれば最低限の安全は保証されているのだろうが、若干心配になってしまう。
「今日は生徒会ないので、いっぱいバイクに乗れます」
うっとりとした表情の雪乃見て、将人はあ、これはすぐに帰ることは出来ない、と思った。
もしかしたら帰ってくる時には日が暮れているかもしれない。
普段生徒会の激務でたまったストレスをバイクで発散しているのだろう。
「ではでは早速行きましょう」
フルフェイスのヘルメットを二つ取り出した雪乃は、もう一つを将人に渡す。
ヘルメットと被り、将人は過去に円香に乗せてもらって以降のバイクに乗る。
その時は中型だったが、今回乗るのは大型のバイクだ。
魔法師の中のはバイクに乗って現場まで行く人もいるため、将来魔法師として働きたいと思っている雪乃がバイクを持っていても不思議ではない。
だけど彼女に大型バイクは似合っていなかった。
「やぁ、そこは……」
レザー越しから感じる柔らかい感触……どうやら雪乃の女性膨らみを触ってしまったらしい。
フルフェイスのヘルメットだから顔は見えないが、今の雪乃は頬が赤くなっているだろう。
彼女の声がクリアに聞こえるのは、ヘルメットに無線が仕込まれているからなようだ。
一緒にツーリング約束をしたことで購入したのかもしれない。
「すいません」
「いえ、大丈夫です」
どうやら雪乃は怒っていないようで、将人はホッと一安心。
「いきますよ」
バイクのエンジンをかけた雪乃は、制限速度ギリギリで走り出した。
☆ ☆ ☆
「気持ちいいですね」
「そうですね」
走り出してから十分、将人は雪乃に言われたことに肯定した。
バイクだから風が当たって寒くなると思い、ジャケットを着てきて正解だったようだ。
春の暖かい日差しに風が当たり、思っていたよりずっと気持ち良かった。
風の抵抗を軽減させる魔法を使わないのも、バイク乗りならではだろう。
「高速道路を使いますよ」
雪乃はそう言い、高速道路の入り口を素通りしていく。
入り口にある機械で携帯端末を読み取り、高速道路の使用料を出口で自動的に支払ってくれる仕組みになっている。
(これは帰るの遅くなりそうだな……)
高速道路を使うということは、近場じゃなくて遠出になるということだ。
魔法師をクビになったから時間が出来たので問題ないのだが、今日はずっと雪乃と二人きりだと思うと少しだけ胸が高鳴った。
既に一年の間でも生徒会長である雪乃のことは有名で、一日に一度は彼女の話を聞く。
高校生である今でも魔法師として実戦でも活躍出来ると言われており、攻防一体として利用出来る氷属性の魔法は強力だろう。
デモンストレーションで将人が勝ってしまったが、雪乃の評価は変わらなかった。
「スピード上げていきますね」
高速道路は一般道よりスピードを出せるので、雪乃はバイクの速度をさらに上げた。
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