魔法授業

「さて、今日から本格的に魔法の授業をしていくよ」


 四月の中旬、正確には将人の誕生日三日ほど前の十七日、本日から一年生は魔法の実習授業だ。

 昨日まで一年生は魔法の基礎を学び、今日から実技の授業で生徒たちは嬉しそうにしている。

 魔法の実技については基本的に実習室で行い、走りながら魔法を使うこともあるため、生徒たちは体操服だ。

 見た目はどこの学校でも採用されているような体操服であるが、制服同様にナノマシンによる痛みの軽減する効果が付与されている。


 将人の担任である春華はA級魔法師であったため、魔法実技の担当をすることになったようだ。

 教室にいる時とは違って髪が目に入らないようにヘアピンをつけており、上は生徒たちと同じ体操服だが、下はスパッツで綺麗な太ももに男子たちは釘付けになってしまうらしい。

 エッチな視線を向けられて集中出来るのか? と将人は思ったが、動きやすさを重視した結果なのだろう。


「皆さんは既に多少なりとも魔法を使うことが出来ると思うけど、今日は魔法師を目指すなら絶対に出来ないといけない初級魔法を教えるね」


 魔法学院に入学した時点で最低限の才能と魔法を使えるが、どんな人であっても基礎を忘れてはならない。

 まだ実戦経験がない高校生であれば尚更で、将来、いかに基礎を学んでおけば良かったと後悔する魔法師も少なくないのだ。


 ほとんどの人が両親や親戚などから基礎について教わっているらしく、皆「簡単だね」などと呟いている。


「先日習ったことだけど、魔法の威力は体内にあるナノマシンをいかに活性化させることで決まってくるの。逆にナノマシンを上手く活性化出来ないと、高度な魔法を発動出来たとしても、ナノマシンをより活性化させた人が放つ初級魔法に負けるの」


 そう……いかにナノマシンを活性化させることが出来るかどうかで魔法の威力が決まる。

 これは研究でも明らかになっており、ナノマシンを上手く活性化出来ないと、せっかくの魔法は宝の持ち腐れだ。

 もっとも魔法を使える時点で、使えない人よりナノマシンを活性化出来ているのだが。


「まずは火属性の初級魔法を皆に使ってもらうね」


 そう言った春華は火属性の初級魔法──ファイアーボールを発動させる。

 室内かだら手のひらサイズの小型だが、実際の魔法師はもっと大きなファイアーボールを使う。


 ファイアーボールは初級魔法であるが、使い勝手がいい。

 凶悪犯は捕まるのを恐れて山奥に逃げることもあり、暗い森の中では灯りになって体温を暖めてくれる大切な魔法だ。

 スープを暖める時にも使えるし、魔法師であれば誰もが使えないといけない魔法の一つと言える。


「じゃあ始めてね。私がOKを出せば合格だから」


 春華の一言で皆がファイアーボールを発動させる。


 ファイアーボールを発動させると酸素が消費されるため、実習室にある換気扇はフル稼働だ。

 一クラス二十人全員がファイアーボールを使えば、あっという間に室内の酸素が無くなるから換気扇は必須。


 こういった授業は外でやった方がいいのだが、魔法学院は他国の衛星で監視される恐れがある。

 一応学院内には衛星の監視から逃れる魔法がかけられているが、絶対というわけではないらしい。

 だから魔法を使う授業は外から見えない室内でやる決まりになっている。

 魔法学院は複数の実習室があるため、同じ場所で他のクラスと実技を一緒にやることはない。


 室内は燃えにくい素材で出来ているようで、生徒により放たれたファイアーボールは壁に当たると同時に消滅した。

 いや、実習室にもナノマシンが使われていて、魔法によるダメージを軽減しているのだろう。


「うわぁ、霧雨くんのファイアーボール凄いね」


 将人が発動させたファイアーボールは他の人より大きく、暑く燃えていた。

 魔法師として実戦経験が豊富な将人には朝飯前のことだ。


 将人のファイアーボールを帰郷が驚いたようにマジマジと見ている。

 他の人のは直径十センチにも満たないが、将人はその三倍以上……いかに凄いかわかるだろう。


 本当は手を抜いて実技を受けようと思っていたが、生徒会長である雪乃を倒したから少し本気で授業を受けないといけなくなった。


「はい、霧雨くんは合格ね。皆も最低でもこれの半分くらいのファイアーボールを発動出来るようにすること」


 半分程度で良かったのか、と思い、将人は自分のファイアーボールを消した。

 人それぞれ得意、不得意の魔法はあるが、どれだけ苦手でもファイアーボールはきちんと会得してほしいろうだ。


「ねえねえ、どうやってあんな凄いファイアーボール出せるの?」


 桔梗だけでなく、他のクラスメイトまでこちらにやってくる。


「そう言われても反復が重要だからな」


 将人は以前、円香に魔法を教えてもらっていた。

 今では学院長代理だが、少し前まで魔法師として活躍していたのだ。

 教わっている時に魔法は反復が大事、と聞き、将人はひたすら魔法の練習をした。


「いっぱい練習していく内に体内のナノマシンが行動を活性化していき、より強力な魔法が使えるようになる」


 魔法を発動するの重要なファクターとなるナノマシンは、練習している内に色々なことを記憶すると言われている。

 一度ナノマシンが覚えてしまえば、次からは以前より簡単に出来るようになるのだ。


「そうなんだ。今度私と二人きりで魔法を教えてほしいな」


 あざとさ全快で近寄ってきた桔梗は、上目遣いでこちらを見つめてくる。

 正直苦手なタイプであるが、桔梗のように誰にでも優しく接してくれる人と仲良くしといた方が学生生活を送るには都合がいいかもしれない。


「いいぞ。でも、まずは課題をクリアしないとな」

「うん」


 授業が終わるまでに、ファイアーボールを全員が最低限の合格点まで使えるようになった。

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