生徒会長を部屋に入れる
「ここは……」
目を覚ましたようで、ベッドで寝ていた雪乃は瞼を開ける。
気を失っていた雪乃は今いる場所が分かっていないようで、上半身だけゆっくりと起こして辺りを見回す。
「俺の部屋ですよ」
「あなたの?」
幻覚痛で失神した雪乃を抱き抱え、将人は自分の部屋に招き入れた。
華奢な体躯だったので、雪乃を抱き抱えるのは雑作もないことだった。
「はい。会長をお姫様抱っこ出来るという貴重な体験をしましたよ」
一応、保険医が実習室に待機はしていたが、単に幻覚痛で気絶しただけなので、将人自らが雪乃の看病したのだ。
「お、お姫様抱っこ……」
恥ずかしくなったのか、突然雪乃の頬が真っ赤に染まる。
「それにここは……あう……」
異性に触れられるとか部屋に来るということに慣れていないようで、今の雪乃は顔から火が出そうな勢いだ。
「すいません。勝負だったのであまり手を抜くことはしませんでした」
将人は雪乃に向かって頭を下げる。
まだ魔法師として実戦経験がない雪乃には少ししんどいかもしれないが、これから彼女は活躍しそうだと思ったから遠慮なく倒させてもらった。
敗北を知らない者は、いざ負けると脆いものなのだから。
「いえ、手を抜けれても嬉しくありませんから」
やはり雪乃は手を抜かれることは望んでいなかったようだ。
世界でも数少ないS級魔法師の実力を知っておきたかったのだろう。
「でも、あまりってことは、少しは手を抜いていたのでしょうか?」
「そうですね。手の内を全て見せたわけではありませんよ」
流石にデモンストレーションの模擬戦で奥の手を使うわけにはいかない。
それは雪乃も同じようで、「そうですね」と意味あり気に頷いた。
「ここが将人くんの部屋……匂いがいっぱい」
何やら小声で呟いた後、頬を赤くしている雪乃は掛け布団を自分の鼻の部分まで持ってくる。
恥ずかしいから顔を隠しているだけなのか、違う意味で布団を被ったのか、将人には分からなかった。
「起きたことですしそろそろ帰ります?」
男子の部屋に女子を長時間入れるのは良くないだろう。
特に罰則があるわけではないが、頻繁に女子を部屋に入れると教師から注意されることがあるらしい。
生徒の不適切な魔法使用を防ぐため、寮の廊下や共同ロビーには監視カメラが設置されているから頻繁に異性を部屋に入れると教師にバレる。
いくら同じ建物に異性がいるからといっても、節度を持って行動しないといけないということだ。
雪乃は三年生なので別の建物だが。
「いえ、もう少しいてもいいですか?」
「いいですよ」
まだ十九時前だし、門限の二十二時までは時間があるし、雪乃は起きて間もないので部屋にいても問題ないだろう。
「そろそろ夜ご飯にしましょうか?」
部屋の主である将人は問いかける。
魔法師として働いていた時は任務などがあって食事の時間はバラバラだったが、学生となった今は好きな時に食べることが可能だ。
「ご飯作れるんですか?」
「まさか……無理に決まってます」
将人は両手を上げて作れません、とアピール。
職務で忙しかったため、将人はコンビニで買ったお弁当やおにぎり、パンを主食としている。
以前は母親や円香の手料理を食べていたが、ここ数年は全く食べていない。
「私が、作りましょうか?」
未だに掛け布団で顔を鼻まで覆っている雪乃が言ってくる。
雪乃は魔法学院の生徒会長で激務に追われているし、白井家の跡取りとして魔法の修行だって毎日しているはずだ。
それなのに料理が作れるなんて凄い、と将人は素直に感心した。
「いいんですか?」
コンビニお弁当屋も美味しいが、女の子の手料理を食べれるのは思春期男子からしたら嬉しいことだ。
魔法師として働いていたとしても、将人だって人間だから女の子に興味がない、というわけではない。
「はい。看病のお礼です」
看病したのは自分が気絶させたから、と言おうとしたが、せっかく作ってくれるので口にしなかった。
☆ ☆ ☆
「会長って人気があったんですね」
一緒にスーパーに買い物に行ったのだが、男女問わず将人は嫉妬の視線を向けられた。
先ほどおのデモンストレーションで雪乃を気絶させてしまったので、よくも会長を……、という殺意の籠った視線が多くて正直居心地が悪かったのだ。
さらには美少女である会長と一緒にいれて羨ましい、という思春期男子からの視線も凄かった。
「生徒会長ですから目立つだけですよ」
どうやら雪乃には自分モテるという認識はないようだ。
魔法学院の生徒は魔法師になるために自分を鍛えるのに必死らしく、恋愛は二の次なのだろう。
沢山告白されれば自分がモテると実感出来るだろうが、魔法の鍛練で忙しい魔法学院の生徒は雪乃に告白しないらしい。
だけど好意を持っている生徒がいるのは先ほどのスーパーで分かった。
会長高嶺の花だから近寄り難い、と思っているのかもしれない。
「それよりご飯出来ましたよ」
テーブルに夜ご飯が並べられる。
デモンストレーションの後の食事だからかスーパーで売っていたステーキがメインで、シーザーサラダもあって普段はあまり野菜を摂取しない将人には有難い。
「「いただきます」」
二人して両手を合わせてご飯を食べた。
雪乃の手料理が美味しかったのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。