最強魔法師VS生徒会長

『これより、上級生対新入生のデモンストレーションを始めます』


 将人が入学して数日たった放課後、授業で魔法の実習をする実習室でこれからデモンストレーションが開催される。

 実習室の広さは一般的な学校の体育館程度の大きさで、全校生徒が入るとデモンストレーションをする広さが取れないため、関係者が数人しかいない。


 だけど全校生徒が見れるようにライブ配信が携帯端末で見れるため、暇な……いや、ほとんどの生徒や教師が見ているだろう。

 デモンストレーションは毎年開催されている恒例行事のようで、上級生と入試で主席になった新入生で行われる。


 つまりはこれから上級生VS主席の新入生による模擬戦が始まるということだ。


『上級生代表は生徒会長の白井雪乃』


 女性実況者が名前を呼ぶと雪乃が姿を現す。

 ちなみにデモンストレーションだから制服姿で、スカートの中が見えても問題ないようにスパッツをはいている。

 男子が喜びそうなパンチラシーンなどは拝めない。


 ちなみに制服にはナノマシンが使われており、ある程度は魔法攻撃による痛みを軽減してくれる。

 もちろんダメージを無効にする効果はないため、攻撃を避けるのがベストだ。


『新入生代表は霧雨将人』


 呼ばれたので将人も姿を現す。

 同じく制服姿である将人は、面倒くさそうにため息をつく。

 何故なら目立ちたくないので手を抜いて試験を受けても主席になってしまったからだ。

 学院長である円香は目立ってほしそうにしていたが、将人は平和な学院生活を送りたい。

 だからそこそこの成績で入学し、そこそこの成績で卒業したいのだ。


 幸いなのが、このライブ配信は学園の敷地内や寮にいる人しか見れないようになっているため、日本魔法団体に将人のことがバレる心配はないだろう。


『両者、準備はいいですか?』


 ある程度の距離を取って将人と雪乃は頷く。


『では、デモンストレーション始め』


 実況者の掛け声と共に上級生VS新入生のデモンストレーションが始まった。


「いきますよ」


 早速雪乃から仕掛けてくるらしく、彼女の得意な氷魔法を放ってくる。

 以前聞いたことがあるが、白井家の人たちが最初の方に覚える氷魔法──氷の刃アイスブレードだ。

 空気中にある水分を刃状に凍らせて相手に放つ魔法。


 このデモンストレーションは相手に重傷や死にしらしめる魔法は禁止されているので実際には切れないだろうが、直撃したら打撲や凍傷程度はするだろう。


「甘い」


 これくらいの魔法なら魔法師の時に何度も見てきたので、将人はすんなりとかわす。


『おーっと、会長の先制攻撃を新入生がかわしたー』


 実況されながら戦うのは実戦ではなかったことなので慣れない。


「やりますね」

「これでも新入生代表なもので」


 主席になってしまった以上はわざと負けるわけにはいかないだろう。

 そもそも雪乃は将人の正体を知っているため、あまり手を抜くと怒るかもしれない。

 雪乃は将人──霧の王に憧れて魔法師を目指し始めたのだから。


「じゃあ俺もいきますよ」


 霧属性の魔法──幻影の刃イリュージョン・ブレードを将人は発動させる。

 先日誠四郎に見せた精神を干渉させる魔法とは違って対象を問わずに幻を見せることが出来るが、その分霧属性は大変高度だ。


 刃渡り十センチほどのナイフの形状をした幻影は宙に五本ほど浮いており、猛スピードで雪乃に向かっていく。


 幻影だから殺傷能力はないが、たとえ幻でも刺さると幻覚痛が襲う。

 あくまで幻覚痛は痛いと錯覚するだけ……けれど実戦経験の少ない高校生の動きを封じるには充分過ぎる。

 実際にほとんどの犯罪者は幻覚痛で動きを封じられた。

 少しでも幻影で傷をつけることが出来れば、精神魔法で痛みを増幅させることだって可能だ。


「させません。氷の盾アイス・シールド


 雪乃の周囲に三十センチはある分厚い氷の壁が出来る。

 恐らくは高密度の炎でさえ溶かすことの出来ない氷だが、幻影の前では意味をなさない。

 幻影の刃は氷の壁をすり抜けて雪を襲う。


「きゃ……」


 氷の盾で幻影も防げると思っていたらしく、雪乃は回避行動が間に合わなかったようだ。

 辛うじて腕で全ての幻影の刃を防ぐことが出来た雪乃であるが、幻の傷が出来てしまった。


 将人は早速、精神魔法で痛みを増幅させる。


 まだ高校生である雪乃に痛みを味わわすのは気が引けてしまうが、犯罪者を追う魔法師には少しの油断が命取りだ。

 相手は手段を選ばずに逃走しようとするため、魔法師に油断などあってはならない。

 少しの傷だろうと利用して捕まえるのが優秀な魔法師。


「あ……が……」


 痛みを増幅されてしまえば、制服に仕込まれている痛覚軽減でも我慢するのは難しい。

 雪乃は痛い部分を手で抑えてその場に座りこんでしまう。

 ちなみに痛みを増幅させる魔法は将人のオリジナルだ。


「ごめんなさい。これも勝負なので」


 魔法師の世界は非情なまでの実力主義……何年も働いてきた将人には嫌というほど分かっている。

 せっかく魔法師になっても結果が出せずに止めていった人は何人もいるのだ。


『勝者、新入生代表の霧雨将人……』


 雪乃が痛みで気を失ったことにより、将人の勝利が決まった。

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