隣人は変な人

「ふう……」


 寮にある自分の部屋に入った将人は、制服のままベッドに寝転がる。

 慣れない学生生活で疲れてしまったのだ。


「にしても豪華だな」


 家具、家電付きなのは知っていたが、一人で暮らすには大きめの1Kで、防音対策もしっかりされているようだ。

 しかも電気代や水道代などの光熱費は無料のため、お金の心配がない。

 国はこうしたしっかりとした環境で魔法師の卵を育てたいのだろう。

 将人は魔法師として活躍していたので、充分すぎるくらいお金があるのだが。


 ちなみに魔法学院の寮は学年別で別れており、四階までが男子、それより上の階は女子の部屋となる。

 普通は男女別で寮を分けるのでは? と疑問に思ったが、節度を保てば男女付き合いをしてもいいということだろう。


「今日は寝ようかな」


 学校は午前中に終わって今は昼過ぎなのだが、疲れた将人に食欲はなかった。

 寮に入る前にスーパーで買ってきたお弁当は夜ご飯になりそうだ。


「ん? 誰だ?」


 来客を知らせるインターホンが鳴ったため、将人は体を起こす。


 せっかく寝ようと思っていたのだが、来客があっては寝るわけにはいかないので、玄関へと向かう。


「よっ」


 ドアを開けると私服姿の男子が立っていた。


 どことなく爽やかそうな雰囲気を持ち、立っているだけで絵になりそうな男子だ。


「誰だ?」


 見知らぬ人だったため、将人は男子に尋ねる。

 寮にいるから学院生で、しかも同じ一年であることは間違いないが、教室では見なかったので、少なくとも違うクラスなのだろう。


「俺はライトニング・フォーエバーだ」

「変な名前だな。外国人か?」


 身長は高めだが黒髪で一瞬だけ日本人かと思ったが、どうやら目の前にいる男子は外国人のようだ。

 外国人にしては日本語が堪能なので、長く日本に住んでいるのかもしれない。


「いや、ボケにマジで返されると反応に困る……」

「ボケだったのか? 気づかなかった」


 今まで同年代の人と付き合いがなかったからか、将人にはジョークというのが分からなかった。


「それで本名は? 外国人なのか?」

「いや、俺は生粋の日本人だ……」


 何故か呆れたような顔になる男子生徒なのだが、何で彼がため息をついたのか将人には分からずに首を傾げる。


「霧雨は天然なのな」


 「はあ……」と男子生徒は盛大なため息をつく。


「何で俺の名前を知っている? まさか相手の心を読む魔法が使えるのか?」


 そんな魔法があるなんて聞いたことはないが、将人が知らない魔法があっても不思議ではない。


「違う。名前が書かれているだろ」


 良く良く見ていると、確かに402と部屋番号の下に霧雨将人と自分の書かれていた。

 どうやら男子生徒はこれを見て将人の名前を知ったようだ。


「俺は401号室の雷道誠四郎らいどうせいしろうだ。よろしくな」

「よろしく」


 手を出されてので握手した。


「ところでさっきのライトニング・フォーエバーって何?」


 先ほどから疑問に思っていたので、将人は誠四郎に尋ねる。


「俺は雷属性の魔法が得意だからな。得意魔法の名前だ」

「永遠の雷……魔法は永遠に発動させられないぞ」


 魔法を発動させる時にナノマシンが活性化すると言われているため、長時間の使用は体に負担がかかる。

 発動し続けられる時間は精々二時間が限度だろう。

 それ以上の使用は体に何かしらの後遺症を残す可能性があり、法律で魔法の長時間の使用は禁止されている。


「いや、フォーエバーの方がカッコいいだろ?」

「魔法名にカッコいいとかないだろ」


 どんな魔法か分かるように魔法名をつけているのであって、事実と違うのならば変えるべきだろう。


「お前変わってるな。中学はどこだったんだ?」

「中学までは外国にいたんだ。日本で魔法の勉強したくて魔法学院に入学した」


 本当は生まれも育ちも日本だが、正体を隠すために外国育ちということにした。


「そうなのか」

「ああ」


 学友に嘘をつくのは心が痛むが、正体を隠すためにはしょうがない。


「霧雨はどんな魔法が得意なんだ?」

「俺か?」


 どうしようか迷ったが、せっかくなので魔法を見せることにした。


 将人は魔法を発動するため、手のひらを開いて誠四郎に見せる。


「え? リンゴ?」


 誠四郎言うように、将人の手のひらにリンゴが乗っていた。

 突然現れたからか、誠四郎は驚いたような顔をしている。


「俺は相手に幻を見せることが出来るんだ」


 相手の精神に干渉する魔法で、将人は幻を見せる魔法が得意。


 幻を見せるのは犯人を追い詰める際に大変重宝し、検挙率は魔法師の中でも圧倒的に高かった。


「そんな魔法があるのか。初めて知ったぜ」


 魔法で作られたリンゴを見て、誠四郎は驚いたような顔になる。


 幻を見せる魔法を使える人はほとんどいないため驚くのも無理はない。

 霧の王と言われるくらいに将人は有名人であるが、秘密にしいていた魔法を見られてもバレることはないだろう。


「てい」

「うわっ……」


 手にあるリンゴを投げてみると、誠四郎はビクッと体を震わせて後ろに逃げた。

 いくら幻と分かっていてもリンゴはリアルなため、体が勝手に反応してしまったのだろう。

 幻なのでリンゴには触れることが出来ない。


「何するんだ?」

「いや、何か変な人だなって思って投げてみた」


 投げて誠四郎の体をすり抜けたリンゴは既に消えて……いや、将人が魔法を解除した。

 幻を見せる魔法は戦闘以外であまり使うものではない。


「変なのはお前だよ」


 何故かツッコミされてしまったが、どうでもいいや、と将人は思うのだった。


 

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