第12話:星の魔女について・謎Ⅱ

 オレとリニスはネックレスの宝石が指し示している、北の方角へひたすら飛んでいた。


 だがいくら飛べども、光がもっと具体的な場所を示すことはない。ただ北の方角を指し示すだけ。


 正直な話が、いったい北のどこへ行けばいいのか、分からないでいた。


「……ねぇシオン、ほんとにその光の指す方角に進んで良かったの? それらしいの何にも見えてこないよ?」

「……そうだな。けど、ただ光ったってわけじゃなく、明確に北の方角を指している以上、全く意味がない、なんてことは無いと思う」

「まぁ。それはそうかもだけど」

「……一旦どっかで降りて休憩にするか」

「さんせー」


 そうしてオレ達は一度草原に降り立ち、途中立ち寄った村で買っていたパンを食べる。


「ん~、おいしい!」

「ああ、表面が固いから、食べにくいのかもって思ったけど、中がフワッとしてるし、バターが良い感じに効いててうまいな」


 のんびりとパンの味と食感を楽しみつつ、オレは星の魔女のことを考える。


 そもそも、本当に星の魔女の所有物だという確証すら無いわけで……。


 けどそうだと仮定した場合、今度はアリスが言ったように罠という可能性もある。オレはそうではないと思いたいが、事実、オレは彼女の人となりをほとんど知らないし、否定し切れないのは確かだ。


 だが、もしこれが意図的にあの場所に落としたとなると、やはり何かしらの狙いがあるのではないか?


「……オン…………ねぇ、シオンってば!」

「オワッ!? ……なんだよリニス」


 急に大きな声を上げたリニスに驚き問いかけると、彼女はムスっとした顔をした。


「なんだじゃないよ、さっきから呼んでるのに、全然返事しないんだもん」

「あ、ああ……いや、悪かったよ。ちょっと考え事しててさ」

「それって星の魔女のこと?」

「ああ……このネックレス、本当にただ落としただけなのか、とかさ」

「ん〜……星の魔女のことは、シオン以上に知らないから、何とも言えないけど。もしワザと落としていったのなら、どんな意図があるんだろうね」

「さあなぁ…………。いずれにしても、この光の指す方へ進む以外、今んとこ選択肢は無さそうだな」

「だね」


 オレ達は休憩を終えて、再び空を飛ぶ。


 またしばらく飛び続けるものの、やはり見えているのは草原ばかり。


 これは一度方向転換して、どこか宿を探した方が良いかと思った時、リニスが声を上げる。


「あ! 見てシオン! あそこに村っぽいのが見える!」


 指した方を見てみると、確かに村らしきものが見える。


 ただ……。


「なんか煙が立ってないか?」

「本当だ。……あそこも温泉地、なんてことはないよね」

「だろうな。……なにかあったと思うのが自然だろう」

「だね。行ってみよう」


 リニスはホウキの向きを変えて、オレ達は村の方へと向かった。



 宿らしき建物の前に降りると、騒がしくしている村人の一人に話しかける。


「なぁ、何かあったのか? 煙が立っているが……」

「ああ、外から来たのかい? ……実は、つい先ほど魔物の襲撃に遭ってしまってね」

「えっ、大丈夫だったんですか!?」

「ああ、幸いなことに、とても強い魔法使いの方がこの村に訪れていてね。その魔法使いがあっという間に倒してくれたんだ」


 その話を聞いたオレ達は、つい顔を見合わせる。


「ねぇシオン、その魔法使いって……」

「ああ、おそらくな」

「……? どうかしたのかい?」

「あ、いえ。その魔法使いって、今はもう?」

「うん、魔物を倒した後、すぐに去っていってしまってね……出来ればちゃんとお礼をしたかったんだけど」

「……そうか」


 完全に入れ違いというか、もう少し早く来ていれば、その魔法使い……星の魔女に会えたかもしれないが。


「まぁしょうがないね……元々そんな簡単に会えるなんて思ってなかったんだし」

「……そうだな。焦らずゆっくり、だな」

「そうそう、それでいいんだよ」

「……二人はあの魔法使いの知り合いなのかい?」

「彼はそうですね。ワタシ達、その魔法使いを探してるんです」

「そうなのか。それなら、彼女は向こうの方角に向かっていったから、君たちも行ってみるといい」

「ん、ありがとう」


 彼が指したのはネックレスの光が指す方角と一緒だった。やはりこのネックレスは彼女の物で、おそらく彼女も同じ方角へずっと進んできたんだろう。


 であれば、確かに焦らずとも、いつかは会うことが出来るだろう。


「けど、今から向かうと日も暮れてしまうし、途中に宿は無いから、今晩はここに泊まっていくといい」

「うん、そうするよ。ありがとう、おじさん」

「ありがとうございます!」


 オレ達はお礼を告げて、宿へと入った。



 一室を借りて、オレ達はベッドに横たわってのんびりしていた。


「一応それらしい収穫はあったね。そのネックレスの光と、星の魔女らしき魔法使いが向かう方角は一緒だってこと」

「ああ、だからこの光に従って行けば、おのずと星の魔女に会えるってことだろう」

「けど、どうしてその光も星の魔女も、ずっと北を目指しているのかな」

「……分からないが、北の方に何かがあるんだろうな。星の魔女にとって、大切な何か」

「ん~……、お宝とか?」

「それで喜ぶのはむしろリニスだろうに」

「えへへ」


 リニスは向きを変えて俺の右腕に抱き着くと、目を瞑って顔を腕にうずめた。


「……そろそろ寝るか」

「うん」


 灯りを消して、布団を掛け直すと、リニスはすぐに寝息を立てた。


「……相変わらず寝付くの速いな」



 元々彼女に感謝の気持ちを伝えるために探していただけのはずが、、妙に規模が大きな話になりつつあることを、少しだけ実感しながらオレも眠りにつくのだった。

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オレとワタシの世界の旅路-星の魔女- 高町 凪 @nagi-takamiya

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