第9話  つぼみの告白

「やめて! やめて! ダメ!」


 うちは恥ずかしくて息が止まりそうだった。するとピンクと水色と白のキャンディーは景太の方に飛んでいった。


「うわっ!」


「景太?」


「これキャンディー型のドローンか? すげえな どうなってんだ?」


はあ、ため息。うちが知りたいよ。


「うち、わかんないから、上げるよ」


「くれるの? ほんんとか? やった! ありがとう!」


「どういたしまして」


「取説とかないのか?」


「なにもないよ。ごめんね」


「いや、いいよ。なんか今日、お前、謝ってばっかりだな」


 こいつはひょっとしてアイラブユーって英語の意味、知らないのか。


「俺、つぼみに告白されたのかと思って焦ったよ」


 ――なんだとぉ!


「そんなわけないもんな。あははは」


「……」


「つぼみ? おーい、どうした?」


「はああぁぁあああl、とうっ!」


 うちは仕切り板を真っ二つに蹴破った。         


「つ、つぼみ……」


 三本のキャンディーを握った景太が、東京湾に出現したガッディーラを見る目で、うちを見た。泣けてくる。なんで、こうなっちゃうんだろう。涙が止まらなくなっちゃった。


「バッカ野郎! うちは景太が好きなの!」


 もう知るもんか。うちは部屋に戻って頭からベッドに飛び込んで蒲団ふとんをかぶった。


「つぼみ」


 すごく近いところから景太の声がしたんでビックリした。

 蒲団をどけたら景太がベッドの脇に立っている。


「なんで来るのよ!」


「だって仕切り板、無くなっちゃったから」


 もう一回蒲団を被ろうとした手を押さえられた。


「つぼみ、ゴメンな」


 真っ赤な顔の景太がうちの目を真っ直ぐに見つめた。すると。


「仕切り板が破壊されている!」


「誰の仕業だ、これやったの!」


「火球じゃない?」


 ベランダが騒がしい。両家の親たちが惨状に気づいてしまったようだ。


「俺がやったって言うから、つぼみは黙っとけよ」


 景太は素早く耳打ちするとベランダに出て行った。


「すいませーん。俺がやりましたあ」


「違うの! うちがやったの!」


 うちは慌てて追いかけた。


 親たちはうちらを眺めて肩をすくめたり、ため息をついたりした。


「では、この二人がやったということで」


「修理費は折半ですな」「申し訳ないです」「いや、こちらこそ」


「景太、今月こづかい無しね」「つぼみもよ。反省しなさい」


「はい、では解散」「お疲れ様でした」「お疲れでした」


 家族と一緒に自分の家に引き上げながら、景太が振り向いた。


「お や す み」の形に口が動いた。


「お や す み」真似して口パクした。


 お休み。また明日ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初恋キャンディー <モフモフコメディ>甘い扉 Ⅳ 来冬 邦子 @pippiteepa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ