第4話

平和な時が崩れるのはいつの時も突然訪れる

なんの前触れもなく、なんの予感もなく

あったものは突然消える。


いつものように螢は心穏の病室へ向かう

今日する話の事、話したいこと、聞きたいこと

考えて、心を弾ませて

いつもの通り向かう。


コンコン

2度ノックをして扉を開ける

その瞬間どこか変な感じがした


いつもの病室、いつもの時間、のはずだった

しかし病室に心穏の姿はなく


風がカーテンを揺らすだけだった


すぐさま体は動く、走る

見かけた病院で働く人全員に話を聞く


ここの病室にいた心穏という子は

どこに行ったのかと


みな目を伏せ暗い顔をした

自分でも驚くほどに必死だった、慌てていた、

焦っていた


しばらく何も言わないと

そう思った時には次に話を聞けそうな人を

探し、行動を始めていた。



背後で「あっ、ちょっと螢君!」と

呼ぶ声など耳には入らなかった


探すこと30分、病院内を駆けずり回り

ようやく見つけた心穏はたくさんの看護師に囲まれ

医療用の機械で繋がれ眠っていた


「心穏!心穏!心穏心穏心穏!

なあどうしたんだ目を開けろよ!なんでこんな…

変なところにいるんだ!まだ昨日の話の続き…

終わってないじゃないか!」


駆け寄り声をかける

「ちょっと君、あまり近づかないで!」と

羽交い締めにされ引き離される


「何すんだ、やめろ!離せ!心穏に何をした!」


「暴れないで!危ないから!」


「いいから離れなさい!」

と、辺にいた看護師達から注意を受け

部屋から追い出されそうになる


「どうして俺から大切な人を奪うんだ!

やめろ!やめてくれ!もう嫌だ失うのは嫌だ!

心穏!返事を!起きろよ!」


初めて涙を流し叫び散らかした

両親の時に出せなかった感情が今ここで出た。


どうして出たのか、目の前で大切な人が

いなくなるか、いなくならないか

彼にとってはその違いが心に影響した


「目を開けてくれよ…声を出してくれよ…!

俺はお前が好きなんだ…もっと話していたい!

笑っていたい怒っていたい触れ合いたい

これから先もずっとお前と一緒にいたいんだ!」


螢、魂の叫び


それも虚しく応えなく病室から追い出される。


「う…うう…うあああああああああ!」


彼は泣いた、泣いて泣いて泣いて

涙が涸れる頃、病室のドアが開く


「螢ってやっぱりアホよね」


声がかけられた


「えっ?」

信じられなかった

二度と聞けないと思っていた声が


「どうして……」


あのさ…と、口を開く


「どうして健康診断に割り込んできて

告白まがいなことしてんのよあんた!」


「へ?」

素っ頓狂な声が出た


「健康診断だって言ってんでしょう!

しかもあの時私服きてなかったんだからね!

ほんっっとありえない!バカ!アホ!変態!

エッチ変態スケベ!」


そこから先は顔を真っ赤にした

心穏と、その周りにいた看護師達から

一日中怒られた







そして、心穏が退院し

螢も通院の必要がなくなるまで

健康診断を受けている裸の女子に

愛の告白をし泣きじゃくった男がいる、と

その噂でいじられ続けた。





そして2人は…






いつまでも幸せに暮らしたという。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冬に降る暖かい雪 一条 遼 @DAIFK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る