第3話

それからしばらく彼女の元に通い

たわいもないことを話、別れを告げ

一日を終えることが日課となった


お互いのプロフィールを言い合ったり

螢(ほたる)という名前と

心穏という名前であだ名を作りあったり

でも呼ばないから結局名前で呼びあったり

ポテチの袋をどこから開けるかで議論したり

窓から見える車のナンバーを当てたり外したり

何も無いからこそ平和な時だった。


でも、お互い、なぜここの病院にいるのかだけは

1度も口にしなかった

それを口にしてしまえば

この日々が終わる、そんな気がしたからだ。


「は?何言ってんの螢ってアホ?

1番過ごしやすいのは春だって!」


「いやいや、心穏こそ何を言っているんだよ

秋に決まってるでしょう?!」


「なんでよ!春だってば!

桜も咲いて綺麗だし、新しいことが始められるし

適温だし、風は気持ちいいし、心跳ね踊るし!」


「秋だって!紅葉が綺麗だし、涼しいし

お月見あるし、運動にも、食事にも適してるし!」


「ぐぬゆぬ、はっ、秋なんてまだ暑いじゃない!

運動に食事なんて年がら年中できますし〜」


「春なんて虫やらなんやらが起きるじゃん!

あれがホントダメまじダメ絶対だめ」


「……螢って名前が螢なのに虫ダメなの…」


「そ、そんなん関係ないだろっ!」

と、白熱したバトルが続く


傍から見たら他愛もないことで喧嘩して

なら、一緒に居なきゃいいのに、と思うだろう

それでも螢はそこへ通い続けた


心穏と話している時だけは

悲しみも何もかも忘れられたからだ


そしてその日々がいつまでも続くと

勝手に思い切っていた。



そんなことは決してあるはずもないというのに


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