内部からの崩れ
セイリッド王国の町中で、傷だらけで倒れている女性兵士を見つけた私とセレナ。セレナの希望もあって彼女を治癒魔法で助けることにした私たちは、一旦彼女をセレナの部屋へと連れて行った。とはいっても、この行動がこの国の闇を洗い流すきっかけになってくれると私は心のどこかで期待していた。それから1時間ほどが経過し、女性兵士はようやく目を覚ました。
「・・・こ、ここは?」
「よかったー、気が付いた!」
「えーっと、あなた方は?あれ?傷が・・・ない?」
「大丈夫!私たちは味方だから。ゆっくり、1つずつ説明するから」
見知らぬところで目が覚めて動揺している女性兵士に、セレナは優しい口調で彼女をここまで連れてきた経緯を説明した。最初彼女は小刻みに震えていて、どこか怯えているような感じだったがセレナの持ち前の明るさに次第に心を開き始め、少しずつ笑顔を取り戻していった。こういう状況には、やはり彼女の性格が最も頼りになる。
「なるほど、そういうことだったのですね。この度は、助けていただいてありがとうございました」
「お礼なんていいよ。私はセレナで、こっちは・・・アネミン・・・だっけ?」
私が神だとバレないように自分で勝手に名前つけといて、勝手に忘れるんじゃないよ。なんか存在を忘れられたみたいで、悲しくなるでしょうが。
「セレナさんと、アネミンさんですね。私はミーティアといいます。よろしくお願いします」
「ミーティア・・・流れ星って意味ですよね。素敵な名前ですね」
「ありがとうございます」
「ところで、1つ聞いてもいいですか。国の兵士であろうあなたが、どうして傷だらけで道の真ん中に倒れていたんですか?」
「そうですね、助けていただいた恩義もありますし、話さないわけにはいかないですよね」
ミーティアはそう言うと、これまでの出来事について語ってくれた。ミーティアによると、この国は今まさに崩壊の危機に面しているという。私欲にまみれた国民からの税の徴収。その税の使い道のほとんどは、城や外壁を大きくするといった外側に目を向けたものばかりで、内側から腐食が進んでゆく日々。そんな政策に不満を持つ兵士は、領主に考え方を変えてほしいと毎日のように話し合いを試みたが、領主は聞く耳を持たない。
結果、領主に対し絶望を抱いたこの国の約半数の兵士は国と国民を捨て、この地を去った。ほんの1ヶ月前の出来事だそうだ。それでも領主は危機感を抱くことはなかった。そもそも領主は国の兵士さえも自分の道具としてしか見てないかった。”道具など壊れようがなくなろうが、私の権力さえあれば簡単に手に入る”。まるで、店から物を買うように、金さえあれば人間であっても簡単に自分の持ち物として利用することができると本気で思っていたようだ。まあ、その金も自分で得たものではなく、国民から無理矢理徴収したものだろうが。
だがそんな考え方に従おうとする人間はいるはずもなく、1ヶ月もの間、新たな兵士が国に加わることないまま残った半数の兵士が国のすべての政治を行っていた。そんな彼らにもとうとう限界が訪れようとしていた。もうこの国の領主には従ってられないと、残された兵士たちの間で領主を討つ計画が秘かに企てられていた。その計画の先頭にいたのがミーティアだった。今は亡きこの国の元隊長だった父から、幼き日から鍛えられ続け、1ヶ月前までは18歳ながらこの国の副長になるまでの実力をつけた。その時の隊長は1ヶ月前に半数を引き連れてこの国を逃亡してしまい、今では隊長として兵士たちのモチベーションを保ってきたが、それももう限界だった。
昨晩、ミーティアは他の兵士に領主の十字架を背負わせたくないと、一人で最後の望みをかけて領主に直談判を行った。
「結果は見てのとおりです、最終的に領主の首をこの手で討ち取ろうとしましたが返り討ちに遭いました」
「ちょっと待ってよ、ミーティアって副隊長だった実力があるんでしょ。領主がミーティアに勝つ要素なんてどこにも・・・・」
「セレナ、それは違うぞ」
「え?」
この世界の領主たちは、皆己が武力によって成り上がってきた者ばかり。まだ領主という概念がなかった頃から、世界の各地で争いがおこり、その争いの中で勝ち残ってきた者たちが領主へとなったのだ。今では世代交代が所々で起こり始め、武力のない者が領主になってる国も出始めてはいるが、それは極少数。殆どの国では成り上がるために用いた武力をそのまま維持している領主ばかりなため、兵隊よりも領主の方が、権力にしても武力にしても強いということが今の世界の常識である。
「そんな・・・」
「この国の領主は攻撃魔法を使った戦闘が得意なのです。近距離攻撃の剣技しかない私は、その力には到底及びませんでした」
「その領主は今どうしてる?」
「分かりません。その後、私をごみのように外に放り出されましたので、それから先のことは何も」
その領主が今回のことを彼女の独断と考えているなら、このままで終わるはずだが、今日の街の様子からしてみれば今回の出来事はこれで終わったとは思えない。
「私たちは、この国のことを調べるために朝から国民に聞き取りを行っていたのだが、その中で妙な話を聞いた」
「妙・・・とは?」
「国の中心にある城の中から、朝から男の人たちの叫び声が聞こえたって。国民の人たちは最初何かの訓練かと思っていたようだけど、訓練にしては殺伐としていたって」
「まさか、それって・・・」
「残った兵隊たちが、領主に抗っている可能性がある」
ミーティアと接触するまで、その情報は頭の片隅に保管している程度のものだった。まさか内部から領主に抗おうとする者がいたなんて夢にも思わなかったから。だが、ミーティアの話を聞いたその瞬間、私の決意は固まった。この国は今すぐにでも変わろうとしている。ならば、力なきものに手を貸すことが私の役目なのだと。
「セレナ、これから城へ向かうぞ。この国の領主の成り上がりを終わらせる!」
「思ったよりも短い旅になりそうだね」
「私もこの国の闇のすべてが領主によるものだとは思ってもいなかったからな」
セレナはこの旅がもうすぐ終わってしまうのかと思うと、結構残念そうな顔をしていた。今回はセレナの期待する旅になりそうにはないが、変えなければならない国はここだけではない。だから落ち込まずとも、これからも旅は続けていかなければないのだがな。
城へ向かおうとする私たちをミーティアは慌てて止めようとした。
「ちょっと待ってください!城に行って何をしようとしているんですか?」
「ああ、そうだよね。私たちはね、この国を救うためにここに来たんだよ」
「え?」
「違う違う!いや違くはないけど、その言い方だと目的と手段が逆転してるし、勘違いされるからやめろ!」
私たちは元々、この国の住民を私たちの国へ勧誘するためにこの国に来た。確かにセレナの言う通り、この国を救わなければ国民の勧誘は難しいと判断し、最終的に目的はこの国を救うことに変わった。だが我々は、結果的に救うことになったとしても英雄になるつもりはない。
「私たちは、自分たちの目的を達成させるためだけにこの国に来た。それを達成するためには、まずはこの国を救わなければならなくなった。ただ、それだけだ」
「その目的とは、いったい・・・」
「それを話すのは、すべてを解決した時だ」
「・・・ならば私もお供させてください。あなた方の目的がどのようなものかは分かりませんが、それが我々にとって不利益なものではないはず。それにもし成功したとして、隊長としてこの国の結末を見ておきたいのです」
「分かった。ただし手は出すなよ。奴を制裁するのは私一人で十分だ」
「承知しました」
いよいよ、世界を再構築するための第一歩を歩み出す時がきた。
絶望世界の世界再構築 プロミア @anemoi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。絶望世界の世界再構築の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます