動き出す国
セイリッド王国の城内。
「国王様、このような国法のままでは我が国はいずれ滅んでしまいます。どうか、国民の声にも耳を傾けてくださいませんか?」
「なぜ、私がそんな下等な者どもの戯言を聞かねばならんのだ。国民は国民らしく、私のために金を納めておればそれでいいのだ」
「しかし、このままでは・・・」
「ええい、うるさい!お前はいつからこの私と対等に口が利けるようになった?そんなに心配なら、お前が直接国民どもから金を巻き上げてくればよかろう」
「国民を自分の道具のように・・・もうこれ以上何を言っても無駄なようですね・・・仕方ありません!」
「な、何をする気だ!?」
静寂だったセイリッドの夜に、数十分にわたって金属音が鳴り響いた。
翌日、セイリッドの宿で一夜を過ごした私たちは、この国の闇を洗い流すためさっそく町への聞き取りを開始した。この国に来た時から、国民の様子はどこか沈んでいるように思える。その原因はほぼ間違いなく領主にあるだろうが、確実に国民を我が国に受け入れるにはその原因を事細かく知る必要があった。
「それにしても昨晩のあれ、なんだったんだろうね」
「あれとは、何だ?」
「気付かなかったの?夜中にカーンカーンって音が町中に響いて、町ではちょっとした騒ぎになってたんだよ」
「寝てて気づかなかった」
「・・・うそでしょ」
彼女は私に対して目を丸くした。えっ、そこまで驚かれることなの?その騒音とやらは寝付けないほど大きなものだったのか?その中で寝ていた私が、そんなに信じられないのか?おいやめろ、そんな目で私を見るな。
「まあ、そんなことはどうでもいっか!そんなことよりさ・・・」
なに人の心に得体の知れない傷を植え付けた状態で、勝手に話題変えようとしてんの?だめだ、この子の脳内は解剖でもしない限り、一生理解できる気がしない。
「相変わらずこの国の人たちは、雰囲気が暗いね」
「・・・ああ。確かに生きるだけのためにこの国で暮らしている感じだ」
私とセレナはさっそく国民への聞き取りを開始した。その結果、この国の問題点がいろいろと判明した。やはりこの国の最大の問題は金に関することだった。この国にも税金という制度が存在するが、その税金の使い方というのが完全に領主の私欲を満たすものでしかなかった。そのせいでこの国の外壁と城のみが異様なほど豪華に造られていた。
それでも国民がこの国に住み続ける理由は、この国が建っている場所にあるという。これが二つ目の問題だ。この国は広い荒野のど真ん中に建っており、他の国へ行くにしても大人の足で数日は掛かる。そのため商人の出入りが少ないうえに、商人の持ってきた商品のほとんどを領主が買い取ってしまい、国民に残るのは今日を生きるだけで精一杯の必要最低限な食糧のみ。例えこの国を出ていこうとしても、荒野の途中で力尽きてしまう。だから国民は、ここから抜け出そうにも抜け出せないまま、未来のない金を領主に払い続けている。
「思っていたよりもずっとヤバい奴みたいだね、この国の領主は。この国の場所もそれを狙って建てたのかな?」
「さすがにそれはないだろう。単純にこの地ならば他の領主が手を出せないと考えただけであろう。結果的にいろんなものが歯車のようにうまく噛み合って、奴を領主に成り上がらせた」
「それで、ここからどうするの?勧誘しようにもここの人たちは皆、領主に対して強い不信感を持ってるし、そう簡単に私たちについてきてくれるとは思わないけど」
セレナの言う通り、ここの国民たちの領主に対する心の闇はかなり根深い。蛙の子は蛙というように、ここの国民にとって領主代わりは結局領主でしかない。つまりは領主は誰になろうと何も変わらないという認識が定着しつつある。それもまた国民がこの国を出ていこうとしない理由の1つでもあった。どの国に行こうともそこで見てきたのは、領主による私欲が入り混じった政治と未来のない金を国に寄付し続ける国民たち。もはやどこに行こうとも未来は変わらないと悟った彼らは、領主に対する希望は諦め生きるために領主の奴隷へと成り下がったのだ。
そんな彼らからしてみれば、私もここの領主と何も変わらない評価を受けることは目に見えている。であるならば、やはりここは元凶の源である領主を叩く他ないのだろうか。だが、それは他の領主がこれまでやってきたことと何も変わらない。ただ武力同士をぶつかり合わせ、勝者のみがすべてを得るという構図。それに私は人間と対等な位置にいられるよう、なるべく神の力には頼りたくはない。まだ解決の糸口を見つけ出すには早すぎるような気がする。幸い、私たちにはまだ時間はある。もう少し時間をかけてでも、ゆっくりと答えを見つけていこう・・・と、思ったその瞬間。
「誰か!誰か治癒魔法の使えるものはいないか!?」
突如町中に国民と思わしき人物の叫び声が響き渡る。
「ケガ人でも出たのか?」
「ねえ、ちょっと行ってみない?」
これが俗にいう野次馬というやつなのだろうか。特に何もすることもないのに、興味本位でとりあえず見ておこうとする気になる。いったい何が人間の興味をそこまでそそらせるのか、この出来事に興味が全くそそられない私にとっては理解し難いものだった。セレナに言われるままついていくと、そこには鎧を身に纏った女性がうつ伏せで横たわっていた。見たところセレナと同年代のように見える。
「大丈夫!?」
セレナがあわてて女性を仰向けにすると、女性は苦しそうな表情で歯を食いしばっていた。彼女が通ってきたであろう道を見てみると、ところどころに血痕のようなものが見受けられる。何者かに刃物で傷をつけられ、這いずりながらここまで逃げてきたというところか。さらにその道を奥まで辿ると、そこには城があった。
「アネ・・・ミンは治癒魔法が使えるよね?お願い、この子を治してあげて!」
セレナにしては珍しく、この公の場で私が神であるとバレないように気を使ってくれた。しかし、アネミンとは咄嗟とはいえ、また随分と可愛らしい名前を付けられてしまった。それでも、この場にいる人間に私が神であると知られないようしてくれた彼女の行為に、文句など言えるはずもない。
そんなことよりも、今は怪我で苦しんでいる彼女をどうにかしなくては。私だって、いくら神の力に頼りたくはないといっても、目の前で苦しんでいる人間に対し、力を使うことを躊躇する非道になどなりたくはない。とはいっても、ここでは人の目に神の力を堂々と見せつけてしまうことになる。私たちは彼女を一旦、セレナの部屋へと連れていき彼女に治癒魔法をかけた。人間の治癒魔法なら完治するのに数日は掛かりそうだが、神の治癒魔法の前ではこの程度の怪我、30分もあれば完治する。女性は治癒魔法をかけるとしばらく眠りについた。怪我で苦しんでいた分、精神面もそれなりに疲労していたようだ。
「見た目から察するに、彼女は国に仕える兵士のようだな」
「へー、凄いね。私と同じぐらいの年なのに、もう国のために戦っているなんて。でもどうしたんだろうね、この怪我」
「傷は比較的新しい。だが、今日の聞き取りでここ数日は戦争など交戦はなかったと聞く。であるならば・・・」
「彼女を傷だらけにした犯人は・・・この国の人?」
「十中八九間違いないだろう。だが憶測で行動するのはよくない。話の続きは彼女が目覚めてからだ」
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