名探偵は恋の真実を見つけられるか?

タマゴあたま

名探偵は恋の真実を見つけられるか?

「それで相談というのは……」


 目の前に座っている女性は体をもじもじさせ言いよどむ。

 家族でも友人でもなく、素性の知らない探偵に相談するくらいだ。ためらうのも無理はない。


「ゆっくりで良いですよ。時間ならありますから」


 事務所の看板に「名探偵」と書いてあるものの、依頼なんてほとんどこない。

 依頼がないので近所のおばあちゃんの話し相手になることもある。

 それにしても、依頼主の女性は気づいているのだろうか。


 であることに。


 おそらく気づいていないだろう。何年も前のことだし、当時は太っていて髪も短かった。今は長髪を後ろで束ねているし、ダイエットを頑張ってなんとか痩せた。

 僕は彼女が好きだった。というか、今も好きだ。

 だから彼女の名前を聞いた時は驚いた。こんなところで再会するなんて。


「相談というのは恋愛のことでして」

「はい? 恋愛?」


 間抜けな声を出してしまった。


「恋愛相談なら専門の人にしたほうが良いのでは?」

「いえ、そうではなくて。私の想い人を探してほしいんです」

「なるほど。それで探偵ですか」

「その想い人というのが高校時代の同級生なんですけどね。一年生の頃から好きだったんですけど、一年生と二年生の時はクラスが別で。三年生で同じクラスになれた時は嬉しくて眠れなかったほどだったんです」


 高校三年生ってことは、僕と彼女が同じクラスだった時か。

 まあ、僕ってことはあり得ないだろう。もしかすると僕の友人かもしれないな。

 三年間も好かれていたなんて羨ましいやつめ。

 ここで「卒業アルバムに載っているんじゃないですか?」なんて尋ねてしまうと、この話は終わってしまう。続きが気になるから彼女には悪いが黙っていよう。


「その好きな人から卒業式の日に告白されたんですが、勇気が出なくて保留にしちゃったんです。そのまま連絡もしなくなって。数年前の話なのに未練がましいですよね」


 その話を聞いて心臓が高鳴る。

 卒業式の日、僕は彼女に告白したからだ。もしかして僕のことか?

 いやいや。他のやつだって告白してるかもしれない。舞い上がっちゃだめだ。


「そんなことありませんよ。一途で良いと思いますよ」

「ありがとうございます。あの、ひとつ聞いても良いですか?」

「はい。なんでしょう?」

「今更だけど彼女になっても良いですか? くん」


 驚きのあまり声が出なかった。

 僕は自己紹介の時に名字しか名乗っていなかったのだから。

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