エピローグ
テレビをつけると、話題のギャル総理が映っていた。「あんたのせいでオレはこんなに苦労してるんだぞ」なんてつい思い憤りを覚えてしまうが、そんな俺の怒りも届くはずなく、画面の向こうでは持ち前の明るい笑顔で総理が何やらおかしなことをしている。 総理の前に並べられたのは5キロのカイワレ大根だ。とある小学校で起こった食中毒事件の原因として疑われたために風評被害を受けているカイワレ大根。その悪いイメージを払拭するために総理が食べて安全性をPRしているらしい。にしても5キロは多すぎるな。
パクパクとカイワレ大根を食べ進める総理。嫌々食べている様子はなさそうだ。目にも止まらぬスピードで箸を進め、口にポイポイ運んでいく。恍惚とした表情だ。これなら安全性とか、商品の宣伝にもなるだろう。
何だかすっかり毒気を抜かれてしまった。この総理、中々憎めないヤツなのだ。
……彼女作るか。
俺はテレビを消して、立ち上がる。確か、俺のような非モテオタクの為に初心者彼ピ養成講座が開かれるらしい。その後には非モテのための国営合コンも企画されている。とりあえずそれに参加してみるか。
きっとこんな世の中じゃなければこんなにも真剣には彼女作りをすることもなかっただろう。大丈夫、俺はまだ若い。それにこんな世の中だ。以前より結婚願望のある女の子も多いだろう。
窓辺から差し込む太陽の光が眩しくて、俺は目を細める。この光を、まだ見ぬ俺の彼女も見ているのだろうか。そんなオタクにあるまじき痛いことを考える俺であった。
オタクに優しいギャル総理で助かったぜ。
※※※
「おっと総理、ドレッシングで味を変えながら食べ進める作戦のようです」
第100代総理の
だからたかが5キロのカイワレ大根なんて、昼飯にもならない。美味しく召し上がって、楽チンな仕事だ。
「総理、お水です」
「ありがと〜マヤぽよ〜、優しーね」
「っ、いいから飲んでください。喉に詰まると危険ですので」
「そぉ〜? じゃもらうねー?」
総理秘書の
(全く……この人は本当に世話がやける)
最初に彼女の総理秘書を任された時は気が滅入るほどストレスだった。何で私がギャルの面倒を見なければならないのかと、そう思った。……だけど、陽菜乃はただの偶然で日本国の総理大臣という職を任されたわけではなく、時々垣間見える地頭の良さとか、歴代の総理が解決出来なかった問題をすんなり片付けたりと、存分に才能を発揮した。
だから摩耶は「ああ、そうか」と思った。
彼女は救世主なのだ。この日本を変えてくれる、天から舞い降りた女神なのだと。
「マヤぽよも食べる〜? マジでこれおいしーよ」
「いや、私は……」
「あーーん♡」
「っっっ!!! ななっ、なにをっ」
「食べさせてあげるから、ほ〜ら、口開けな〜?」
この総理は何を考えているのか。
その箸は散々総理がねぶったもので、それに自分が口を付けるということは、アレなわけで……。
「私は別に――」
断ろうとしたその時、
「おおっと、ここでTwitterのトレンドが『はよ結婚しろお前ら』に変わりました! イエーーイ! 国民盛り上がってる〜?」
と、アナウンサーが声高らかに言う。
周りの目線が痛い。摩耶は顔を真っ赤にした。
「マヤぽよ、あーーん♡」
「あっ、あーーん……」
パク。
「あははっ、食べた食べたっ、おいしー?」
「っ……ふ、普通です」
「そこはおいしーって言わなきゃダメっしょ(笑) ほんっとマヤぽよって面白いね」
「ばっ、バカにしないでください……私は別に……」
摩耶がタジタジしてると、
「ごちそうさまでした☆ 美味しかったー」
「はやっ」
「こんなに美味しいカイワレ大根大根なんだから〜食中毒なんてあるわけないよねー」
満腹な顔でニコニコ笑う陽菜乃。
その笑顔に思わず見惚れてしまう摩耶。
すると陽菜乃が不思議そうな顔で、
「どったの?」
「いっ、いや何でも……」
「マヤぽよ、これからもよろしくね〜!」
「…………はい」
摩耶の鼓動が高まる。
原因が分からない彼女。だが、ハッと気付いた。きっと「そういうこと」なのだろう。
(もし、総理にこの気持ちを伝えたらどうなるんだろうか)
摩耶はそう考えたが、いやいや無いだろうと思い、カイワレ大根が入った大皿を片付け始めるのだった。
身分制度を定めるギャル「ピ農工商」 まちだ きい(旧神邪エリス) @omura_eas
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