やっぱり地球は丸形●がいちばんいいよね
ちびまるフォイ
正三角形▲の地球
日本人宇宙飛行士はシャトルの窓から地球を見て、
発射前に用意していた言葉を聞こえよがしにつぶやいた。
「あれが地球か……。なんてまるい……まるい……まる、くない!?」
暗い宇宙に浮かぶ地球は丸から三角形になってしまっていた。
一方、地球はというと三角形の上の方にいるひとと、下にいる人とで生活は二分された。
「いやぁ、いい眺めだなぁ。たまたま家が三角形の頂点の方でよかった」
「パパ。ゴミが溜まってるよ」
「ハハハ。そんなもの窓から外に捨てちゃいなさい。
三角形の上の方は面積が小さいんだ。ゴミなんて置く場所ないよ」
「はいパパ」
娘は窓を開けてゴミ袋を外に放り投げた。
ゴミ袋は三角形の上の方から、底辺の方へと落ちていった。
たまたま住んでいる場所が三角形の底の方に住んでいる人は空を見上げて叫んだ。
「あ、危ない!! ゴミが来てるぞ!!」
空を指差したがもう遅かった。
たかだかゴミ袋でも三角形の上の方から落ちてきただけで、
落下スピードが加わりもはやぷち隕石に等しかった。
「またゴミで人が死んだ……ゴホゴホっ」
「上位層に住む奴らは俺らのことなんか考えちゃいねぇ……ゲホッ」
三角形の下の方は毎日とめどなく降ってくるゴミや汚物で空気はよどんでいた。
汚れた空気は上の方まで到達することはなく、元凶の上位層の人たちは知るよしもないだろう。
「もう許せねぇ。たまたまいた場所が三角形の上と下とで、
なんでこんな地獄で生活させられなくちゃならないんだ」
「なにも考えていない上位層の奴らに思い知らせてやる!」
下の方に住む人達は上から降ってきた様々なもので武器を作って、三角形の上へと目指しはじめた。
その様子は見通しのいい上位層からも見て取れた。
「お、おい! 下に住む奴らが登ってきてるぞ!?」
「はやく落とせ! なにやってる!?」
「無理だ! 数が多すぎる!!」
三角形の上の方は土地が少ないため、住める人間も少ない。
底のほうは土地が広く多くの人間が住んでいた。
「天誅だーー!! よくも下をゴミだらけにしてくれたなーー!!」
「ひいい!!」
逃げる上位層を家族ともどもと引っ捕らえると、窓から外へ放り出した。
パラシュートなしの強制スカイダイビングの結果、三角形の底辺には血の花が咲き乱れた。
「思い知ったか! 自分勝手な連中め!!」
元底出身だった人たちは澄み渡った上位の空気を胸いっぱいに吸い込んで勝利を味わった。
と同時に、今も登ってくる底辺の人たち全員が生活するにはあまりに狭すぎることに気がついた。
「おい、三角形の壁にかかるはしごを外せ」
「そんなことしたら仲間が登ってこれなくなりますよ」
「バカ、あいつら全員をここで生活できるスペースなんてないだろう。
誰が三角形の上位層で暮らせるかと内輪もめになるだろうが!」
「は、はい!!」
先に三角形の上にたどり着いた人たちは慌ててはしごを外した。
仲間の裏切りに不意をつかれた底辺の人たちは、ふたたび三角の底へと落ちていく。
「お、覚えてろ裏切り者ーー!!!」
先に上位層へたどり着いた人たちは再び下位層がリベンジ仕掛けてこないように、
これまでのノウハウを生かして毎日見張りを立てては登らせまいと神経を尖らせていた。
そんな上下をめぐる大戦乱の中、三角形の中間層に住む夫婦は遠巻きに様子を見ていた。
「また人が空から落ちていったよ……ああ、恐ろしい」
「なにごとも中間が一番いいのにね」
「そうだよ。本当に賢い人間は敵を作らないことが一番だとわかっているのさ」
「……ねえあなた。なんか揺れてない?」
気のせい、と片付けるつもりだった夫も食器棚から皿が落ちてきたのを見て言葉を飲んだ。
強烈な横揺れが家を揺さぶって、すぐに落ち着いた。
窓からはこれまで見えていなかった広大な土地が広がっていた。
「なんだったのかしら……地震?」
「た、大変だ……!! 地球の形がまた変わってるぞ!!」
これまで三角形だった地球は、今の揺れでひし形◆へと形を変えてしまっていた。
夫はすぐに荷物をまとめ始める。
「あなた、いったいどうしたの!?」
「君も早く荷物をまとめるんだ! 逃げ遅れるぞ!!」
けれど、もう遅い。
外には上位層から追い出された人たちと、
狭まった土地から追い出された下位層の人たちが侵略者の顔つきで襲ってきていた。
やっぱり地球は丸形●がいちばんいいよね ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます