4、聖女、仲間を増やす ~そして旅は続く~

 ――旅立ちから約2年。


 ベアトリーチェは諸国を漫遊まんゆうしながらアバズレ武者修行むしゃしゅぎょうの旅を続け、16歳になろうとしていた。


 東にイケメンがいると耳にすれば山を越えて訪ね、西に美男子が居ると聴けば海を渡って駆け付けた。


 そうして訪れた先々で巡り合った男の数は百を下らなかったが、誰1人としてベアトリーチェを満足にアバズレさせるには至らなかった。


 と言うか。


 この2年、いまだベアトリーチェは、男と


 アバズレるどころか、てんでのままである。


 主な原因はアレックスで、出会う男全てに難癖をつけ、ベアトリーチェに近付かせないようにしていたのだ。


「これじゃ、全然アバズレられないじゃない! 」


 不満を口にするベアトリーチェに対し


「一山いくらの男風情おとこふぜいでは、ベアトリーチェ様がアバズレられるのには相応しくないではありませんかぁあああ!! 」


 泣き土下座をしながら逆ギレる始末である。


 ベアトリーチェは、よほど爆裂魔法で吹き飛ばしてやろうかとも思ったが、どうせキリがないと気付いてやめた。


 仕方がないので、ならばせめて男関係以外の、『形』からだけでもアバズレるよう努力しましょ、と色々試してみた。


 例えばそれは以下のように。


 一人称を「アタイ」に変えてみた。

 窓辺で物憂ものうげにタバコをふかしてみた。

 酒を浴びるように飲んでみた。

 ※この世界では15歳で成人です。

 実際に頭から酒を浴びてもみた。

 意味もなく暴力をふるってみた。

 捨て犬に優しくしてみた。

 思い立ってパーマをかけてみた。

 勢いで捨て犬にもパーマをかけてみた。

 狂ったように賭け事にきょうじてもみた。


 きょうじたらきょうじたでカジノが倒産するくらい大勝ちしてしまい、運営の闇ギルドとバッチバチの抗争を起こして、結局カジノのあった歓楽街ごと壊滅かいめつさせたりもした。


 しかし、あれもこれもどれもそれも。


 ベアトリーチェを真にアバズレさせることは出来なかったのだった。


 ……男関係が皆無かいむだったのだから、やむなしと言えば、やむなしである。


 しかし、くだんの闇ギルドとの抗争の中で新しい出会いがあった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 その歓楽街は、悪徳貴族をバックに持つ、闇ギルドが牛耳ぎゅうじっている場所であった。


 そこのカジノでベアトリーチェはバカ勝ちをする。


 ルーレット、バカラ、ポーカーetc…


 ダブルアップにダブルアップを重ね、いつしか払戻金は天文学的な金額に。


 もちろん裏でアレックスがゴチャコチャと細工をしていたのは言うまでもない。


 当然の流れとして、恐いお兄さんたちに囲まれ別室へと案内されたわけだが、そこから後はご想像の通り。


 世界最強の魔法使いが実力の2割程度の魔法を放っただけで、闇ギルドの猛者たちは全員涙目になっていた。


 闇ギルドの首領は、緑色の髪と瞳が特徴的な、派手な格好をした30手前の女で、名をサリーナとった。


 手下を全て倒され、歓楽街の建物の8割方を倒壊させられ、ついに残るは自分の首のみとなったところで。


 観念した彼女は、武器を捨て見栄も体裁もなく命乞いをしてきた。


「お願いしますっ!! どうか命だけは助けて下さい」


「自分たちでケンカ売ってきたくせに」


「そこをなんとか! 聖女様の寛大なお心で、このアバズレめに御慈悲を!!」


「……アバズレ? 」


「アバズレでございます。生粋の! 生まれながらの! 来世も多分確定で! アバズレでございますぅううう!! 」


「ちょっと! 」


「ひっ!? 」


 ベアトリーチェはサリーナの手をガッシと掴んで言った。


「そこ、もっと詳しく教えてちょうだい!いいえ。教えて下さい先生!! 」


「え? ええええ?」


 女首領はベアトリーチェの言っていることの意味が理解出来ず目をシロクロさせた。


 アレックスは盛大に溜め息をついてガックリと項垂うなだれた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 その翌日。

 歓楽街から南へ進んだ、見渡す限りの草原。


 どこまでも続く、細長い街道かいどうの人影。


 不意に吹き抜けた悪戯いたずらな風に、その美しい金髪をもてあそばれたベアトリーチェは、立ち止まって空を見上げる。


「……ねぇ、アレックス」


「はい。ベアトリーチェ様」


 髪をかき上げ、遠い目をしながら、ベアトリーチェはつぶやいた。


「私、少しはのかな? 」


 ベアトリーチェの言葉に、アレックスはふっと表情をゆるめ、うやうやしくうるわしの聖女の前にかしずく。


貴女あなた様は、この2年の間にますます魅力的になられました。その美しさは日毎ひごとに輝きを増すばかりであり……」


「つまり? 」


 アレックスの世辞せじをさえぎり、真剣な眼差しで結論だけを言うよううながす。


 あるじの意をみ、従順なる執事は端的に真実のみを口にした。


「ベアトリーチェ様は、いまでいらっしゃいます」


 一拍いっぱく

 そののち

 ベアトリーチェは天を仰ぎながら大きく息を吸い込んだ。そして――


「……それ、ダメじゃぁああああああああああああああああああああああーん!! 」


 じゃぁーん……

 ゃぁーん……

 ぁーん……


 草原にベアトリーチェの魂の叫びが響き渡った。


「まぁまぁ、まだまだ人生長いんだから。いくらでもチャンスはあるって」


 アハハと笑いながら、後ろからサリーナがベアトリーチェの肩を叩く。


 あの騒動の後、女首領サリーナもベアトリーチェにわれて一行の旅に加わったのである。


 彼女の案内で、闇ギルドが別の場所で運営している『娼婦街』を次の目的地とした。


「娼婦なら、酸いも甘いも噛み分けたモノホンのアバズレだからね。良いアドバイスしてくれるだろうさ」


「だといいなぁ。あーぁ。いつになったら私はアバズレられるのか……」


「目指すようなもんじゃないと思うけどアバズレは。ってか、その辺の男2~3人捕まえて一発やればすぐ……」


「黙りなさい。貴様ごとき下女が聖女様に意見など、おこがましいにもほどがあります。ベアトリーチェ様にはベアトリーチェ様のアバズレ方があるのです! 」


「アレックスさんて、実はバカだよね? 」


「なっ!!? 」


「ああああああっ!! 早くアバズレて彼氏作りたぁあああいっ!! 」


 ――こうして、ベアトリーチェたちのアバズレを求める旅は続いてゆくのであった。

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アバズレ聖女と変態執事 第八のコジカ @daihachi-no-kojika

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