4、聖女、仲間を増やす ~そして旅は続く~
――旅立ちから約2年。
ベアトリーチェは諸国を
東にイケメンがいると耳にすれば山を越えて訪ね、西に美男子が居ると聴けば海を渡って駆け付けた。
そうして訪れた先々で巡り合った男の数は百を下らなかったが、誰1人としてベアトリーチェを満足にアバズレさせるには至らなかった。
と言うか。
この2年、いまだベアトリーチェは、男と手すら握れていなかった。
アバズレるどころか、てんでおぼこのままである。
主な原因はアレックスで、出会う男全てに難癖をつけ、ベアトリーチェに近付かせないようにしていたのだ。
「これじゃ、全然アバズレられないじゃない! 」
不満を口にするベアトリーチェに対し
「一山いくらの
泣き土下座をしながら逆ギレる始末である。
ベアトリーチェは、よほど爆裂魔法で吹き飛ばしてやろうかとも思ったが、どうせキリがないと気付いてやめた。
仕方がないので、ならばせめて男関係以外の、『形』からだけでもアバズレるよう努力しましょ、と色々試してみた。
例えばそれは以下のように。
一人称を「アタイ」に変えてみた。
窓辺で
酒を浴びるように飲んでみた。
※この世界では15歳で成人です。
実際に頭から酒を浴びてもみた。
意味もなく暴力をふるってみた。
捨て犬に優しくしてみた。
思い立ってパーマをかけてみた。
勢いで捨て犬にもパーマをかけてみた。
狂ったように賭け事に
しかし、あれもこれもどれもそれも。
ベアトリーチェを真にアバズレさせることは出来なかったのだった。
……男関係が
しかし、
◆◇◆◇◆◇◆◇
その歓楽街は、悪徳貴族をバックに持つ、闇ギルドが
そこのカジノでベアトリーチェはバカ勝ちをする。
ルーレット、バカラ、ポーカーetc…
ダブルアップにダブルアップを重ね、いつしか払戻金は天文学的な金額に。
もちろん裏でアレックスがゴチャコチャと細工をしていたのは言うまでもない。
当然の流れとして、恐いお兄さんたちに囲まれ別室へと案内されたわけだが、そこから後はご想像の通り。
世界最強の魔法使いが実力の2割程度の魔法を放っただけで、闇ギルドの猛者たちは全員涙目になっていた。
闇ギルドの首領は、緑色の髪と瞳が特徴的な、派手な格好をした30手前の女で、名をサリーナとった。
手下を全て倒され、歓楽街の建物の8割方を倒壊させられ、ついに残るは自分の首のみとなったところで。
観念した彼女は、武器を捨て見栄も体裁もなく命乞いをしてきた。
「お願いしますっ!! どうか命だけは助けて下さい」
「自分たちでケンカ売ってきたくせに」
「そこをなんとか! 聖女様の寛大なお心で、このアバズレめに御慈悲を!!」
「……アバズレ? 」
「アバズレでございます。生粋の! 生まれながらの! 来世も多分確定で! アバズレでございますぅううう!! 」
「ちょっと! 」
「ひっ!? 」
ベアトリーチェはサリーナの手をガッシと掴んで言った。
「そこ、もっと詳しく教えてちょうだい!いいえ。教えて下さい先生!! 」
「え? ええええ?」
女首領はベアトリーチェの言っていることの意味が理解出来ず目をシロクロさせた。
アレックスは盛大に溜め息をついてガックリと
◆◇◆◇◆◇◆◇
その翌日。
歓楽街から南へ進んだ、見渡す限りの草原。
どこまでも続く、細長い
不意に吹き抜けた
「……ねぇ、アレックス」
「はい。ベアトリーチェ様」
髪をかき上げ、遠い目をしながら、ベアトリーチェは
「私、少しはアバズレられたのかな? 」
ベアトリーチェの言葉に、アレックスはふっと表情を
「
「つまり? 」
アレックスの
「ベアトリーチェ様は、
その
ベアトリーチェは天を仰ぎながら大きく息を吸い込んだ。そして――
「……それ、ダメじゃぁああああああああああああああああああああああーん!! 」
じゃぁーん……
ゃぁーん……
ぁーん……
草原にベアトリーチェの魂の叫びが響き渡った。
「まぁまぁ、まだまだ人生長いんだから。いくらでもチャンスはあるって」
アハハと笑いながら、後ろからサリーナがベアトリーチェの肩を叩く。
あの騒動の後、女首領サリーナもベアトリーチェに
彼女の案内で、闇ギルドが別の場所で運営している『娼婦街』を次の目的地とした。
「娼婦なら、酸いも甘いも噛み分けたモノホンのアバズレだからね。良いアドバイスしてくれるだろうさ」
「だといいなぁ。あーぁ。いつになったら私はアバズレられるのか……」
「目指すようなもんじゃないと思うけどアバズレは。ってか、その辺の男2~3人捕まえて一発やればすぐ……」
「黙りなさい。貴様ごとき下女が聖女様に意見など、おこがましいにもほどがあります。ベアトリーチェ様にはベアトリーチェ様のアバズレ方があるのです! 」
「アレックスさんて、実はバカだよね? 」
「なっ!!? 」
「ああああああっ!! 早くアバズレて彼氏作りたぁあああいっ!! 」
――こうして、ベアトリーチェたちのアバズレを求める旅はまだまだ続いてゆくのであった。
アバズレ聖女と変態執事 第八のコジカ @daihachi-no-kojika
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