カクヨムの情
絶対にキミより先にレビューを書く方法。
それは、キミの小説にレビューコメントを残すことだよ。作者は自分の作品をレビューできないからね。ハッハ。
こればっかりは「私の宇宙ではレーザーも爆発も音がする」なんていうSF小説家でも抗えない、カクヨム宇宙の基本法則。
だから僕は、悔しさ半分、キミへの興味が半分で、キミの自信作にレビューコメントを書いた。
★★★ Excellent!!!
事実は小説よりもカワイイ!?
こんなタイトルで、キミの小説にコメントを残した翌日、キミは近況ノートに「レビューもらえて一日中にやけて過ごした」なんて書いてたよね。
それを見て、僕もどこか温かい気持ちになった。
キミは多くは書かなかったけど、僕の言いたいことも分かってくれてる気がした。
壊れそうなリアリティとか、純情な感情とかさ。それは、高校生が書いたってことに縛られた感想なんだよね。
でも僕はその「高校生」っての抜きで、みんなに読んでほしかった。
瓶からラベルを剥がし、中身は透明のコップにでも移してさ。それを、ソムリエみたいにして、その短編小説の色や香りまで味わってほしかったから。
だから、キミが近況ノートにレビューのことを書いてくれた時、ハッキリ言って、嬉しかった。そこに僕の名前は無かったけど、たしかに僕のレビューのことを言ってるって、すぐにピンときた。
正直、キミは恐怖を感じたと思う。反省してる。正体不明の僕のペンネーム。プロフィールにも、性別や年齢に繋がる情報は一切なし。フォロワーでもない得体のしれない人(たぶん男)が「カワイイ!」なんてコメントを残し、去る。
普通に考えたら、キモいよ。これ。
キミが小さい頃に経験したことで、怖がりなのは、今は分かってる。でもそのときは、知らなかったからさ。キミがいちばん怖がるような方法をとって、ごめんね。
返事なんてくれなくて、よかったんだよ。
さすがにキミは、最初は警戒してたよね。だって近況ノートの文は、猫が毛を逆立てたみたいになってたから。
僕は、キミはもっと評価されるべきだ、って素直に思った。キミの作品につけられたレビューも、けっこう読んだよ。
嫉妬というよりも、砂浜に埋もれている、キラッとひかる貝殻みたいなキミを救いたい。そんな気持ちだったな。
それを「好き」と呼ぶのなら、そうだったのかもしれない。
キミは僕に、どんな印象だった?
だいぶ打ち解けてから「自分の小説のキャッチコピーはいまいちなのに、レビューのキャッチコピーの付け方は上手なんですね」ってトゲのある言葉で、また僕を刺しにきたね。
まぁそのとおりなんだけどさ。
事実だからって、いつでも言っていいわけじゃないよ。ほら、ラブコメも恋愛小説も、女の子はめったにトイレ行かないよね? 次作はトイレがメインの小説、書く?
キュートな恋愛小説を読んだら、キミの私生活を覗き見てしまったような、罪悪感を感じた。今思うと、あれはほんとうに等身大のキミが感じたことが、書かれてたんだね。ハートを押して、応援コメントを書いたら、ハートの返事をくれるようになった。
キミが「読み飛ばし推奨」なんて言ってた、自伝も読んだ。読んでほしくないなら、何で公開するの、って思わなくもなかったけど、僕は読んだよ。
鬱々とした日々や、恐怖しか思い出せないような過去。キミがさらけ出す全部から、目を背けずに読んだ。
キミも、僕のつたない小説を読んでは、必死にレビューしてくれてさ。皆の目のある世界の中心で、愛を叫ぶ! いや、渋谷のスクランブル交差点の雑踏の真ん中で、誰も見ない手紙で文通してるみたいな感じだったかな。
ある日、キミは僕の応援コメントへの返信に「ほんとうのわたしを知ったら、どう思うかな。不安」なんて書いた。それで、僕はこんなふうに答えた。
「夜空が暗いほど、星はキレイだよ。闇もキミの一部分。だから、それを切り取ってどこかに置いといたらもったいない。僕は好きだよ」
そしたら、キミはコメント欄の向こう側で、泣いてた。
そのとき僕は、キミがその闇を、小説で三人称化して吐きだしても、詩で強引に流しさろうとしても、ぜんぶ
だってキミは「傷ついても構わない」なんて言って、正々堂々と対峙していたからね。そんなふうに、なにも隠さずに書くキミを、僕は心から尊敬していた。
そんな大切なキミの全部を読まないなんて、失礼だと思った。
キミがせっせと執筆して公開してる様子は、ちゃんと通知に出てきたよ。「最新話を公開」「近況ノートを更新」「新作を公開」ってね。
僕は割と沢山の人をフォローしてたけど、キミの名前は見逃さなかった。今思うと、ストーカーかよ、って感じ。でも僕は、キミを子供だなんて思ってなかったから。1人の立派な女性だと、思ってたよ。
僕らは、互いの顔も、連絡先も知らなかったけど、繋がっていたんだよね?
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