カクヨムの恋

嶌田あき

カクヨムの星

 賭けをしよう。


 キミがこの短編小説を僕より早く見つけ出し、レビューコメントを先に書くことができたなら、キミの勝ち。僕はキミに好きだと告げる。


 簡単でしょ?

 いつだってキミのコメントは、僕よりも前にあったんだからさ。 


 始まりは、1ヶ月ほど前まで遡る。

 いつものようにカクヨム宇宙を探査機のように漂っていた僕は、とても奇妙なことに気がついた。

 僕は、まだ★の輝きが少ない小説を発見すると、どうしてもわくわくする。タイトルとキャッチコピーにまんまと釣られ、まずは読む。

 ――調査終了。

 僕の目論見どおり、やっぱり面白かった。よし、マークしよう。レビューコメントを記入する。

 

 問題はそのあとだ。「おすすめレビュー」のページを見に行くでしょ? そうすると、なぜか決まってキミのレビューがあるのだ。しかも、ここのところ10回連続で。


 「誰得?」っていうジャンル不明の小説を書いてる自称ラブコメ作家の僕。人生の切り売りみたいな痛々しい青春小説を書く女子高生小説家を名乗るキミ。

 僕は「ヨム」のほうは雑食で、★の少ない作品ばかり狙い撃ちしてる。過疎ジャンルっていうか、未開の小惑星帯?

 それでも、たまにはブラックホールみたいに★を集めてる大衆ウケ狙い作品にも立ち寄るから、そこでたまたま、キミと鉢合わせしたにすぎない?

 1回や2回同じ作品のレビューが重なったくらいなら「あぁ、趣味の合う人もいるんだ」くらいにしか思わなかった。だいいち、キミが本当に女子高生か、わからないからね。


 だけど、鉢合わせが10回も続くとさ、ラブコメ通り越して、もはやホラーの展開だよね?


 確かに、最初は興味本位でキミをフォローしてた。それは認める。でも、僕はさ、別にキミがレビューを書いたときに現れる「フォローユーザーのレビュー」の通知を見て、その日に読む小説を決めてたわけじゃない。

 それなのに、僕が読む小説のレビューにはキミのレビューが、既についてるんだよ。ここまで1つの例外もなく。10作品連続で。こんなの、おかしくない?


 でも、そのときの僕は、怖がったりはしなかった。

 むしろ、何ていうか、悔しさ?

 

 僕は、レビューを書くとき「この人はこのあと売れっ子小説家になる」とか「このプロットで映画化されたら面白いだろうなぁ」とかいう妄想をしながら書く。

 知ってる? こんなに世界中の望遠鏡が睨みをきかせてるってのに、いまだに新しい星が見つかるんだよ。しかも、命名権は最初の発見者に贈られる。きっと、売れる前から知ってたアイドルが居るときの優越感みたいなものだろうね。

 でも、今回は違う。ことごとく、キミに出し抜かれてるわけ。もちろん、キミのほうが僕よりカクヨム歴は半年くらい長かったから、ある程度、僕が後追いになるのは仕方ない。でもさ――。


 面白そう、着陸。読む、読む、読む。うん、やっぱり面白い。

「♡応援する」だけじゃもったいない。レビューコメント書こう。

 書く、送信。他の人のも見よう。


 あれ!? キミがいる!


 てことが10回も続くと、さすがに悔しくもなる。


 だってカクヨムには、それこそ星の数ほど沢山の作品があるよね。まぁそれは言い過ぎで、せいぜい10万篇くらいか。でも、僕がレビューした作品とを、こんなに高確率でキミが僕より前に読んでレビューしてるなんて、普通はあり得ない。

 計算したっていい。確率は10の50乗分の1よりも小さいくらいだ。

 とにかく、無性に悔しくてね。人って、あんだけ悔しいときにはやっぱり「キー」って言うんだね。あんなの、小説の中だけかと思ってたよ。


 これさぁ、逆なの。時間順序が。

 普通は、好きな人の読んでる本を知りたくて、後を追うじゃない? いや、実際には、図書館の貸し出しカードで好きな人の名前を探すなんてのは、もう小説でも見かけないんだけどさ。


 キミは逆なの。ひねりなしの、ストレートな逆。

 気になるからキミを追うんじゃなくて、なぜかキミの読書を追うことになってしまうから、僕はキミから目が離せなくなってしまったの。


 でも、すぐに、僕は気がついた。

 キミがレビューコメントを書くよりも先に、絶対に僕のほうが早くコメントを残す方法があるってことに。


 ふふふ。

 

 

 


 

 

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