エピローグ ~『卑怯な笑顔』~


エピローグ ~『ジェシカと卑怯な笑顔』~


 呪いから解放されたジェシカは、経過を観察するために保健室で安静にしていた。薬品の匂いが漂う室内で、彼女は自分の手をマジマジと見つめる。


「闘気が元通りになっている」


 呪いから解放された証拠だった。救ってくれた皆への感謝の気持ちが湧き上がってくる。


「ジェシカさん、失礼しますね」

「アリス、お見舞いに来てくれたのね」


 病室の扉を開けたアリスは幸せそうに笑っている。その笑みに釣られて、こちらまで笑ってしまう。


「どうしてそんなに嬉しそうなの?」

「ジェシカさんが元気だからに決まっているじゃないですか。クラスの皆さんも喜んでいましたよ」


 アリスは収納魔法で、空間に穴を開ける。そこから取り出したのは千羽鶴だった。


「本当は全員でお見舞いに来たかったのですが、保健室は狭いですからね。私が代表して、お見舞いに来ました」

「この鶴は私のために折ってくれたの?」

「昨晩、ジェシカさんが一日でも早く元気になるようにって、クラスの皆で徹夜したんですよ。期待に応えるためにも、早く元気になってくださいね♪」

「うん……っ……そうね……」


 傷だらけの心に生徒たちの優しさが染みる。嬉し涙が目尻から零れた。


「そうだ、ニコラにもお礼を伝えないとね」

「先生なら、先ほどまでそこにいたのですが……」

「仕方ないわね。きっと私の顔を見たくないでしょうから」


 自嘲気味にジェシカは語る。彼女はニコラに恨まれていると自覚していた。過去の裏切りを悔やむように、ベッドのシーツをギュッと握りしめる。


「ジェシカさんが先生に酷いことをしたとは聞きました。でも先生、きっとジェシカさんのことを大切にしていると思いますよ。だって最初こそ渋っていましたが、途中からは本気でジェシカさんを救い出そうとしていましたから」

「ニコラが……」

「先生は生徒のためとか、復讐したいから死なれると困るとか言っていましたが、あの人、素直じゃありませんからね」

「ニコラは……っ……優しい男ね……それに卑怯だわ……こんなことされたら、ニコラのこと諦めきれないじゃない……」


 ジェシカは目尻から流れる涙を拭うと、前向きになるために笑みを浮かべる。その笑顔は卑怯なほどに魅力的だった。



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卑怯者だと勇者パーティを追放されたので働くことを止めました【書籍化】【コミカライズ】 上下左右 @zyougesayuu

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