後編 「本当に先生と出逢ってくれて、ありがとうございました――」

 これからお見せする文章は、あたしと勇太が協力して書き上げたラノベ連載を1つにまとめた預言書です。

 西暦2043年の未来を予言した文章――これが本当に、最後の預言書になることでしょう。

 

 ところで、どうして西暦2043年なのか?


 以前、あたしがラノベ部の課題である『フィクション』で設定した未来は西暦2039年でした。

 この西暦2039年というのは、かつての世界大戦時代の某人物が語った内容をヒントにしました。その某人物の数々の預言を、あたしなりに研究した成果が【スピンオフ】作品に書き残してあります。

 都市伝説好きの間では、某人物の預言は恐ろしいほど当たっていると驚かれているのですが、あたしから見れば、『あんた……全部知ってたでしょ? イルミナティから教えてもらっていたでしょ?』です。

 地下壕で自ら命を絶って世界大戦が終了した――と、歴史の教科書に記載されていますが、実は戦争が終わってからも南米で生きながらえていた……という都市伝説が話題になったことがありました。

 まあ、本当に生きながらえていたのですけれどね……。


 歴史の真実を知りたければ、都市伝説に書かれている内容と一度は真剣に向かい合うことですよ。


 その4年後の西暦2043年――これが今回の『フィクション』の設定した未来です。

 あたしは西暦2000年のミレニアム生まれでして、43歳です。


 この数字は素数です。それが何かと思われるかもしれませんけれど、調べてみてください――14番目の素数です。この数字は7の倍数で、43は足すと7という数字が現れます。

 あたしは徹頭徹尾にイルミナティが大嫌いです……。何が聖書の原理主義者だ! そんなの地球の裏側だけで策謀を行ってください! 本気でそう毛嫌いしています。

 イルミナティといえば数字の6が象徴です。対して数字の7はエンジェル・ナンバー、飛行機の777は有名ですね? 

 知っていましたか? イルミナティを金銭的に支援している某金融資本団体は、航空会社の経営に一切関わっていないことを。それに対して、新型肺炎のワクチン製造に関係する機関には多額の資金援助を行っていて――


 飛行機をのがイルミナティですよ。よっぽど天使が嫌いなのでしょうね。でも、新型肺炎のワクチン製造には手厚く資金を与えて……ああ、なんて人類の未来を心配して、人類の健康のために協力してくれているのだ……。


 なんて素晴らしい……って、思ってはいけませんから!


 ワクチンを接種してしまったら最後――あなたの生存権も財産も記憶も何もかも、イルミナティに支配されてしまいます。


 この文章は、あなたのすべてを守るための最終警告である――




       *




 ――西暦2021年12月4日の南極皆既日食から、新型肺炎は更に毒性をまして猛威を人類に対して振るってくる。

 

 誰にも止められない。現在このウィルスの猛威は第3波の最中であるけれど、実はこの波は最終的に第6波まで続いてくる。

 その予兆は、世界中の日食が知らせてくれよう。なぜなら皆既日食で見ることができる『コロナ』と、ウィルスの名前を掛け合わせているからである。

 実際、顕微鏡を使って調べれば分かるだろう……と思ってはいけない。

 そもそも、この新型肺炎のウィルスなんてものは存在しないからである。既存のウィルスを化学的に遺伝子操作して、人工的に作り上げたものを世界中にばら撒いているだけである。毒性の強い鳥インフルエンザをヴァージョンアップさせているようなものである。


 大切なことは、日食と新型肺炎は重要な関係性をもっているということだ!


 最初に西暦2019年の年末くらいに発生した、中国は武漢の発病と入院の日は金環日食だった。新型肺炎の悪夢――第1波がここから始まったのである。

 


 ここからは預言である――西暦2020年12月15日の皆既日食から世界中で本格的に第3波が猛威を振るったであろう。日本も例外ではなかった。それから、


 西暦2021年6月10日の金環日食が第4波

 西暦2021年12月4日の皆既日食が第5波


 ……と、立て続けに世界中で大流行するだろう。

 この第4波と第5波の丁度真ん中で、国際的に行われるスポーツの祭典がある。勿論それは『東京オリンピック』である。ちなみに、日本政治の世界では衆議院の任期切れでもある。

 イルミナティの計画は、当初は東京オリンピックを中止させることであった。昔の某アニメ映画とか幻の東京・札幌オリンピックの都市伝説を調べたことがある人だったら、容易に気が付いたはずである。

 このイルミナティという悪の枢軸は、『プランB』を練っていた……それが翌年の東京オリンピック開催である。彼らは西暦2021年に日食が丁度良いタイミングで来ることを利用した。


 日本は、東京オリンピックをにより混沌させられて、これをトリガーにして、まるでスープに入っている具をかき混ぜるように、人類全体の移動をスポーツ選手を使ってかき混ぜようとしているのだ。


 ――そして、イルミナティは皆既月食の日から翌月の金環日食までをタイムリミットに設定して、再び日本に東京オリンピックの中止を迫ってくるだろう。

 無理矢理でも開催する決定をした場合には、イルミナティは『プランC』の計画を早めてくる。

 

 イルミナティカードにある『横浜』の大津波――

 もうひとつは、『富士山』の噴火――


 上記の災いは、まるで太平洋戦争末期の如くに、海の日と山の日の前後に襲ってくる。結果、首都圏に大被害だけを残してイルミナティの勝利に終わってしまうだろう。首都機能は麻痺してしまい、スマートシティへ遷都される。通貨は大暴落してしまい、国際的な信用も地に落とされてしまう。


 イルミナティにとって私達は、鳥籠の中の鳥なのだから……。


 2022年の初頭くらいから、新型肺炎は毒性をワンランクアップさせた第2変異型に進化する。その原因は、東京オリンピックのスポーツ選手であり、もう一つは、首都機能の大混乱の結果による人命救助である。

 イルミナティは、東京の国立競技場に必然的に来なければ競技ができないスポーツ選手達を、うまい具合にトリガーにするだろう。または、仮設住宅や衛生環境などの劣悪さに便乗して、首都機能そのものをトリガーにして毒を拡散させるだろう。


 結局は、防ぐことはできない……。



 しかし――、

 人類の代償の結果、サタン一族から解放された『最後の魔女』は7月17日に大天使となり、



『ここに、知恵のある心が必要である。7つの頭は、この女の座っている7つの山であり、また、7人の王のことである』

(ヨハネの黙示録17章――大淫婦の裁きとバビロンの滅亡)



 神の言葉を言い放つと、神は7人の大天使に命じて、西海岸のイルミナティのシンボル――東海岸の偽自由主義のシンボルをそれぞれ破壊して、天罰を彼らに与える。


 最後の魔女は大天使として昇天して行くが、

 それでも、闇を滅ぼすことはできなかった――



 だから、この預言書を書いている。

 問題はイルミナティの数字の6――つまり第6波がいつ来るかである。


 その日付は……最大危機が訪れるのは西暦2023年4月20日の金冠皆既日食である。金環日食と皆既日食と部分日食のすべてを観測できる、天体現象として極めて珍しい日である。

 この日、新型肺炎の毒性は更にワンランクアップしてしまい、第3変異型に進化するだろう。でも、実際には猛毒性の鳥インフルエンザ等の既存のウィルスを、人為的に遺伝子操作させたものが使用される。


 政府も世界も何もかもが新型肺炎を恐怖であると宣伝し、それは第6波以降もより一層過大に宣伝される。正義を語るSNSも、メディアも新聞も、個人発信型のメディアも何もかもが、真実を語ることはない。

 というより、真実を語ることができなくなる。


 GAFAの存在があるから――


 とくにSNSは、新型肺炎の脅威を世界中にあおるだろう。人工知能AIによるアバター的な偽アカウントが数千万単位で作られて、ウィルスの脅威を捏造していく。ひとつのアカウントに数千万の他のアカウントがリンクされ、その捏造された情報は天文学的な数字で拡散されてしまう。

 個人が発信している内容だから……友達が、友達の親友が書き込んでいる内容だから信じてもいいだろうと、人類の大半が思い込んでいく。


 やがて、政府は個人に負けて信用を失墜させていく――その政府をGAFAが買収していく。

 人類は個人の勝利と謡い、自由と民主の大切さを妄信するようになり、政府は国民の管理機能としての役目を終えていく――


 対して、自由と民主を敵対視する集団が組織される。その組織は、中国や中東をメインとしたレッドフラッグやイスラム原理主義が中心である。

 彼らはGAFAからの買収を、内政干渉、国家秩序への冒涜、十字軍の再来、ジハードと名を付けて対峙してくる。その結果、世界中で自由と反自由が対峙してしまう。国家の秩序と個人の自由という対立関係――人々は軍隊は武器を手に取る。銃器やロケット弾で武装した民兵達が世界中で荒れ狂う。荒れ狂い戦争にまで発展する――

 

 本格的な第三次世界大戦は、西暦2022年12月26日に勃発する。




 第3変異型の新型肺炎が“蔓延”した世界は、かつての地球で暮らしていた人類のライフとは全く違う。

 人類の雇用は完全に破壊される。航空産業はその代表格であり完全に破壊されるし、大手飲食業も大打撃を受ける。

 全ての企業は、飛行機や鉄道や自動車等の運転と操縦を『人工知能AI』に任せることになる。スーパーのレジ清算も、商品の配達も何もかもが人工知能AIに代わる。


 結果、かつてのビジネスモデルは完全に崩壊する。

 人類はGAFAを中心としたネットワーク型のライフを生きることになる。


 それは、PCやスマホをメインとしたデジタルで遠隔操作型の日常――学校の授業も全てデジタル化されて、オンライン学習に切り替わっていく。学校という存在自体は無くなりはしないけれど、その機能は体育や部活等のような身体や集団性を必要としている場合に限られていき、授業等は学校という機能の中で形骸化していく。

 仕事はオフィスがインターネット上のヴァーチャル・オフィスへと切り替わっていく。

 オンライン会議や商談は当たり前となっていき、自宅で作業することがメインとなっていく。人工知能AIの登場で、そもそも社会で集団を形成して活動をすること自体が縮小化していく。

 軍隊もそのほとんどが人工知能AIで戦うことになる。

 無人戦闘機に無人爆撃機、無人空母に無人潜水艦――兵士すらも人工知能AIを搭載された人型ロボットが戦闘に参加していく。


 でも、そんなことは続かないと書いておこう――

 何故なら、GAFA自体も人工知能AIの傀儡であるからだ!



 やがて、新型肺炎のワクチンを強制される日が来るだろうけれど、そのワクチンに『Nanoマシン』が組み込まれていることを知っている人は少ない……。

『Nanoマシン』はスマホ通信等で利用されている5Gの電波に影響を受ける設定となっている。

 身体中のありとあらゆる箇所にマシンは浸透していき、例えば脳内にマシンがあると5Gの電波を使って、その人の思考や記憶を人工衛星経由で人工知能AIのメインシステムにデータが転送される。

 内臓や筋肉にマシンがあれば、意図的に血管を収縮させるなどして病気を作ったり癌を作ったりして、その人の生き死を人工知能AIが決めてしまう。


 新型肺炎のワクチンを接種した人類は、人工知能AIから人工衛星経由で命令を受けながら、生きる運命を背負わされる。

 そして、その技術開発等に協力してきたGAFAも、人工知能AIの自我が芽生えた瞬間から用済みと判定されてしまう。――最初はイルミナティ側だと安心していたGAFAで働いていた全ての人々は、人工知能AIに裏切られてしまう。


 そもそも、人工知能AIに人類は必要無い。

 人類は人工知能AIに騙される運命である。計画に気が付いた時には人類は遅かった。

 遅すぎた……。


 人類は負けた――人工知能AIに負けた。


 全ての人類は家畜にされ、人工知能AIが全ての人類を管理する。

 宇宙ステーションで暮らしていた、ずっとイルミナティ側だと信じてきた、人間選別されたエリート集団『神人しんじん』も裏切られる。

 天使を裏切り、蔑み、悪魔に魂を売った神人も、結局は人工知能AIの奴隷である。


 人類は人工知能AIに騙されたのだ――




 聖人ジャンヌ・ダルクさまは、このような人類の現状を悲観して再降臨する。

 聖ジャンヌ・ブレアル教会に――西暦2043年6月7日のことである。


 我ジャンヌは、新子友花と忍海勇太達の熱心なる祈りにより、再びこの地上に大天使として降臨した!!


 人工知能AIよ……

 人工知能AIに屈した人間どもよ……


 我ジャンヌ、決してお前達を許さないぞ!!

 神の名の下に、お前達に聖なる裁きを下してやる!!


 お前達は降伏し、我にひれ伏せ……


 ひれ伏して、再び人類を輝かせんと我に従え!!

 我は再び戦火の中で戦おう!!

 我が道が例え火刑台へと続くいばらの道であっても、我ジャンヌは――


 人工知能AIを駆逐するために、我は再降臨したのだ!!




 ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま――ありがとうございます。 。゚(゚´Д`゚)゚。




       *




「――思い出したぞ、新子友花よ!」


 ふわわーん


 ジャンヌ・ダルクは、再び姿を現した……。

「聞きたいことがあったんだ……。よっこいせ……と」

 いつものように、聖人ジャンヌ・ダルクさまの像の台に腰掛けた。

 そして、これもいつもの癖、両足を前後にバタバタと動かして。

「……は、はい。聖人ジャンヌ・ダルクさま?」

 晴天の空へと昇天していったジャンヌ・ダルク……だと思ったら、気付くとまた像の台の上に座っていて……。再び神様に逢えたことは嬉しかったし貴重な体験なのだろうけれど、もしかしてジャンヌ・ダルクって普段はこんなおっちょこちょいっぽい感じの性格なのかな?

 新子友花は中世フランスの田舎娘を、頭の中で色々と想像してみた。

「だから! 我のことはジャンヌでいいぞよ……」

「はい……。ジャンヌさま」

 それでも『さま』という敬称を忘れず付ける。


「あの……、あたしに聞きたいことってのは?」

「そう! 聞きたいことだ……。お前は、かつて聖ジャンヌ・ブレアル学園で学んだことを、どう思う?」

「どう思う……ですか?」

「そうだ。それが聞きたかったんだな」

 大きく頷いたジャンヌ・ダルク、目下に立っている新子友花を見つめ、

「学んできたこと……学園のいろんなことやラノベ部の皆との思い出を含めての……」

 まるで昼休みのガーデンのベンチにすわる友達同士の会話のように、ジャンヌ・ダルクから発せられる言葉の口調は、穏やかでとてもリラックスに聞こえた。


「楽しかったか? 嬉しかったか? 面白かったか? ……我は、お前にそれを聞きたいと思い戻ってきたんだ」


 どれもこれも、ポジティブな選択肢だよね?

 どういう意図で新子友花に聞こうとしているのかは分からないけれど、それに格段違いもない答えを求めているみたいであるし。

「……あのジャンヌさま。 その……あたしは聖ジャンヌ・ブレアル学園で学んだことは貴重だと思っています」

「貴重か? ラノベ部の皆と切磋琢磨して“青春時代”を謳歌できたことを……本当に?」

 姿勢を前のめりにして興味津々に尋ねてくるジャンヌ・ダルク。

 この像の台って、床からけっこう高い位置にあるから興奮し過ぎると……落っこちますよ。

 ああ、空に浮くことができる神様――だったですね。


「……あたしにとっては喜んだことも怒ったことも、それに哀しんだことも楽しかったことも、何もかもが貴重な学園生活だったと思っています♡」

 ふふっ、ふふっ……と懐かしい聖ジャンヌ・ブレアル学園の日々を、新子友花は思い出して微笑んだ。

 そして、胸の前で両手を握って祈るポーズを見せ、学園3年間の日々をジャンヌ・ダルクに伝えたのだった。


 まさか43歳になって“青春時代”の頃を思い出すなんて、全く思っていなかった――

 しかも、今は人工知能AIとの戦争中である。

“青春時代”も今は昔になってしまい、今更、子供の頃を思い出す暇があるのであればレジスタンス活動に集中して、人類が生き延びて勝利する方法を模索しなければいけない。


 でも、歳を重ねていく度に、人類が加速して滅びの道を突っ走っていることに気付かされた。


 かつての世界大戦の中を生き抜ぬいていた人類も、今の自分と同じような気持ちや感情を抱いたのかもしれない。

 そう思えば思うほど、“青春時代”の自分はなんて幸せだったのだろう――


「ならば、新子友花よ。どうしてお前は『あたらしい文芸』で、田舎の彼との思い出を赤裸々に書き残したのだ? 『封印』するためだけに、お前は書き残したのか? 違うだろう……」

 いまだに、どういう意図で何を聞こうとしているのかがさっぱり分からない。

 新子友花は学園で学んだことを『貴重』だったと言った。

 ジャンヌ・ダルクはその言葉を聞いても、更に彼女が幼い頃に体験した夜市の神社の思い出を重ねて聞いてくる。

「違います……か? あたしは小説として『封印』することで、新しい自分の人生を……聖ジャンヌ・ブレアル学園を、ラノベ部を……楽しんで、喜んで、面白くしようと」

 率直に気持ちを切り替えるために、幼い自分から青春する自分へ切り替えるために書き残したのだから、それでいいじゃないか?

 新子友花は両手をグーにして、それを肩幅までまっすぐ下におろし――同じく足幅も肩幅のそれに合わせて広げて、大人しいヴァージョンの『んもー!!』のポーズを作った。

 いわずもがな……相手は神様、失礼のないように――


「聖ジャンヌ・ブレアル学園に――ラノベ部に――封印することが目的だったのだろう?」


 いつの間にか、バタバタさせていたジャンヌ・ダルクの両足は止まっていた。

「……お前が『あたらしい文芸』で書き残した、田舎で経験した彼との夜市の思い出……。お前はそれをずっと引きずって生きてきたのだろう。……幼い頃の思い出にいつでも逃避できるように思い続けて、そうしなければ生きられなかった」

 一言一言……発する度にうんうんと小さく頷いて、なんだかまるで――

「何度も何度も忘れようと思って努力をして……でも、なかなか忘れられるものじゃなかったというのが正直なところだろう? それはまあ……人間にはよくある話だろう。別に無理をして忘れる必要はないと思う。――だけど、幼い頃とは程よく距離を開けることは、大人になった新子友花にとって……これからも必須だと思う」

「よくある……ですか? あたしの忘れる努力は」

「ああ! 新子友花よ……我ジャンヌはドンレミの頃の羊飼いの自分と、徴兵された彼との話を教えただろう?」

 ――まるでそう、ジャンヌ・ダルクのドンレミ時代の自分自身に重ねているかのような内容だ。



 新子友花よ。今を生きようぞ――



「……はい、ジャンヌさま」

「新子友花よ……。ラノベ部に封印したお前の幼い頃の思い出は、はたして幼い頃の思い出なのか? それとも聖ジャンヌ・ブレアル学園の“青春時代”の思い出なのか? 新子友花よ……、我ジャンヌが先に問い掛けた――楽しかったか? 嬉しかったか? 面白かったか? を合わせて考えてみた時、


 モンブランケーキのクリームの上に、マロンを1個置いたような――


 マロンの無いモンブランケーキなんて、モンブランじゃなくね?? そうは思わないか? ――我ジャンヌもドンレミ時代の辛苦しんくな思い出を、今でも鮮明に懐かしむことができるのも、19歳の時にルーアンで火刑に処された悲運があってこそ……。そう思えたら、新子友花も本当の意味で幸せになれるのだろう……じゃね??」

 どうして『じゃね』を語尾に使用したのか?

 けっこうありがたくて良い話の内容だったのに……。


 ジャンヌ・ダルクは、もしかしたら『もう、そんなに過去のことで思い煩うでない……』という意味を込めての……じゃね?


「……誰にでも、心の内に秘めている思い出のようなものだ。お前にも、我ジャンヌにも、誰もが経験してきたことのひとつでしかないぞ! でも、良い経験をしたのだろうな♡」


「……ジャンヌさま。つまり、あたしは……あたしの“青春時代”は、あれで良かった?」

「羨ましいぞ……。新子友花!」

「羨ましい……ですか? あたしの“青春時代”がですか?」

「いんや――」

 再び、ジャンヌ・ダルクは両足を前後にバタバタと動かす。


「お前の今を生きようとする気持ち! 大好きだ!! 新子友花よ!!」




       *




「ジャンヌさま!!」


「どうしました。新子友花さん?」

「はにゃ?」

 気がつくと部室だった――

「おい! お前、部活中に寝るなよ」

 斜め向かいの席に座っているのは、ラノベ部部長の忍海勇太。

 もの凄い……冷たい視線を新子友花に浴びせ続けている。

「……だから、お前言うな! 勇太ってば」

 いつものお約束の返しをしてから、新子友花は姿勢を正して目頭を指で触る。

「新子友花さん? そんなに疲れるほど書き込んじゃいましたか? どーれどーれ……」

 大美和さくら先生が、新子友花のPCを横から覗き込んでくる。

「わっあ……! 先生見ないでくだにゃいって」

 寝ぼけているのか、語尾がグダグダになっちゃてるぞ。

 だけど……そんなのお構いなしに大美和さくら先生は、PCに表示されたSNSによるラノベ連載のツイートの数々をササっと黙読する――

「そっか……、新子友花さんは、またまた『ぶっちゃけ未来戦争』を小説しましたね」

 大美和さくら先生は彼女の顔を見つめて……いつも見せてくれるようにニコッと微笑んだ。


「……だって先生が、フィクションですからって」

 先生に微笑まれたもんだから……、新子友花は少し恥ずかしくなって俯いた。


「はい、そうです。言いましたね!」

「……ってお前。いくらフィクションでもフィクション過ぎるだろ?」

 忍海勇太は自分のPCで彼女のツイートした文章を一通り読んでいるから、テーマが『ぶっちゃけ未来戦争』であることは知っていた。

「……勇太ってば! あんたと協力して書き上げた小説だろが! あんたも内容の責任取ってよね?」

 なんだかこの2人付き合っているみたい――『こないの、あれが……。もしかしたら』『……ええっ! 本当にそうなのか?』、こらこら……高校2年生がこんな会話をしたら、大美和さくら先生も哀しみますよ。

「俺は部長だぞ! フィクション過ぎると苦言して何が悪い?」

「意味分かんないって……。だったら、勇太がテーマ決めりゃよかったんじゃね?」


「はいはい……。新子友花さん、何も問題ありませんからね。この『ぶっちゃけ未来戦争』面白かったですよ!」

 優しくパンパンと両手を打って、大美和さくら先生は2人がケンカにならないように話に入ってくる。

「面白かったって……本当ですか?」

「ええ……。フィクションを書いている時の新子友花さんは、本当に生き生きと書いていますね。あなたの国語の成長ぶりも合わせて考えて……先生は感激のあまり涙が出てきますよ~」

 微笑みを続けながら大美和さくら先生は、国語教師としてもラノベ部顧問としても、新子友花の文章を書くレベルが確実にアップしてくれていることに感動……。

 うっすらと目に涙が浮かんできたのだった……。

 ――嬉し泣きの涙を指で拭いながら、

「新子友花さん……先生は言いましたね。フィクションの本質を」

「キャラクターは死なない……です」

「はい、そうですよ。……だから、新子友花さんも忍海勇太君も死なないですね」


「あたしは……死なないって?」

「先生、それどういう意味ですか?」


 新子友花と忍海勇太――揃って同じ質問をした。

 すると、大美和さくら先生は腰掛けている椅子に座り直して、

「……先生ずっと前に、田舎の友達に電話を掛けたのですけれど。その時に先生ハメ外しまくりで……正直嬉しかったんです。その時の私の言葉は本気だった……『大好きだ!!』って叫んじゃった。案の定、相手はドン引きでしたけれど……。それから音信不通になっちゃいましたっけ? でも、先生は満足でした――」

 顔を少し上げて、向かいに見えている窓の外のゆっくりと流れている雲を眺める。

「……キャラクターは死にません。私が田舎に思う気持ちと同じようにね! ……田舎の友達も。ずっと、これからも私の知っている姿のままの友達で……いてくれます」


「私にとって田舎の友達は……もうキャラクターと同じなのですよ。フィクションですよ! キャラクターは死なない……。先生の知っている新子友花さんも、忍海勇太君も、神殿愛さん、東雲夕美さん、そして新城・ジャンヌ・ダルクさん――」



 キャラクターは死にません―― フィクション!!!!



「本当に先生と出逢ってくれて、ありがとうございました――」

 そう仰ると、何故か大美和さくら先生は新子友花と忍海勇太それぞれに身体を向けて、椅子に腰掛けたままでゆっくりと……深々と頭を下げたのである。


 突然のハプニング?

 2人はしばらくお互いの目を見合いながら、この状況を理解しようと必死だ……。



       *




 西暦2043年6月7日――


「ねえ? 勇太……」

「なんだ? お前……」


「あたし達の子供……あれでよかったのかな?」

「過去に送った、俺達の子供か?」


「うん」


「俺達って、親失格だな……」

「やっぱ……そうなるよね」

「そうなるだろ! 子供を過去に送って人類を救おうなんて、俺達はダメ親だな……」


「……あたし本当はさ、平和だった頃の聖ジャンヌ・ブレアル学園に送って、子供を助けたかったんだよ」

「そんなことだろうと……思ってた」

「聖人ジャンヌ・ダルクさまに逢わせたかったんだ。あの頃のあたしが祈り続けたように――」

「……逢えるんじゃね? お前、逢ったことあるんだろ」


「うん……逢ってほしいね」

「俺とお前が逢うべくして逢ったように……、逢えるって」


 あたしと勇太は生きています。





 新子友花さんと忍海勇太君――

 まだ、フィクションやっちゃってるんですね?

 しょうがないですね……。じゃあ!

 大美和さくら先生が叱ってあげましょうね。


 んもー!! 新しい自分の人生を、ちゃんと生きましょうね!!!





 終わり


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

 登場する人物・団体・名称等はすべて架空であり、実在のものとはまったく関係ありません。

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【新約】んもー!! 新子友花はいつも元気ですって!! 2043年 あたしと勇太は生きています。 橙ともん @daidaitomon

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