最終話 新天地への飛翔:アストロノーツ
「戻る?」
俺の端的な質問に、みんなそれぞれ個性的な表情で返してきた。
「あたしはねえ、帰るよ」
そう告げたのはマーチだ。
「ほら、あたしの本体はあっちにいるじゃない? もうね、千年も一緒にいた場所だからさ。最後までいてもいいかなって」
「へえー。大魔女様ってさ、でもすごく長生きでしょ? これからもずーっとあそこで生きてることになるの?」
一部が真っ白になった、俺たちの世界を指差すのはエレジア。
なんかもう、半壊してしまったあの世界への執着をなくしてきてるみたいな?
「うーん? 本体の本体っていうかさ、皇帝が死んだじゃん? あたしって元々、皇帝の命にくっついて生きながらえてたみたいなもんなのよ。だから、いいとこ人間の寿命くらいまでしか生きられないんじゃないかな」
「なかなか重い話をぶっ込んできたなあ。……あれ? 人間の寿命ぶんだけ生きられれば十分じゃないか?」
ハッとする俺だった。
「じゃあ、マーチと大魔女の教え子であるストークも残るんだろ?」
「いや?」
当たり前みたいな顔で否定してくるストーク。
「あんな世界に残ってどうする。僕は世界の外に行くぞ」
「それがいいそれがいい」
マーチが、パチパチと手を叩いた。
「年寄りに付き合うことないよ。あんたはもっと広い世界に出ていった方がいい。出ていける奴は出ていかないといけないよね」
「ああ。世話になった。さよならだ」
あっさりした別れである。
でもそんなもんなのかなあ。
「俺はなあ」
「レンジはお前選択肢ないよ強制だよ」
「なんだとぉ?」
「なんだあ? お前のロケットがなきゃどこも行けねえだろうが」
「そりゃそうがてめえ、俺に命令するなつってんだろうが!」
「じゃあレンジはどうしたいんだよ」
「外に行くね」
「同じじゃん!」
「なんだとぉ!?」
俺とレンジでロケットの上、ポカポカやり合う。
「ラプサはどうするの? 不安なのとか嫌いなタイプじゃない」
「……私、元の世界に今更戻っても絶対途中で死ぬと思う……。弱いので……」
ほう、魔王戦に何度も参加した魔女が弱いと。
「あと、生活基盤が無いので……ついていく」
消極的な理由で俺たちに同行する事になった。
ということは、お別れはマーチだけだな。
ロケットは一直線に俺たちの世界だった場所に突入し、まだ漂白されていない地面に突っ込んだ。
大爆発が起こる。
これを、ラプサがソードウォールで防いだ。
なんという力任せの着地だろう。
そもそも、ロケットで着地とかどうしろというのだ。
「ウグワー!」
マーチが放り出されて、地面をゴロゴロしていった。
降りる準備をしてたからな。
ぐんぐん近づく地面を見て、「これどういうタイミングで降りるの」とか言ってた矢先からこれだ。
マーチが大の字になって転がっている。
すると、そこの空間が歪み、魔女の館が姿を現した。
扉が開き、顔にヴェールを掛けた大魔女と、オヤジさんがいる。
良かった。
オヤジさんまだ生きてたんだな。
彼らはマーチを拾い上げると、俺たちに向かって手を振った。
「世界は救われました。ですが、最後の魔王は飛び立ちました。魔女とアストロノーツの役割を果たして下さい」
大魔女の言葉を聞いて、エレジアとラプサがとても嫌そうな顔をする。
魔女になったから、魔女の館で暮らして仕事をしてたけど、本質的にはこの二人、仕事をしたくない人だよな。
「そんな顔をしてもダメです。あなたがたは、アストロノーツの若者を放っておけない。必ず彼らに協力することになるでしょう。そしてアストロノーツ。オービター、レンジ、ストーク」
「俺たちか」
「これは、宇宙を飛ぶ者たち、という意味の言葉です。世界は帝国によって封じられ、自由に世界の外へと飛び立つことはできなかった。帝国でない者がアストロノーツの名を得ることは、すなわち世界が帝国の手を離れる意味でした」
「ふんふん」
「アストロノーツを、私の古い記憶にある、外の世界では……勇者、と呼ぶことがあります。魔王を倒し、世界を救う者。それが勇者」
大魔女が大きく手を広げた。
「世界は壊れてしまった。それでも、世界は自由を取り戻した。今度は、世界を壊されぬまま取り戻して下さい、アストロノーツよ。勇者たちよ。あなた方の旅に、幸多きことを祈ります」
「がんばれよ!」
大魔女に続いて、オヤジさんが発したのはそれだけだった。
だが、まあ、二人ともだいたい、言ってる事は一緒だよな。
ということで、ベタベタするのは俺の流儀ではない。
レンジとポカポカやりながらロケットを作らせて、空に向かってビームを放った。
ロケットはこれを追って、まっすぐに飛び立ち始める。
「じゃあな、クソな世界! いや、クソじゃなくなるのかも知れねえが、まあ、帝国もないし自力でなんとかしてくれ!」
「バイバイ、世界! 私たちは外の世界に行くねー! 二度と戻って来ないぞーっ!!」
「さすが俺と同じ、この世界に恨みがあるエレジア。気持ちがよく分かる!」
「まあねえ。正直、魔王が世界を漂白してぶっ壊した時、スカーッとしたもんねえ……」
「あー、だよなだよなー!!」
俺とエレジアで、わっはっは、と笑い合う。
やっぱり彼女は最高だ。
ここでふと俺は気づく。
「戦友的な関係は深まった気がするんだけどさ……。俺とエレジアの、あのね、男と女的な関係は、一歩も進んでない気がするのだが……?」
「へ?」
ポカンとするエレジア。
「……もしかして、私とそういう感じになりたかった的な……?」
「当たり前でしょー……。男はみんなケダモノなのだよ」
「いやいやいや、それにはちゃんと段階を踏んでもらわなくちゃ……。私、アレよ? 魔女よ? オービターの師匠ポジションでしょ。それなりのね? 関係を築いてね?」
「あー! くそー! 帝国をぶっ倒すことに邁進しすぎたあ!! じゃあ、ここから! ここからお願いします! エレジアさんよろしくお願いします!」
「色気がないなあ……」
「さっきからうるせえぞお前ら!! とっくに世界の外に飛び出してるってのに、いつまでも痴話喧嘩してるんじゃねえ!!」
「……賑やか……」
言われて気づく。
もう、半ばが真っ白になった俺たちの世界は眼下にあった。
ロケット、世界を飛び出そうとするとあっという間だったんだなあ。
みるみる、世界は遠ざかっていくのだ。
ちょっとしんみりするものを感じ……ない。
さらば、世界!
じゃあな!
「先行した魔王の痕跡を捉えた」
ストークが告げる。
レーダーのスキルが、魔王を捉えたらしい。
「すげえな。どれだけ広い範囲が分かるの?」
「俺も見当がつかない。だが、白い魔王との戦いの時に魔力の波を放って、返ってくるまでに今まで掛かった。少し遠いぞ」
「なに、どっちに行ったか分かれば追いかけるだけだ! そいつはアセリナだからな。うちの村の生き残りは、俺とアセリナだけになっちまった。だが! 俺がアセリナを倒せば! 生き残りは俺だけになる! ざまあ見やがれクソ親父!! てめえが追放した三男が村の最後の生き残りだ! 地獄で悔しがれっ!!」
俺のテンションがみるみる上っていく。
かくして、ロケットは飛ぶのだ。
追うは魔王の背中。
行き着く先の世界が、俺たちの世界みたいに半分ぶっ壊される前に、俺たちが魔王をぶっ壊す。
じゃあ、魔王を倒した後はどうするかって?
それは、その時考えるのだ。
──ロケットが加速し、アストロノーツの姿は見えなくなる。
一瞬、エーテルに満たされた暗黒の空を、ビームの輝きが切り裂いたように見えた。
おわり
───────
あけちバースの魔王は、大抵外の世界から襲来します。
その起こりの物語でありました。
短い間でしたが、お付き合いありがとうございました!
スキルが全てを決める世界で、俺のスキルがビームだった件。ダークファンタジー世界をビームでぶち抜く。 あけちともあき @nyankoteacher7
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