第41話 エーテルの海:決着
周囲の光景は、青。
青一色。
それもだんだんと夜の色に変わっていく。
日が暮れていくのか、と思ったが、どうやらそうではないらしい。
世界の外側は、夜の色をしているのだ。
これは発見だったなあ。
そして、空に上っていくほど肌寒くなる。
これは上着が必要だったな。
魔王を倒したら、上着を取りに一回戻らないとなー。
そして、周囲から完全に青色が消えた時。
空気が変わった。
何ていうんだろうな。
空気を吸い込むと言うか、もっと濃密な何かを吸っているみたいな……。
「エーテルだね」
「マーチが詳しい」
「そりゃそうさ。あたしの本体は大魔女。大魔女の半身は魔王。んで、魔王はこのエーテルの海を泳いで遠い世界からやって来たのさ。千年も前には、あたしはこの中にいたわけだねえ……」
遠い目をしている。
「よし、ここら辺で始めようか。お前が漂白できるものも何もないだろ」
俺は振り返った。
そこには真っ白な巨大クラゲがいる。
クラゲの背後では、白と緑色の球体があった。
あれが、俺たちのいた世界かあ……。
白い部分は、魔王が漂白した世界だ。
なんだ、ほんの一割くらいしか漂白してないんじゃないか。
いやいや、あのほんの僅かな時間で一割を真っ白にしたんだろ?
あれって、俺が生まれた村も入ってたりしない?
……ま、いいか。
ヨーグレイトはぐんぐん俺たちに迫りながら、その全身を大きく広げていっている。
触れるものを全て漂白して崩壊させる魔王も、エーテルしか無いこの空間では力を振るえないのだ。
俺たちに触れようとしているのだな。
怒った顔だけ見えて、何も声を発さないのは、あいつにはきっと発声器官がないのだ。
つまり、こいつが今どうにかできるのは、俺たちに触れることだけ。
それをさせる前に倒す。
単純明快じゃないか。
「エレジア、ちょっと思ったんだけど」
「なぁに?」
「俺のビームってさ、他のビームで誘導できるじゃん? これ、エレジアの魔法でも誘導できるかなって」
「よし、試してみよう。ファイアボール!」
いきなり、下級魔法をぶっ放すエレジア。
俺は慌てて、その後にフレイムビームをかぶせた。
おお、いける……!
明らかに、ビームの軌道が魔法に引っ張られていった。
ヨーグレイトの表面で、ぱちんと弾ける。
だが、これで魔王は完全に怒ったようだ。
挑発されたと思った?
「うし、全力で攻撃! みんな、行くぜ!!」
俺は剣を抜いた。
ビームを放つだけなら、直線状の攻撃。
だが、剣ならば幅広い攻撃範囲になる。
上級魔法ビームを剣で撃つのは、地上だとちょっと怖くてやれなかったが、ここは世界の外側だ。
マーチ曰く、エーテルの海。
ここならば何も心配せずにぶっ放せる。
「ラストだな! 俺もやるぜえ!!」
ロケットの上に飛び出してきたレンジ。
こいつ、ロケットの火力は物理的なものに留まっているが、何よりも伸びたのは、運搬能力と持続力だな。
だから、ウォールロケットを使いながらこうして外で戦える。
「オービター! 俺を誘導しろ!」
「おっ、お前自ら誘導依頼が!」
「お前のは命令じゃねえってさっき気付いたからな」
「……うっ、レンジが成長している……。嬉しい」
こんなところで涙ぐんでいる場合ではないぞ、ラプサ。
「両サイド……ソードウォール……!」
翼のように、剣の壁が広がった。
正面に見えるのは、魔王の顔だけ。
「行って、オービター。ファイアボール!!」
エレジアの魔法が放たれた。
放物線状に飛ぶはずのファイアボールが、どういう訳か猛烈な勢いで、一直線に魔王へと向かう。
俺も剣を抜いた。
「インフェルノ……ソードッビィィィィィィムッ!!」
真っ赤な閃光が生まれた。
それはエーテルの海を切り裂きながら突き進み、ソードウォールを侵食し始めていたヨーグレイトへと突き刺さる。
そこで初めて、魔王の顔に苦悶の色が浮かんだ。
触れた端から、ヨーグレイトの体が燃え尽きていく。
「いいぞ! そこに俺の! スパイラルロケット、いけえええええっ!!」
ウォールロケットの後方が展開し、そこから螺旋状のロケットが飛び出してきた。
それがビームの後を追って飛翔する。
魔王に突き刺さり、大爆発を起こした。
やったか!?
「いや、逃げる! あいつは元の世界に戻ろうとしているぞ!」
ストークの声で、敵の狙いを知った。
あいつ、俺たちの相手をするのを止めて、徹底的に世界を滅ぼす方に回るつもりか!
魔王の姿は、白く巨大な石のように固まっている。
その姿のまま、世界へと落下していこうとしているのだ。
「ありゃあ、隕石だよ……! あいつ、隕石になってあの世界を終わらせる気だ! こりゃあ、あたしも年貢の納め時かなあ……」
諦めるのは速いぞマーチ。
戻っていく魔王相手に、ただのビームなら追いつかない。
だから、最速で行く!
「ハリケーンビーム!!」
風のビームを纏いながら、俺は飛ぶ。
そして回転しながら、剣を振り抜いた。
「ストームビーム!!」
高速移動から放たれる、さらに高速の上級風魔法ビーム。
それが真後ろから、隕石化した魔王を直撃する。
魔王は声にならない叫びを上げ、その巨体をバラバラに分散させていく。
あの欠片の全てが魔王なのだ。
こいつに核はない。
一欠片も残さずに殲滅しなければ、あの魔王は復活する。
「インフェルノソードビーム……回転っ!!」
ハリケーンビームで回転したまま、俺は剣を振った。
俺の全方位に、灼熱のビームが放たれる。
死角などはない。
後方にいる仲間たちは、なんとかこいつを凌いでくれると信じよう!
何度回転しただろうか。
気がつくと、手にしていた剣がなくなっていた。
ビームに持っていかれてしまったか。
俺の手は……よし、残ってる!
ビームそのものになってしまったら、消滅してしまいそうだもんな。
そして、周囲には……何もなくなっていた。
魔王ヨーグレイトの、全ての欠片を消滅させたのだ。
「よし、勝った!」
エーテルの海をふわふわ浮きながら、俺は拳を握りしめた。
「勝つには勝ったが……。なんというか……」
目の前には、白と緑の球体がある。
でかい。
だが、俺のビームも降り注いだようで、あちこちがちょっと赤くなっている。
「俺の能力、そろそろあの世界では収まらなくなって来ているのでは……?」
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