第40話 漂白の空:世界の終わり

「ファイアビームをガイドに! インフェルノビーム!!」


「インフェルノストーム!!」


 上級魔法の炎の力を使った、二連発が叩き込まれる。

 塔全体を覆い尽くすほど肥大した粘菌は、これを受けてぐにゃりと揺らいだ。


 効いている。

 というか、俺が知る限り最大の破壊力を持つビームと魔法だから、これが通じなかったおしまいなんだが。


 粘菌の一部が燃え尽き、消滅した。

 しかし、ストークがレーダーで調べた結果分かったのは、巨大化した粘菌の全てが魔王だということ。


 いやあ……ロイヤルガードの皆さんとは、スケールが全く違う。

 しかもこの、ヨーグレイトと名乗った魔王は、俺たちを無視している。

 ひたすらに、この世界を真っ白く染め上げて、何もかもぶっ壊してしまおうとしている。


 こいつはやばい。

 理屈が通じない。

 魔王化してから、吠えるでも何かを訴えかけるでもなく、粛々と世界中を漂白していっている。

 漂白されると、そこにいた生き物はどうやら滅びるらしい。


 うーん、なるほど。

 やばさの次元が違う。


 インフェルノビームや魔法は通じたが、それでこいつを倒せるビジョンが浮かんでこない。


「ねえオービター」


「おう」


「突破スキルの三人で組んで、もう、これを世界の半分ごと壊しちゃうとか、そうしないと無理じゃない?」


 エレジアの提案はとんでもないものだったが、それくらいしないとこの魔王は止まらないな。


「俺も同感だ。これ、世界ごとぶっ壊さないとダメな敵だわ。あーあ、全部終わったらエレジアと、ただれた生活を楽しもうと思ってたのにー」


「もう、オービターったら」


 ぺちんとエレジアに叩かれた。

 うはは、照れてる照れてる。


「……やだこの二人、今からイチャイチャすること考えてる……」


「元気だよなー! おう、どうだオービター! なんか作戦考えたか!」


「ろくでもない作戦だろうが、そういう頭のおかしい戦い方でもない限りはこの白いのは止まらないだろうな。不本意だ。実に不本意だが!」


 ストークがとても嫌そうな顔をしている。

 マーチはご機嫌で笑っている。


「早くなんとかしてくれないと、うちの本体の大魔女も危ないからさ。あれが死んだら、あたしも止まるからねー」


 もうこのちびっこ魔女、大魔女の使っている人形で確定なんだな?


 まあ、ここは迷っている余裕などない。


「レンジ、ウォールロケット!」


「命令……ま、いいかあ」


 完全に慣れてしまったなこいつ。

 そもそも、俺の指示はレンジがやろうとしていることをなぞっている場合が多いしな。


 完全に漂白され、崩れ始めている塔の中。

 レンジがふんっと気合を入れて、今までで一番でかいロケットを作り上げた。


 ウォールロケットだなあ、これは。

 やっぱこれが決定版か。


「……私の魔法剣で、強化してある、から」


「なるほど、でかいと思ったらラプサが協力してたかあ」


 完成したロケットに、わいわいと乗り込む。


「あれ? 今回のは中に入れるのかい?」


「おう! ずっと上に乗ってたからな。新鮮だろ! ああ、オービターとエレジアは外な!」


「だよなー」


「ひどぅいー!」


 納得する俺と、抗議するエレジア。

 だけど、俺ら二人とも外側から攻撃するからなあ。

 かくして、大型ウォールロケットが飛び立った。


 飛び立つ衝撃で、巨大な塔がぐずぐずと崩れていく。

 危ないところだったなー……なんて呑気に眺めていたら、塔を中心として、真っ白く染まった帝都が砕けながら、中心に向かって崩れ落ちていくところだった。


「うおわーっ!? なんだこれは!」


 崩れ落ちた跡には、巨大な穴が広がっている。

 帝都一つを飲み込むサイズの穴だ。


 その中央に、真っ白な何かがいた。

 穴に糸を伸ばして、まるでこの世界の主でござい、という顔をして鎮座している。


 白いものの中心で、ばかでかい人の顔みたいなものがあって、笑いながら俺たちを見た。

 あー。

 ざまあみろって言ってやがる。


 あれが魔王かあ。

 あれこそ、本物の魔王ってわけだ。


 俺たちが今まで戦ってきたのは、本当に紛い物だった。

 本物は次元が違うなあ。


「その次元が違う奴を、これから、帝国まるごとぶっ飛ばします!!」


 俺の両腕から、バリバリと稲光が放たれる。


「んじゃあ、まずは私から行くねえ! 上級魔法……グランドシェイカーッ!!」


 大地が鳴動した。

 グラグラと揺れる帝都。

 ただでさえ脆くなった大地が、どんどん崩れていく。


 魔王は支えを失い、地の底へと転がり落ちていく。

 まぁだ笑ってやがるよ、あいつ。


「だったらこいつでおしまいだ! ボルカニックサンダービームッ!!」


 俺の両腕から、狙いも付けずに極太の雷撃が放たれた。

 標的は、この広い大地だ。

 狙う必要だってありゃしない。


 降り注ぐ雷撃が、地面ごと世界を粉砕していく。

 さらば帝国!


 ……あれ?

 帝国に、エレジアの知り合いらしい男の人いなかったっけ?

 あー、でも漂白されてるしなあ。死んだだろうなあ。


 ちらっとエレジアを見たら、肩をすくめて見せた。


「弟」


「ええ……弟さん? っていうか、もしかしてエレジア、帝国の人だったの」


「そうそう、案外ろくでもないところだったよ。それも、こうして粉々になっているのを見ると、ちょっと寂しくなるよねえ……」


 しんみりしながら、跡形もなくなった帝国を見つめる。


 どうだ。

 これだけやれば、魔王だって死んだだろ。

 これで死なないなら、それこそ今まで相手をしてきた偽魔王連中は何だったんだって話になる。


「やばい、やばいやばいやばい」


 マーチが、ヤケクソで笑いながら上にやって来た。


「来るよ。ヨーグレイトが飛んでくる!」


「はあ!? あれで死んでないのかよー!」


「こうなりゃ、空の上で迎え撃つぞオービター! しっかり掴まれえ!!」


 レンジの叫び声が響いた。

 ウォールロケットが後方から火を吹き、上空へ、上空へと飛び上がっていく。


 背後からは、猛烈なプレッシャー。

 ちょっと振り返ったら、クラゲみたいな姿になった真っ白な魔王がいた。


 おお、浮かび上がってる人間の顔が怒ってる怒ってる!


 かくして、決戦の部隊は世界の外側へ……!



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