~そして未来~

 三十年後――

「ばぁば、どうしてじぃじのご本、いっかいもよまないの?」

「ばぁばはね、ばぁばのものがたりを書くのにいそがしいからよ」

「じぃじは、あさまでねむれなくなるからだって、いってたよ?」

「おやそう。でもね、じぃじもばぁばのご本は読まないから、おあいこよ」

「お母さんたら、作家は孤独であるべきだって、ずっとそう言ってるのよね」

「小説はあくまで架空のものだからね。私は現実に起承転結をつけて、作り話にはしたくないのよ」

 本棚にぎっしりつまった夫の本と、私の本。

 児童文学で名をはせた夫と、恋愛の女王とうたわれた私。

 私たち二人はそれぞれの道と、共にある現在を選んだ。

 仕事机の上には娘が作ったフォトアルバムのカレンダーが飾ってある。

『高橋家INハワイ』とある。


 私は、佐助稲荷神社のお守りを娘に渡して、想い馳せる。

 長いようで短い、人の一生。

 だから、一生懸命に生きようと思ったあの時の選択に誤りはなかった。

 世界はすばらしい。

 なにはなくとも、愛さえあれば。

 あれ、相変わらず私って詩人。

 本当に、いついつまでも恋をしていたい。

「女神、私、幸せになれたよ」

「ばぁば、なんていったの?」

「ううん、なんでもないわ。ちょっと類語辞典を探してくるわ。きっとじぃじのところにあるから」

「じぃじとばぁば、なかよしだねえ!」

「ええ、そうよ」

「「きゃあーっ! ラーブラブぅ!」」

 ああ、しあわせっ!


【了】

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お守リン! ~あなたの人生リペアします~ 水木レナ @rena-rena

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