エピローグ

「何かに頼るってのは違うよな、だから自分の力で伝えたいと思う」


 僕はペンダントを握りしめて、亜由美にそう言った。


「…うん」不安そうな表情で僕の次の言葉を待っている。


「そう言っておきながら、亜由美に一つだけ頼みがある。僕が君に想いを伝えるために、どうしても必要なことだ」


 既に想いを伝えている気がするが気にしない。いざという時、自分が逃げないための保険みたいなものだ。


「えっと、何を?」


「これに」とペンダントを渡す。


「これに?」


「亜由美がアレを見つける前の世界に戻りたい。頼めるか?」


「…過去に、戻る?」


「あの人がこれを残して行った理由が、それしか浮かばないんだ」


「無かったことにするために?」


「そうだ」


「…また、同じことしないかな?」


 そう、たとえ戻れたとしても、僕らはまた同じ行動をするかもしれない。

 だから、強く、強く願うんだ。亜由美に想いを伝えるために。

 亜由美が、こんな物を作る必要がないように。


「僕を信じろ」


 ふっ、と亜由美の表情が柔らかくなり、そのままペンダントを両の手で重ねる。

 そしてその手が差し出され、僕はそれを両手でしっかりと包み込んだ。


 やがて、多くの大願成就を成し遂げた奇跡の光が、視界を埋め、そして何も見えなくなる。

 光の闇の中で、ただ強く彼女を想った。


●○●○


「宗ちゃん、宗ちゃん」


 闇の中、肩を揺すられる。

 目を開けるとそこは昼の光に満ちていた。


「…あ、おはよう」


「おはようって、もう一時過ぎてるよ」


 どうやら昼の仮眠を長く取りすぎてしまったようだ。


「ふあぁぁ、夢見が悪かったみたいだな…どした?」


 このところ、とある理由でふさぎ込んでいた亜由美が僕の顔をじっと見ている。


「あ、うん、何か私に言いたいこと、ない?」


 なんだその上目遣いは。

 こう見えても僕は、失恋中の想い人に気安く愛を語るようないい加減な…人物じゃないはずなのに…。


「あ、あのさ、暇だったらさ、その機械の操作でも覚えてみない?」


「…むぅぅぅ」


「…なんで怒ってらっしゃる?」


「知らない!」


 亜由美はそう言い放ち、僕にペンダントに使われる、ただのチェーンを投げてきた。


「何、これ…」


 そのチェーンを持つと、不思議なことに、亜由美への想いが溢れてくる。


「…あのさ、言い直してもいいかな?」


「…一度だけなら」


「僕のところに、永久就職しない?」


 大願成就の為には、やっぱり努力をしないといけないんだ。

 そして他の何かを失う覚悟、そうまでして手に入れたいと想った人は、何故だか僕の胸の中に飛び込んできたんだ。

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大願成就の魔道具職人 K-enterprise @wanmoo

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