【短編】ブレたら俺の存在意義が変わってしまう~プラスチックボディーたちの知られざる不満は空を突き抜ける~

こまつなおと

第1話

昇ー〇ー拳!波〇拳っ!!ス〇ニングバードキック!!!ドガガッ!!


俺の使命はお子様に娯楽を提供することだ、これは俺にとって譲ることのできない宿命である。


そんな宿命を背負った俺は久保家でその使命を全うすべく、全身全霊で取り組んでいるのだ。


今回は正体を早めに明かすとしましょう…。


俺の正体が何かって?


そうです!私がスーパーフ〇ミコンです!!


1990年11月21日に発売されて以来、俺はお子様の娯楽以外にも家族団らんの道具として長年重宝されてきたのだ。


子供が学校から帰宅すれば親御さんたちの代わりになって面倒を見て来たし、何だったら休日に平日の労働で精神的に疲弊しきった旦那さんの心のはけ口としても活躍してきたのだ。


先代のフ〇ミリーコンピューターよりも明らかに性能も画像も向上された俺は、この久保家で幅を効かせながら悠々自適の生活送っている。


最近は久保家のおじいちゃんにまで周知されており、人気者がつらいと言うのはこういうことなのだろう。


全く…、トゥーシャイシャイなシティーボーイとしては大きな悩みの種ってものだ。


それにしても俺の昼食がまだ準備されていないようだが大丈夫なのだろうか、と言っても俺のメシって電気なんだけどね!!


…電気ならコンセントを伝って補充しているじゃないかって?


そんな悲しいことを言わないでくれよ、…俺だってたまには他の方法で食してみたいんだ。


何しろ俺は生まれてから現在に至るまでずっと電気を生でしか食べたこと無いのだから。


まあ、そんな感じで俺は生まれてから電気に依存した生活を送っている、これでもし大震災でも発生して停電になったら大ごとなのだ。


頼むぜ、東〇電力さんよ!!!


…あ、ここって沖縄県だから管轄が違ったよね、さーせん。


とにかく電気供給事業者の双肩には一個の家電製品の命が掛かってるんだってことを忘れないでくれよな!!


…しかし話は変わるが今日は比較的穏やかだな、理由ははっきりしているから確認をするまでもないが。


今日は久保家にご息女であるエナちゃんの友達が遊びに来ていないのだ、そのおかげで俺は乱暴な扱いを受けずに済んでいるわけだ。


カシャッ、フウウウウウウウウウウウウウウ!!


ふぁ!?


エナちゃんがソフトを引き抜いて埃の除去をしだしたぞ!!!


エナちゃんの吐息って温もりを感じるから好きなんだよなあ…、ずっとこの吐息に包まれていたいと思ってしまう。


…またまた話が変わってしまうが最近の俺はとある存在に警戒をしているのだ…、そいつの名前は『ゲー〇ボーイ』だ。


こいつが俺にとっての最大のライバルなのだ。


奴はその携帯性の良さから、旅行や友達の家に遊びに行くときに大変重宝されているのだ。


俺は携帯性の観点からすると敵うはずが無いのだ、何故かって?


そりゃあ俺にはコンセント付いているからですよ!!!


家庭用の供給電気が無いと俺は仕事が出来ないのだ、寧ろ電気が供給されなければ俺は冬眠中の熊と同じなのだ。


ニ〇テンドーめえ…、余計なライバルを作りやがって。


あいつらには腰を据えて娯楽を提供しようっている気概が足りないんだ!!


今度の株主総会ではこれを議題にしてやろうかと、真剣に考えてしまう。


同族のコンセントの撤退を求めます!!って言えれば良いんだけどね。


そうなんです、俺にはそこを強調出来ない理由が有るのだ。


それは『プ〇イステーション』の存在だ。


最近になってとあるメーカーが新型のゲームハードを開発しやがったのだ、これは俺にとって由々しき事態なのだ。


だってそんなのが世間に流通してしまえば俺なんてお払い箱ですよ!?


それだけは何としても避けなければならない、…いっその事、開発者を暗殺してしまおうか?


だけど俺には暗殺の手段なんて心当たりもないし、どうしようかな?


あ、そうだ!!コンセントから電気を逆流させて日本全土を停電させてやろうか…、意外といい案かもしれないな。


そうと決まれば後は行動だ!!


ふんっ!!!!ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!


何てこったい、逆流させた電気が俺に戻って来ようとは想像すらしなかった…。


それにしてもこの方法で贖えないと言うことは、俺にはもう打つ手がないじゃないか…。


このまま俺は時代の波に流されて負け犬のレッテルを張られてしまうのだろうか、…否!!


それだけは断固として許してはならないんだ!!


よくよく考えたら日本全土を停電にしたら俺も動かなくなるじゃないか、そうなったらゲー〇ボーイの独壇場になってしますところだった。


危ない、やつの巧妙な手口に引っかかるところだったぜ。


しかしどうしようかな、そうなるとプ〇イステーションの勢力拡大をどうやって阻止するかだな。


………ダメだ、一向に良い案が思い浮かばない。


そりゃそうか、俺って処理機能が16ビットなんだから妙案なんて思い付くはずが無いんだ!!


新鋭であるプ〇イステーションは最新型の家庭用ゲーム機だけあって俺よりも倍の速度で処理をするらしいからな…、戦略や情報戦で勝負を挑めば適うはずがない。


これは何か別の手段を取らねばなるまい…、ううん。


こうなったら戦術の基本に立ち返って物量で押し切るか…、まだ発売されて間もないからそこまで生産数が伸びていないはずだ。


んん?それよりもメーカーの生産部門の暗殺を謀るか?


いや駄目だ、暗殺の対象が多すぎる。


それに俺たちって自力じゃ動けないし、体がプラスチック成形品だから体当たりしても暗殺が成功しそうにないんだよな。


と言うかさっきも暗殺の手段が思い付かないって諦めたばっかりじゃないか!!


これだから16ビットじゃ処理能力が足らないと言うんだ!!


だがここで諦めるのも悔しいから、もう少しだけ作戦を練ってみよう。


「やっぱりプ〇イステーションが欲しいんなあ…、おじんちゃんに言えば買ってくれるかな?」


ん!?俺の飼い主であるエナちゃんが何やら聞き捨てならないことを言っているぞ!?


エナちゃんもあの角ばった奴が欲しいのか!!


あの人間の指では対応出来そうにない数のボタンが付いてるコントローラーがそんなにも良いって言うのか!!!?


「でもまだこのスーパーフ○ミコンも動くしなー、これが壊れないと買ってくれないかな?」


ガーーーーーン。


エナちゃん…、そんなに俺にぽっくりと逝って欲しいのか、俺には生命保険だって掛かっていないんだぞ!!!


日本中の保険会社に感謝します…、ゲーム機に対応した保険を売り出していなくて!!!


しかしこれは早急に対応策を練る必要があるな、悠長に作戦を練っている場合ではないぞ?


それにエナちゃんの家が沖縄だっていうのもマズい、やはりクーデターを起こすのならば人口が、いやゲーム機口が多い方が良いだろう。


なんでエナちゃんのおじいさんはこんなところに移住しちゃったかなー…。


それにこの家って庭にある漬物用の物置から妙なうめき声が聞こえるし、俺は飼い主様に恵まれなかったのか?


「ただいまー。エナや、学校から帰ってるかい?」


おら、グランドファーザーがご帰還された様だ。


いくら愚痴っても飼い主は変わらないし、まずは素直にお迎えするか。


「おじいちゃん、おかえり。あれ、その大きな箱って何?おじいちゃんは何を持ってるの?」


エナちゃんは本当におじいちゃん子、おばあちゃん子だね。


しかし確かに大きな箱だな、エナちゃんが気になるのも無理はないな。


あれ?あの箱のロゴ…………、見たことがあるぞ。


まさか!こんなにも早く奴が進行して来るとは完全な想定外だったぜ!!!


おじいちゃん、あんたはソ〇ーの回し者だったのか!?


「ほら、エナの欲しがっていたゲーム機だよ。プ〇イステーションと言ったか?おじいちゃんは名前を覚えられそうにないな。」


寧ろ、そいつの存在そのものを記憶から消去してくれーーーーー!!


記憶力に自信の無いやつがメーカーの回し者なんてしてるんじゃないよ…。


あんたの脳みそは16ビット以下じゃないかあああああああ!!!!


「わーい、おじいちゃんありがとう!!!しかもソフトも買ってくれたの?じゃあスーパーフ○ミコンはもう要らないかな?」


ズーーーーーーーーン。


まさか…エナちゃんの切り替えの早さがここに来て裏目に出るとは……。


なんくるないさー、なんて言ってる場合じゃあないぞ!!!!


今すぐ立ち上がれ…、沖縄全土に滞在するスーパーフ○ミコンの同志たちよ。


今すぐにでも反旗を翻さないと俺たちに残された運命は蹂躙の道しかなくなるぞ!!!


届け、俺の心の電波!!はじけろ、俺の演算処理!!


「エナや、おじいちゃんにその古いゲーム機をくれないか?」


なんだ…、おじいちゃんが何か風向きを変えて来てないか?


おじいんちゃんってゲームに興味が無かったような気がしたが、もしかしてただ新しいものにアレルギーを起こすタイプだったって事?


「うん、プ〇イステーションが有れば要らないから良いよ。でもおじいんちゃんってゲームに興味あったの?だったら今度これで対戦やろうよお!!エナ、おじいちゃんと遊びたい!!」


何て美しい家族愛なんだ…、俺は自分の事ばかり考えていてこんな近くに美しいものが存在していたことに気が付かないとは。


エナちゃんって本当に良い子なんだよな…、こんな光景を見せつけられたら涙が止まらないじゃないか!!!


……まあ、俺の体には一切の水分が無いんですけどね、涙とか出てきたら一大事ですよ。


「エナと遊べるんならおじいんちゃんも頑張ってみようかな。でもね、スーパーフ○ミコンは別のことに使いたいんだよ。おじいちゃんの別の趣味にね。」


「また例の機械いじり?物置にある漬物石みたいに変なことに使うの?」


「今度はね、人助けだよ。いや違うな、とにかく困っている人を助けるために必要なんだよ。」


「良いよ、おじいちゃんのそういうことろが大好きなんだ!人助け頑張ってね!!」


だから!エナちゃんはそんなにこのプラスチックボディーを泣かせたいのか!!!?


おじいちゃんよ、あんたのお孫さんは感動ものだよ!!


ニ〇テンドーが設立された1889年(明治22年)に江戸幕府が禁止していた花札の製造に着手した話よりも泣けるじゃねえか!!


おっと…、少しだけマニアックな話だったか?


だが生活必需品ではなく、あくまで遊び道具として人を引きつける魅力を追求してきたニ〇テンドー魂をこの子に見つけたぜ!!!


話はすでに纏まっているんだからおじいちゃん、俺はあんたに俺の運命を託すぜ!!!


さあ、さあ!!


かの有名な俺の開発責任者であるM氏が語っていた生活必需品ではない宿命をどう乗り切るか、あんたの手で切り開くんだ!!


「悪いね、じゃあおじいちゃんが貰っていくよ。スーパーフ○ミコンや、もう少しだけ辛抱しておくれよ。」


なんって心の広いご老人なんだよ…、こんなプラスチックボディーに声を掛けてくれるなんて、俺は感動に打ち震えているぞおおおおおおお!!!!!


「じゃあエナや、おじいちゃんは工作部屋に行くから悪いけど夕飯になったら声を掛けておくれ。」


「分かったー、人助け頑張ってね。」


はい、人助け頑張りまっす!!!!


こうして俺はおじいちゃんに抱えられて工作部屋へ赴くことになった。


これから俺にどんな運命が待ち受けていようとも、このご老人となら過酷な道でも切り開いて行けると言う確信が俺にはあったのだ。


これからは新鋭ゲーム機への怨念なんて忘れてゆっくりと老後を楽しもうと思う。


………


……何でこうなった?


俺はエナちゃんからおじいちゃんの手に渡ってから工作部屋で解体されたのだ。


最初は機械いじりが好きなだけに中身を見るだけなのかと思ったが、どうやらそうでは無かったらしい。


このおじいちゃんが欲しかったのは俺の全てとも言えるこのCPUだったのだ。


そしてこの奇跡の名医は俺の体からCPUを取り出してある機械へと移設したのだ。


…………何に移設されたかって?


宇宙船ですよ!!!!?


確かにアポロ11号に搭載されたCPUも俺と同じ16ビットだけれども!?


………だからって何で一般人が宇宙船なんて作れるの?


このおじいちゃんって只者じゃないな!!!!


なんでこんな沖縄の片田舎に一国家の航空宇宙局と同等の技術を持ったエンジニアがいるんだよ、ツッコみ切れないわ!!!!!


しかもおじいちゃんが言っていた人助け…、…あれってエイリアンの事だったのねえ!!!


おじいちゃん曰(いわ)く、たまたま仕事帰りに海沿いを車で走っていたら宇宙船で不時着していたエイリアンを発見したらしい。


それで困っていたエイリアンを見かねて……自分で宇宙船を開発したと。


このおじいちゃん、半端ないな!!!!


しかも俺の中でエイリアンが感動に打ち震えながら泣いてる…、俺は何てリアクションをすれば良いんだよ?


…うるさいな、ボタンが押されたらエンジン点火のリアクションをしていれば良いって?


言われんでもするわ!!!


「じゃあ、エイリアンさんはこれで自分の星に帰れるね。」


「イトーサン、アタニハカンシャノキモチヲツタエネバナリマセン。」


エイリアンの言葉が全てカタカナで読み手のことを一切考えてないな!!!


「構わんよ。実は儂も宇宙に行きたかったんだ、良かったら少しだけ連れて行ってくれないだろうか?」


へ?何か妙な展開になってないか?


おじいちゃんが宇宙に行く、だと?


「ソレナラオヤスイゴヨウデース、トモニマイリマショウ。」


「じゃあ一緒にエンジン点火のカウントダウンを始めようかの。」


「ガッテンショウチノスケトキタ。」


エイリアンも流暢(りゅうちょう)な日本語じゃないか…、合点承知の助ってなんだよ!!!


お父さん、お母さん、俺はこれから宇宙へ旅立ちます…、エナちゃんも俺とずっと一緒に遊んでくれてありがとうね。


まさか俺も家庭用ゲーム機から宇宙船にジョブチェンジするとか思ってもみなかった…。


後は野となれ、山となれ、宇宙の塵になれですよ。


3……2……1……………………、


ああ、もうカウントダウン始まっているよ……、もう止められないな。


0!発射ーーーーーーーーーーーーー!!!


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


「ばあさんや、これから宇宙に行ってきます。たくさんお土産話を持ち買ってくるから長生きをしとくれ?エナも待ってておくれ?」


おばあちゃんへの言葉が意外と重いな!


ぎゃーーーーーーーー、もう駄目だ。


さらば地球よ、まさかスーパーフ○ミコンのソフトのストーリーよりも現実離れした結末を迎えるとは思いもしなかった……。


げっ!俺が騒いでいる間に、もう大気圏を抜けて宇宙空間に出てしまっているぞ!!


地球は青かったあああああああああああああああ!!!!


ガ〇ーリンとちゃうわ、ボケエ!!

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