雑魚テイマーにテイムされた

すぐり

第1話



私は兎型の魔物である。


見た目は普通の黒兎だが、私の血は毒で出来ているし、敵を蹴り殺すのも造作のないものだ。

瞳も血の色のように真っ赤であるせいか、人は私を《赤眼の黒い悪魔》などと呼んでいるらしい。


さて、そんな私であるが…





テイムされた。





…言い訳をさせてくれ。

私は決して弱くはないのだ。

戦えば全戦全勝してきていた。

人間にも出会ったら真っ先に逃げろと言われているらしい。

そうなのだ、本来なら有り得ない。

有ってはならない事なのだ!!


…ただ、私も鬼ではない。

逃げる者を追って殺すような鬼畜では無いし、明らかに格下を甚振る趣味も無い。



まぁ、それが原因なわけだが。



私をテイムしたのは格下なのだ。

言ってしまえば塵芥な雑魚である。

そんな輩が私をテイムしようなどとしても、ほぼ不可能に近い確率でしか出来るはずがないのだが…それを偶然にも成功しやがった。


ぐぬぅッ!

屈辱である!

未だしも名のある屈強な戦士や数々の魔物を従えるようなテイマーならばまだマシというものの、低レベル間抜け面の雑魚にテイムされるとは情けなさ過ぎて自害ものだ!


然しとて、テイムされた身であるからして、殺す事も自害する事も出来ぬ身。

殺気を込めて睨んでやっても「名前どうするかなー」などと戯けた事しか言わぬ鈍感すぎる阿呆。



「あ、紅玉。紅玉なんてどうかな?ほら、お前の目って真っ赤で宝石みたいで綺麗だし」



唐突に言われた言葉に声も出なかった。


宝石だと?

私はこの瞳を血の色と例えられても、誰一人として宝石などとのたまった奴などいないと言うのに。


別に嬉しいわけではない。

ぶっちゃけ『何言ってんだ、こいつ』である。


大体、たかがスライムに殺られかけて、一か八かで私をテイムした奴の言う言葉に心動かされるわけがないだろう、馬鹿め。

第一に何故兎をテイムしようなどと考えに至ったのかも分からん。

因みにスライムは私の八つ当たりの対象となり消滅した。


…今更ではあるが、底辺とも言えるスライムに殺られかけるとか、どんだけ雑魚なんだ、こいつ。

しかも複数ならともかく1匹って…。



「うわぁぁ!!紅玉助けてぇ!!」


雑魚さに呆れている間に今度はゴブリン(武器も手にしていない単体)に襲われているのを見て、呆れを通り越して泣きたくなった。


「こ、紅玉ぅ!紅玉さん!紅玉様!たーすーけーてー!!」


えぇいッ!

せめて威厳を持て!

見た目はただの兎に助けを求めるな!

情けなさ過ぎて蹴り殺したくなったから、とりあえずゴブリンに八つ当たりした。

もちろん一片たりとも残っていない。


私の主ならば、せめてドラゴン1匹くらい殺してくれ。

主にテイムされたのは仕方なかったのだと思わせてくれ。



って、何目を離したうちに人喰い花に喰われかけているんだ!?

逆に良く今まで生きてこれたな!?


雑魚だ!

雑魚過ぎる!!


…せめて植物くらいには勝ってくれ、頼むから。




…なんて、そう思っていた頃もあった。


とりあえず雑魚を鍛えようと思い、なんとか1人でやれるように仕向けてみたが…全て一撃で死にかけていた。

唯一救いなのかどうかは分からないが、避ける事と運良くその相手が雑魚を見失うなどと生き残れる術があった事。


いつまでも雑魚な理由が分かったが、否、分かったからこそ頭を思わず抱えた。


え?

私はこんなのをずっと主として使われなければならないのか?


ぐぬぅッ!

薬草採取を生計として活動している雑魚を何故私が守らねばならないのだ!

街でも馬鹿にされて、それでもへらへらしてるような雑魚に、何故、私がッ!!



そんな事を考えていたせいか、ある日、私は不覚を取った。


とはいえ、後脚を少し敵から掠めてしまった程度だ。

私は大体一撃で相手を殺す。

攻撃されても私の素早さに追いつけず、当てる事など不可能に近い。

つまり、何が言いたいかというと、実は私はあまり防御力がない。

掠めただけで大した怪我にはなっていないが、その身が軽い私は簡単に吹き飛んだ。


「紅玉ッ!」


私が攻撃を受けるとは思っていなかったのだろう。

驚きの声を出す雑魚。

私だって驚きだ。

だが然し、この程度で殺られる私ではない。

追撃をしてくる敵にすぐさま反撃をと思っていた。


…しようとしていたんだ。


「がぁッ!?」


目の前には敵に背中を引き裂かれた雑魚。


その位置は私を追撃しようとしていた敵がいて、雑魚は私を庇うように両手を広げていて…。


…馬鹿だ雑魚だと思っていたが、私の強さすら把握していなかったとは思わなかった。

私に任せてそこら辺に隠れていれば良いものの、無駄に攻撃を受けるなどと呆れ果てた真似をしてくれたものだ。



あぁ、万死に値する。



私はすぐさま敵を蹴り殺した。

この程度、本来なら私の敵ではないのだ。


だというのに今目の前には背中を引き裂かれ、虫の息である雑魚。

このまま放って置けば時期に出血によって死に至るだろう。

そうすれば、私は自由の身だ。


「…あぁ、良かった。怪我は痛くない?僕はすっごく痛い。でも、やっぱり紅玉は強いなぁ。あぁ、でも本当に良かった。もう大切なものは、失い、たく、な、い、から…」


そう言うと、雑魚は意識を失った。

どうやら此奴は過去に大切な誰かを失ったようだ。

まぁ、私には関係ない事だが。



事なんだがなぁ…。



私は背中の傷を丁寧に舐めた。

そうすると、すぅっと傷が消えていく。


私の血は毒である。

その為、私の種族は毒兎と呼ばれている。

まぁ、間違いではない。

しかし、血以外の体液については別だ。

涙は万病の薬ともなるし、唾液も傷を癒す力がある。



私の種族は本来、薬兎と呼ばれるものであった。



ただ、それが人間に伝わっていない。

伝わっていたら、弱い仲間達が乱獲される事だろう。

だから私はなるべく使わず、恐ろしい魔物だと思わせる必要があった。



しかし、私も気付かなかった。



どうやら私は此奴に情が移っていたらしい。


全く、本当に悪運の良い奴だ。

今は落ち着いた呼吸をするのを見ながら嘆息した。



仕方ないから、貴様を主として守ってやろう。

然し、なるべく強くなってくれよ?



きっと、今の判断を後悔するような雑魚っぷりだが、多分私は見捨てれないだろう。

だからこそもしかしたらテイムされてしまったのかもしれないなどと思いながら、主が眼を覚ますのをジッと待つのだった。



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