現実チュートリアルはミュート推奨

ちびまるフォイ

まず、この小説の読み方をチュートリアルするね!

「愛しているよA子……」

「私も……」


2人は目を細めてお互いの顔を近づけていく。

唇が触れそうになったとき、目の前にハート型の妖精が現れた。


『こんにちは! 私はナヴィ! いろんなチュートリアルの案内をするよ!』


一瞬なにか聞こえた気がしたが無視しようとした。


『それじゃまずはキスのチュートリアルだね!

 まずは彼女の唇に触れてみよう!』


「なんだようるさいな!! 今いい感じなんだから黙ってくれよ!」


「え……ご、ごめん……」

「あ、A子じゃなくて……」


『ピピン! 新しいチュートリアルが生まれたよ!

 気まずい感じになった男女の仲を取り持つチュートリアルだね!

 彼女をはぐして愛をささやいてみよう!』


「できるかぁ!!!」


クソでかい独り言をがなりたてるやばいやつと思われてしまいA子とは別れてしまった。

A子との関係は終わったのに、チュートリアルナビ役のナヴィはまだくっついていた。


「いったいいつまでくっついてるんだよ……」


『私はナヴィ! まだ未体験のことが出たらチュートリアルをするよ!』


「それがいらないんだって! 必要なことは自分で学ぶから!」


『でも初キッスのとき、めっちゃ唇震えてなかった?

 やっぱりチュートリアルは必要だったでしょう?』


「べ、べべべべべ、べつにふるえてねーし!!!」


なんとかナヴィをこの世から消すことができないかと考えていると、

目の前にエスカレーターを寝かせたような動く歩道が見えた。


最近なにか工事しているかと思ったらこれを設置していたのだろう。


『ピピン! 未体験フラグ!

 新しいチュートリアルが生まれたよ!』


「今度はなんだよ!?」


『動く歩道は初めてだよね! これから動く歩道の歩き方をレクチャーするよ!』


「見ればわかるよ!!」


いくらナヴィを黙らせようとしても、未体験フラグが発生すればナヴィは止まらない。

一方的に情報を伝えてチュートリアルへと誘導する。


『さあ、まずはこの動く歩道に足を乗せてみよう!』

『つぎに動く歩道の上で右足を出してみよう!』

『その調子! 次に左足を出してよう!』

『やったね! これで動く歩道を歩くことができたよ!』

『次は応用編! 動く歩道の手すりの部分に触れてみよう!』

『完璧だね! 手すりに触れることができたよ!』

『今度はちょっとむずかしいよ。手すりをもったまま歩けるかな?』

『すごい! 動く歩道の応用編もできたね! それじゃ次は……』



「あああもう!! わずらわしい!!」


いくら耳を塞いでもナヴィの声は頭の中に直接送られてくる。

まるで自分が動く歩道を初めて見る原始人のような扱いをされているようで不愉快。


我慢の限界に達したため、ナヴィを調べに調べまくってその元凶を特定した。


「お前だな! 世界の人々にナヴィとかいうナノマシンをばらまいたのは!!」


「え、ええ……たしかに開発者は私ですが、私は国の指示でやっただけですよ」


「なんでそんなことを!」


「最初は現代文明に疎い高齢者の人を迷わせないようにと作ったんですが、

 しだいにマナーを守らない大人のためにもと話が広がって……。

 今じゃ、すべての人間の未体験を検知してナビするようになったんです」


「こちとらいつも頭が騒がしくて困ってるんだよ!!」


「ナヴィのチュートリアルは1回限りですし、

 1度その経験を済ませてしまえばもう出ませんよ」


「そういう問題じゃなーーい! そもそもその1回がたくさん出てくるから困ってるんだよ!!」


「そう言われても……」


「あんた開発者なんだろ!? チュートリアルを消すことくらいできるはずだ!」


「私にできるのは未体験フラグを反転させることくらいです!」


「……それどういうこと?」


「つまり、まだ未体験のものを体験済みに反転させることです。それがこの薬で……」


開発者の言葉を聞いて未来が広がった気がした。


「そういうのがほしかったんだよ!

 未体験のものが全部体験済みになっちゃえばもうチュートリアルが出ないはずだ!」


「あ、ちょっと勝手に薬を飲まないで!」


開発者の静止を振り切り薬を一気にあおった。

これでもうチュートリアルが出ないはず。



『ピピン! 新しいチュートリアルが生まれたよ!』



そのはずが、頭の中で聞き馴染みのある声が聞こえた。


「ど、どうして!? 薬で未体験はなくなったはず……!」


もちろんこちらの声なんか無視されて強制的にチュートリアルは進行する。

体はナビィにより制御され、ナヴィの指示どおりにしか動かせなくなった。


『君は呼吸するのは初めてだよね? 呼吸チュートリアルをはじめるよ!』


『眼球を動かすチュートリアルをはじめるね! 見たいと思う場所に目を動かすんだ』


『立つことのチュートリアルをはじめよう! 右足と左足に力を入れてみて!』


未経験フラグを検知し、合唱のように何重にも響くナヴィの声に頭がおかしくなった。

最後に聞いたのは開発者の気まずそうな声だった。





「その薬、未経験のことは体験済みにしますが……。

 体験済みのものは未経験に反転させちゃうんですよ……」

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