サンタクロースのプレゼント

宇佐美真里

サンタクロースのプレゼント

「えぇと…、この子の家の次は、この子の…」

「う~む。この回り方だと間に合わんなぁ…」

さっきから何時間も、幾つもの地図を広げ彼は、

あぁでもない…こぉでもないと、頭を掻いて悩んでいました。


毎年のこととは言え、本番よりもむしろ、

この順路を決めることの方が、骨が折れるのです。


順路さえ決まってしまえば、後はプレゼントを配ってまわるだけ。

もちろん急いで配って間違えてしまわないように注意は必要ですが、

それも自分が来ることを心待ちにしてくれている、

子供たちの寝顔を見ながらのことですから、

ちっとも辛くなんてありません。


「少しは休まないと身体がもたないわよ…。もういい歳なんですから…」

部屋を覗きながら彼の奥さんが言いました。


「何を言うかっ!まだまだ元気じゃ!」

地図と睨めっこしたまま彼は言い返します。

「はいはい…そうですね…」

溜息交じりに返事をする奥さんの表情は、

それでも嬉しそうでした。


何時間かが経ち…、

東の空に月が姿を現し、いよいよ夜が始まろうとする頃。

彼は叫び声を喚げました。

「よしっ!!完成じゃっ!!」


今夜の順路が決まった途端、

ひと息つく暇もなく彼は立ち上がり、

プレゼントでいっぱいに膨らんだ大きな袋を肩に担ぎながら、

奥さんに言いました。

「では、行って来るよ…」

「はいはい…。気をつけて下さいね…」


八頭立てのトナカイに引かれるそりに乗り、空を飛んでいく彼の姿が、

東の空の月に向って、小さく吸い込まれるように消えていくまで、

奥さんは手を振り続けました。



夜空の月が西の空まで進み、

代わりに東の空に上がり始めた太陽と挨拶を交わす頃、

トナカイの鈴の音を些かお疲れ気味に響かせながら、

彼は家へと帰って来ました。

「ただいま…」

ふらふらになった彼…当然ベッドへと直行です。


扉を開けてからベッドで"いびき"を立て始めるまでの時間は、

五分と経っていなかったでしょう…。


奥さんは、玄関の扉から暖炉の前…ベッドへと辿り着く道順に、

ひとつずつ放り出された衣装、空になった大きな白い袋…、

大きな黒いブーツ…、赤い帽子…白い縁取りのある赤い服…と、

ひとつずつ拾い上げ、

ようやく最後に、ベッドの上にうつ伏せに倒れたまま、

大きないびきを掻いている彼の元に辿り着きました。


「あらあら…」

最後の落し物を拾い上げながら、思わず奥さんは吹き出します。


「これでは、せっかくのプレゼントも貰いそこねてしまうわよ…」


明るくなってきた窓辺にかざした、最後の落し物…。

それは靴下でした。

脱ぎっ放しの彼、サンタクロースの靴下の爪先には、

大きな穴が開いていたのです。


落し物の"主"に静かに毛布を掛けながら、

奥さんは微笑みつつ呟きます。


「今年のサンタクロース"への"プレゼントは、靴下をあげましょうか…」



-了-

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