第5話<エピローグ> 本性を現すドライバー達

 エドに教えられたのは、コンストラクターズポイントが同点だった場合、競技規則第7条第2項デッドヒート条項により、1位の回数が1番多いもの、1位の回数が同じ場合は、2位の回数が1番多いもの――というように、レースにおけるドライバーの着順が良かった方が上になる、と言うことだった。つまり、ジェシーの4位入賞1回という成績によってランキングはセナ達が上となり、逆転したとのことだった。

 レースが終わりガレージに戻ろうとピットレーンを歩いていると、アランが人目をはばからず泣いている姿をセナは目撃した。コンストラクターズポイントで逆転されたのがよほど悔しかったのだろう。今は声を掛けるべきではないと思い、そのまま見過ごすことにした。

 ガレージに戻ると、エドやその他のエンジニア、データアナリストなどスタッフ全員から拍手で出迎えられた。そこには、セナが今最も話したいと思っていた人物も立っていた。

「いやぁ、よくやったな!」

「ありがとうございます、代表」

 セナは硬い表情でチーム代表と握手をかわした。

「それで……言いにくいんですが、僕は0.5ポイントしか獲れませんでした。来年の契約はどうなりますか?」

「まぁ、私の一存で決めることは出来ないが、コンストラクターズポイントで逆転出来たし、その功績を認めないわけにはいかないな。来年もよろしく頼むよ」

 そこで、ようやくセナの表情は晴れやかなものになった。

「あ……ありがとうございます!」

 感謝を伝えて代表と別れると、もう1つの疑問を解消すべくセナはエドの元へ駆け寄った。 

「結局、メカトラって何の話だったの?」

「あぁ。9位を走ってたジェシーに出来るだけゆっくり走れと命じたんだ」

「チームオーダー!?」

「そうだ。ジェシーが8位になれる見込みは皆無だったから、コンストラクターズポイントで逆転するためにはアランをどうにかする必要があった。そこで、アランの頭を抑えてお前にオーバーテイクさせる作戦を思いついたと、そういう訳だ。ここはヤス・マリーナ・サーキット。オーバーテイクは非常に難しいからな。それでも、俺はそれが出来るって信じてたぜ」

「あのジェシーが従ったの!?」

「それは俺が答える」

「ジェシー、戻ってたのか」

「最初は文句を言ったよ。だが、しばらくしてエンジントラブルが発生してね。ペースを落とさざるを得なかった」

「テレメトリーには何の異常も無かったが――」

「エンジントラブルったらエンジントラブルだ! なんか文句あるか!?」

「いや、別に」

「いいか、俺はチームオーダーに従ったわけじゃないからな! ……まぁ、これからも一緒のチームで走れるのは嬉しいけどよ」

「そうだね。これからもよろしく」

「それで、今夜は暇か?」

「え?」

「久しぶりに一緒に食事でもどうかと思って」

「……もしかして、レース前に言いたかったのって、このこと?」

「は、はぁ? そんなわけないだろ!? ったく!」

「はいはい。つきあってあげるよ」

 男のプライドは高い。今日はそういうことにしてメンツを立ててあげるかとセナは思った。

 来シーズンも走れることにセナは安堵した。これで決勝レース出場数は確実に伸びる。ポイントに関しても、今回のレースはジェシーの力を借りることになったが、いつか必ず実力でもぎ取ってみせる。

 F1ドライバーの世界最少獲得ポイント記録0.5と、ギネス世界記録である決勝レース出場数12――レラ・ロンバルディが持つこれらの記録を更新し、僕は必ず世界で最も偉大なF1ドライバーになると、セナは心に固く誓った。


(了)

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デッドヒート・イン・フォーミュラワン<チームオーダーの絆> 草薙 健(タケル) @takerukusanagi

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