著者とは数年前にカクヨムで知り合い、いまや週イチで一緒にwebラジオを放送する仲になった訳だけど……それでもまぁ、このレビューのタイトル「キタハラに書かせとけ」は調子に乗りすぎた。失礼が過ぎる。
一応、「失礼ブッこいて申し訳ない」と謝ってておくことにする。
とは言うものの、キタさんに書かせとけば間違いがないと思っていることもまた事実だ。カクヨムで誰も成し得なかったことを、次々とやってのける。まさに「そこにシビれるあこがれるゥ」的な作家なのである。これほど書かせて安心な作家も、ほかに居ないであろう。
カドカワから出たデビュー作『熊本くんの本棚』は、第4回カクヨムWeb小説コンテストのキャラクター文芸部門で大賞を受賞しての刊行。ライトな小説が主流のキャラ文で、これだけ重く読みこたえのある作品で受賞したという驚きは、いまだ記憶に新しい。
同じ路線で突き進むのかと思いきや、二作目はPHP文芸文庫から『京都東山 「お悩み相談」人力車』を刊行。まさかの大胆な路線変更に、またもや驚かされることとなる。
そんなキタハラ作品がパワーアップしてカドカワに帰ってくるというのだから、これは期待するしかないだろう。
本作『遅番にやらせとけ』は、乱暴にまとめてしまえば『京都東山~』の系譜に連なる作品かと思う。胸がジンと熱くなる、ヒューマンドラマが詰め込まれている……はずだ。カクヨム掲載分を読む限りでは。
全五話のうちの二話分が、カクヨムに掲載されているのだという。つまり、続きの五分の三は、書籍をまつしかない。はたして続きでは、どんな展開が待ち受けているのか……。
キタさんのことだから、ヒューマンドラマと見せかけておいて『漂流教室』や『漂流ネットカフェ』のように書店ごと異世界に飛ばしてしまうかもしれないし、そこまで非現実的なことは起こらないにしても『昭和歌謡大全集』のようにオバサマたちの集団と血で血を洗う抗争に発展してしまうくらいのことはあるかもしれない。それくらいのことは、キタさんならば軽くやってのけるはずだ。
と、まぁ、そんな勝手な飛躍を読者に期待させつつも、そんなものはバッサリと裏切って、お仕事ヒューマンドラマとして昇華させてしまうのだろうとは思っている。どんな展開が待っているにしろ、楽しみでしかない。
すでに『京都東山~』を読んだ方には安心しておすすめできるし、『熊本くんの本棚』しか読んだことがない方にも、本作でキタハラ作品の違う一面も楽しんでいただければと思う。
そしてまだキタハラ作品を読んだことがない方は、特にご注目をいただきたい! 書かせて安心の実力派作家が、ココに居ます。見逃すと損しますよ!☆
最後にキタハラ先生へ……
新作『遅番にやらせとけ』の書籍化、おめでとうございます!
そして文庫版『熊本くんの本棚』との同時発売、おめでとうございます!
印税が入ったら、美味しいご飯を食べさせてください(真顔)
最近、実家の近所のTSUTAYAが潰れてしまった……。
TSUTAYAが出店した時はあんなに嬉しかったのに。
最後に行ったのはいつの事だろう、思い出せない。
という不吉な話は置いておいて、本作は書店のお仕事小説です。
本屋って、大変なんだなぁ〜、とため息をついてしまう。
イキイキと楽しげに働く人たちには色んな事情があって、面倒くさそうに、でもちょっとだけ楽しそうに働いている。少し羨ましい気持ちになった。
とりわけ、本屋といえばの「万引き」事件が第1話になっているのだけど、庄野というベテランバイトがスカッとジャパンを彷彿とさせる見事な解決を見せる。第2話では、握手会で写真集をたくさん売ると豪語した大学生・島尾があの手この手で(買い切りにも関わらず)たくさん仕入れ、山ほど売れ残るピンチに陥る。そこでまた庄野が現れ奇策を……という、庄野、何者? な謎が残ったまま書籍化待ちとなった現状である。気になって仕方がない。一体、どうなってしまうのか?
謎といえば、庄野がレジをしていると何故か商品を元に戻して立ち去る「スクールカースト上位」っぽい女子高生。その他、おそらく今後明らかになるであろう、「庄野は何故本屋で働いているのか?」など、数多く残っている。
何故、本屋で働いているのか?
という問いは、そのまま本屋が衰退しているにも関わらず、という事に対する答えにもなるだろうし、「何故○○で働いているのか?」という○○には、読者自身の職場を当てはめることで、新たな視点が得られるやも知れない。
問題作『熊本くんの本棚』を書いたキタハラさんが、一本まっすぐなお仕事小説を書くというのは、正直なところあまり想像がつかないけれど、緻密な取材をして書き上げた『京都東山「お悩み相談」人力車』を楽しく読了した身として、キタハラさんが新たな領域を意欲的にザックザックと開墾中であるのを僕はひたすらweb小説界隈の奥底の端っこから生暖かく見守っている次第であり、必ず何かが起こる。何かが一味も二味も違うものになるだろうと予想せざるを得ない、予測不能なドキドキがある。早く書籍版を手にして読みたい、という気持ちでいっぱいです。待ちきれない!
ぜひ一度、体験版として読んでみることをお勧めします!