第15話 レベルアップ

ご飯の配膳が終わる頃、練さんもお風呂から上がってきた。

「うまそー!いや、悪いな。用意だけさせて手伝えなくて」

「いえ…お口に合えばいいですけれど」

鍋を裏返して作った調理台はテーブルとして使う事にして、椅子(やはり拡大鍋)を追加で出す。

テーブルの上には、球芽の炊き込みご飯をおにぎりにしたもの、お椀に注いだお味噌汁。

おかずは、揚げ物3種(ヒラべ・川海老・ツタヤの球芽)そしてマキマキのおひたしだ。

練さんの食べれる量がわからなかったので、大皿に盛りバイキング形式にしてみた。好きな料理を好きなだけ取り分けて食べて貰う。

余ったら冷凍しておいて、おやつにしたり、アレンジして食べればいいしね。

「う…美味い!何だこれ‼︎」

練さんの反応は大袈裟だったが、好まれた様で、少し安心する。

「このマキマキって、その辺に生えてるやつだよな!?それをこんなに美味しくするって…道流お前、プロ過ぎる。

揚げ物もサクフワで…こっちに来てから初めて美味い物食ったわオレ。泣きそう…」

「練さん…この世界の素材が良いだけですよ。僕は家から持ってきた調味料でしか料理してませんから。

でもマキマキとヒラべ、僕もすごく好きなので好みがあって嬉しいです。ヒラべは煮込み料理にしても美味しいらしいですよ?」

伝えると、早速練さんに作ってくれとリクエストを頂いた。トマト缶とハーブがあるので、煮てみようかな…?

それともフカヒレのイメージで中華風にした方が合うだろうか?

その後も練さんに誉め殺しされながら食事は続けられたのだが…。

「う…!?……道流ヤバイぞこれ………」

「……練さん?」

破顔して食事をしていた練さんの手が止まり、真顔になる。

「やっぱり病原菌が⁉︎しっかりしてください……‼︎はっ…早く吐いて」

僕は気が動転して僕はお味噌汁を差し出していた。

練さんは首を振り、顔の前に手を出して、僕の出した味噌汁を静止する。

そして、おもむろに自分のプロフィール欄を僕に見せた。

「………毒耐性とかのスキルは…ついていませんね………」

混乱する僕に、練さんが吹き出して答え合わせをした。

「なんで毒耐性なんだよwレベルだよ、レベル!」

よく見ると、名前の横のレベル表示にUPという文字がつき、7となっている。さっき現在のレベルが6だと言っていたよね…?

「……じゃあ、あと一つ上がればクエストが再開できるんですね?おめでとうございます‼︎」

不安が一転、安心とお祝い気分で興奮だ‼︎

「いや、そうだけど…そうじゃなくて。お前の料理を食ってレベルアップしたんだぞ⁉︎凄くないかw」

「え?えっと…レベルが上がって凄いです!」

苦笑する練さんに、僕は何か失言をしたのかと思ったが、肩に手を置かれ“お前がな!“と伝えられた。

「レベル6に上げるまでの戦いでも回復薬10本以上使ったんだぞ?それなのに癒されてご飯を食べたらレベルが上がるって…w道流の料理を毎日食ってたらレベル40越えも直ぐなんじゃねえの?

一流パーティーに売り込みして雇ってもらえよ」

「……?食事で上がるのはHPじゃないんですか?僕は自分のご飯を食べても上昇しませんけど…」

僕らは二人で顔を見合わせる。

しばらくお互いのプロフィールを見せ合って、まとめた結果が出た。

「うーん…検証が必要だな。道流の料理が原因なのは確実だと思うんだが。確かに、オレがグルメと肉体強化スキルを所持しているからとも考えられるな。

あとは、道流がクエストを進めていないせいでレベルが出現せず、食っても経験値が加算されない状態の可能性も高いか…」

「この地域で採取した食材だからレベルが上がっているのかもしれませんよ?危険区域でしたっけ。レベルの高いモンスター扱いになっているのかもしれません。

あと僕はレベルを上げるとか必要ないですし…そもそも交流が必要なクエストも売り込みも無理なので、…無理です!」

無理を強調した訳ではないが、自然と2回言ってしまう。だって無理だもの。

「いやレベルは上げとけよ、自分の安全の為にも。

道流は無理って言うけど、オレとは今こうやって普通に話してるんだし。クエストの会話は、みんなNPCっぽくなるから、ゲームと割り切れば大丈夫だと思うぞ?」

「………」

僕が判断が付かずに沈黙を続けると、“すまん“と練さんは謝った。

「自分のペースってのがあるよな。とにかくお前の飯は美味い!弟にも食わせたいよ」

「……ご飯…お替わりがありますよ」

気を遣わせた事が心苦しくて、僕はぎこちなく笑った。

考え事をしてしまい、普段より味がしないご飯を僕も食べる。

練さんは美味しそうに何度もおかわりをして食べてくれて、最終的には全部のお皿が綺麗に片付いた。

食後、僕がお皿を仕舞い食洗機ボタンを押すのを見て、練さんはまた感動していた。

「なあ道流。現地の人との交流ってのは、対話出なくてもショップの販売やメールでもいいんじゃないのか?そういうクエストが見つかるかもしれないから、そんときゃお前に連絡するよ」

「練さん…あの………」

少しの逡巡の後、僕はまだ、ありがとうございます…と伝える事しかできなかった。

練さんがいうように、練さんは会ってから間も無くでも僕は平気に話せているのだ。他の人とも交流は可能なのかもしれない。

ただ、まだ踏ん切りが付かない。

他の人も大丈夫だと思ったが、やはり直前で逃げてしまった場合、自己嫌悪が酷くなるだろう。

出来ると思った自分の判断や、練さんを裏切る事になる………。

「……僕の料理で練さんのレベルが上がるなら協力ができるので嬉しいです。

嫌じゃなければ、練さんがここにいる間は毎日作るので、検証してみませんか?」

「だな!だったら周りで狩りもしようぜ、今日は肉食わせてやるぞ道流!」

そんな訳で午後からは、二人で新たな食材を探しに行くことになるのだった。

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ひきこもりの僕は、地球第2ステージに移住してみた。 シソヨモギ @sisoyomogi

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