第14話 共同生活

「はっ?じゃあ本当に食べたのか道流」

僕は練さんに自分のプロフィールページの加護やスキルを見せて説明をした。

「(天職)ってやつは初めて見たな。何か作ってくれよ道流!こっちの飯って味付けが微妙でさ、携帯食を買って食ってたんだよ」

練さん、病原菌がうじゃうじゃだと自分で言っていたのに…。

「僕はスキルや加護のお陰で平気だったみたいですけど、練さんが食べて平気だとは限らないんですよ!?」

「大丈夫だって、オレも鑑定スキルがあるから分かったんだ。お前の所持リストに入ってから出されると、スキルの作用で、不要だと判断されたものは勝手に除去されるみたいだぞ?

食材としての扱いで、食べて害にしかならない病原菌は除去してるんだろうな」

言われてみると、マキマキの時も食べれない方の葉っぱは除外されていた様な…。

練さんは自分のプロフィールを開き、スキルや加護を見せてくれた。僕が見せたのでお返しという事になるのか。

僕からの自己開示が、圧力になっていなかっただろうか。気になってしまう…。

「実はオレ食べるのが好きだが太りやすくてさ。バイトは好きな店の賄いを食えると思って選んだ飲食のホール仕事と、食べすぎて太らないようにスポーツジムでインストラクターのバイトを掛け持ちしてたんだよな!わはは」

追加で個人情報を話してくれるので、練さん的には日常的会話の様だ。良かった。

「作るのは平気です。でも無理しないで下さいね…あ、ご飯ができるまでお風呂にでも入っておいて下さい」

僕は鍋を巨大化させて、お湯を張る。

普段よりも大きめのサイズに拡大させて、練さんでも足を伸ばせる湯船にしてみた。

「お風呂は木陰に置きましょうか?それとも、日が差す開放的な場所にした方が良いですか?」

羽衣の書でお湯を張ったお風呂を、地上から30cmほど浮かせた状態で、置き場の指示を待つ。

「じゃあ日向で…」

練さんの返事を聞いて、僕は明るい場所にお風呂を移動させた。

のぼせ防止に、少しだけ木陰も入るように置いてみた。

僕はこちらの世界にタオルは持って来れなかったのだが、麻製の未使用の布巾がいくつかあったので、その1枚を練さんに渡す。

「ハンドソープで良ければ、石鹸もありますけど…」

「至れり尽せりだなw!道流って実は凄い奴だろww」

リップサービスなのか、石鹸を受け取る対面のまま、褒めてくれる練さんだ。

凄くなんてないですよ!と恐縮すると、凄く良い奴なのは間違いない!と断言された。

それはあなたでしょう…。

初対面で僕とこんなに話せる人なんて、今まで遭遇した事が無い。

そう伝えると練さんは目を細めた。

「お互い、居心地が良いのは幸運な事だよな!」

“お互い“という所に、僕は安心感を覚え、料理に取り掛かるべく練さんに背を向けた。



調理台の代わりに、僕は底が平な鍋を巨大化して、逆さまにする。

そこにカセットコンロと、使用する材料や鍋を置いてゆく。

ご飯はマストだろう。僕は無洗米を取り出す。

今日は練さんがいて、土鍋で炊くと食べる量が少ない気がしたので圧力鍋で炊くことにする。

炊く前に水で浸水をする場合は最低20分は置きたいが、それを熱湯に変えれば10分も置かずに炊き始める事ができる。

ついでに言えば、圧力鍋炊きなので加圧時間と水さえ増やせば芯も残らず、炊飯器に比べ炊き上がりまでの時間も掛からない。

僕は同量の米と湯を圧力鍋に入れ、ツタヤの球芽も適量入れて蓋を閉めた。

伐採中に見つけた、ツタヤの葉の付け根についていたむかご状の球芽だが、素揚げして塩を振って食べてるとホクホクと、フライドポテトの様になり美味しかったりする。

それも作ろうかな?

油を出すついでなので、僕はメインを揚げ物にしようと決めた。

他の具材として、皮を剥いだヒラべの切り身と川海老を選んだ。まず、ヒラべをビニールに入れて、唐揚げ粉を全体にまぶす。

次は、海老が獲れる様になってから何度か作っている姿揚げだ。こちらの衣は天ぷら粉で。

理由は海老の場合下味でスパイスをつけず、揚げた後で塩を振って食べる方が僕好みだったからだ。

えびせん味…いや、万人ウケする味だ。

お味噌汁はいつもの通り、液味噌と乾燥お味噌汁の具で、お湯を注げば作れる簡単なもの。

ヒラべのアラでも出汁を取れるので、すまし汁にしようかとも考えたが、カセットコンロで調理をするとなると火の元が足りない。

もちろん魔法でも加熱できるが、今日は揚げ物も作るのだ。

揚げ油に引火しても怖いし…無理はしない事にした。1つずつ作ろう。

マキマキは昨日茹でて、冷凍でおひたしにしておいた物があった。鰹節を掛けて出して一品完成だ。

「手際がいいな、さすが天職の料理人だな」

カセットコンロで調理を始めた僕に、練さんが湯船の中から話しかけてくる。

「練さんは普段の職業は何にしているんですか?」

「オレは戦士とか、冒険者だな。この職業でクエストをするとレベルが上がりやすいからな」

………レベルって、何?

「レベルか?クエストを進めて行ったらレベル表示が付いたんだが…

レベルが35を超えて来ると人間離れしてくるらしいぞ。オレは会ったことはないが、移住後48時間限定セールで重課金した海外勢が既に超えてるってのは仲間から聞いた。道流はクエストはどの辺なんだ?」

練さんが疑問に答えてくれたので、現地の人との交流をするというので躓いたと僕も説明をした。最初じゃん!と大ウケしてもらえた。

呆れられなくてホッとする。

「他の職業は、学者や美食家…探偵も選択肢に出てきてたかな。こっちは使い道があんまりねえけど」

練さんは大学では考古学を専攻していたそうだ。

そのせいか、弟さんと一緒に所持リストの制作中の際に、スキルに鑑定と検証が勝手出現したそうだ。

自分の趣味に合いそうだと感じた、肉体強化やグルメというスキルは、空欄を全部埋めるために練さん本人が記載したとの事。

加護に関しては最初は空欄だったが、兄弟二人で移住する事を親に伝えるのを話し合った際に、弟さんに“自由人”の加護が出現したそうだ。

冗談だと思っていた両親に、挨拶を済ませて、塔矢・エリーナとの待ち合わせ場所へ移動するかという時、最終的に練さんにも“堅牢“の加護が出現したという事だった。

「弟の面倒を見てやれってさ…」

練さんは当時の事を回想している様だ。

僕に伝えて長ーく息を吐いた。

「そういえば、オレの現在のクエストだが、ギルドの依頼を受けるというのでクリア報酬が出たんだよな。レベル上げと達成したら二重取りできるのかの検証を兼ねてここにきたんだが…。

道流の元にオレを送るのが創世主の意向だったって事か…」

二人で共有した情報を、自分に落とし込んでいる様だ。

「あの…練さんは次のクエストはどうなっているんですか?」

「それが、まだ出て来てないんだよ。レベルロックがかかって、俺がLV8に達するまでクエストはお預けみたいだ。ちなみに今はレベル6な。

仲間のクエストを手伝いに行ってもいいけど、転移の書を持ってる奴らはダンジョンに潜ったみたいだし。

ダンジョンから一旦こっちに来ると、また地上から始める必要があるから、待ってろだとさ」

クエスト組は色々忙しい様だ。

「て事で、しばらく道流の護衛ができるな」

「えっあっ…の………」

混乱した僕に、創世主の意思からは逃げられんよなwと練さんは笑う。

四方祇さんの粋な計らいと言うのか、強制力と言うのか。

無力な僕は、“お願いします“と頭を下げる事しか出来なかった。

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