55.馴染み
「……」
俺たちがポーション屋台に乗って出発し、ほどなくしてから振り返ると、もうフェリオンの町が小さくなっていた。
正直、凄く愛着が湧いてきた場所なので寂しさはあるが仕方ない。なんせ俺たちは旅団ギルドなわけだからな。
天才錬金術師、強力無比な拳聖、口の悪い幻影術師、怪力の騎士……といった具合に物騒な仲間も段々増えてきて、当初と比べると本当の意味で旅団っぽくなってきてるような気はする。
「――あっ!」
「ん、アイシャ、どうした?」
「あの町でポーション売るの、すっかり忘れてましたぁ……!」
「ははっ……」
アイシャは今じゃポーションよりホムンクルスを出すことのほうが多くなってきてるからな。主にゴーレムで、シーカーっていう眼球に翼が生えたやつをたまに見かける程度だが。ほかにはいるんだろうか……?
「ゴクッゴクッ……プハッ……まあ、ポーションにしてはそこそこの味ですわねぇ」
「おいおい……」
いつの間にか、ジェシカがガブガブ飲んじゃってるし……。
「あわわ、ジェシカさん、それ売り物ですよぉっ!?」
「おいジェシカ、てめえ俺の拳でポーション吐かせてやろうか……!?」
「ひっ……!?」
またいつもの流れになってきたな……。
「わははっ! なんという楽しい人たちだ。私も早くこのメンバーに馴染みたいものだっ……!」
俺たちの会話が耳に入ったのか、幼女の姿になったミスティの弾むような声が前から流れてくる。
彼女は騎士ということで、御者の代わりに騎乗して屋台を引いてもらってるんだ。まあ彼女は仲間になったばかりだし、なんせ癖の強いメンバーばかりだから馴染むのには時間がかかるかもしれないな……。
「大丈夫ですっ、すぐに馴染みますよお! あ、そうだ。ミスティさんも楽しめるよう、あの子を呼ぼうかと思いますっ!」
「「「「あの子……?」」」」
「はいっ、うちの可愛いホムンクルスの中でも最も愛嬌のある子なんですよー」
「……」
アイシャの可愛いという言葉は正直あてにならないんだよなあ……。
「そ、その、なんだ、アイシャどの……わ、私はあなたの出すホムンクルスとかいうのは正直苦手で――」
「――絶対可愛いので大丈夫ですよぉっ! いでよっ、ホムンクルスッ……!」
有無を言わさず、アイシャがフラスコを投げ落としてしまった。実は一番癖のあるのは彼女なのかもしれない。もくもくと煙が上がり始めて……って、あれ? なんか煙の中から小さな赤い雲みたいなのが出てきた。しかも瞳孔が開いた猫の目みたいなのが二つついてる……。
『ボオォッ……』
「わ、わわっ!? な、なんだその不気味な生き物は……!?」
これ、ミスティがちらっと振り返っただけでびびりまくるのもわかるくらい気味が悪いな。そういう意味じゃ今までの中で断トツなんじゃないか……。
「これはですねえ、ウォーマーさんっていうお名前でして、近くにいるだけで温まるし体力だけでなく精神力も回復してくれるんですよっ。ちなみに魔法は効きますが、物理攻撃は通じませんっ」
「へえ……」
「おっ、マジだ。俺の拳が効かねえっ!」
ルアンが殴ってるが、確かに全然通用していなかった。
「ホホッ、わたくしいいことを思いつきましたわっ……!」
ジェシカが不穏な台詞とともにほくそ笑んでるし、嫌な予感が――
「――どわっ……!?」
予感はすぐ的中して、ジェシカの幻影術で水増しされた巨大なウォーマーがミスティの眼前に現れてしまった。
「ぬわあああああぁぁっ!」
『ヒヒィィィンッ!』
「「「「はっ……」」」」
ミスティだけじゃなくて馬もびっくりしたのか暴れ出してしまって、屋台が大きく揺れた。それは回復術でなんとか戻したからいいが、進路が完全に変わってしまっていて、もうすぐあの巨大な岩石にぶつかりそうな状況だった。それも回復術でなんとかしようとするが、間を置かずに連続でやったせいか効果が弱まっている。このままではギリギリでぶつかってしまう――
「――ど、どなたか馬を頼むっ……!」
「え、あっ……!」
ミスティが異常な跳躍力で岩石のほうまで跳んでいき、俺が代わりに馬に乗ることに。正直言うと騎乗したことはないが、短時間なら回復術でなんとかごまかせるはず……。
「――ぬっ……ぬおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
「「「「おおっ……!」」」」
まもなく大女と化したミスティが岩石を持ち上げるようにして後方に転がしてしまった。もう凄いとしか言いようがない桁外れのパワーだ……。
「「「「「――あ……」」」」」
それから数時間ほど経っただろうか。岩場だらけだった地平線の向こうに、青々とした海や港町が見え始めたのがわかった。
今度はあそこでどんな出会いが生まれるのか、今から楽しみだな……。
◇◇◇
ラフェルたちが出発してからほどなくして、フェリオンの町を一台の馬車が発っていた。
「ちくしょおおぉっ、もう我慢ならねえってんだよ……!」
馬車内で顔を真っ赤にして宙を睨みつけるクラークに対し、そのメンバーたちが揃って呆れた表情を見せる。
「クラークったら、腹が立つのはわかるけど、もうラフェルたちには勝てないでしょ。だってあの集団は化け物ばっかりだもの……」
「そうですよクラークさん。僕もエアルさんの言う通りだと思います。なんせラフェルさんは化け物の中でも別格なあの大女さんでさえ味方にしてるわけですし……」
「ふわあ……だねぇ……あたいもそう思うよ……」
「かっ、勘違いするんじゃねえっ!」
「「「えっ……?」」」
クラークの台詞に対し、口をあんぐりと開けるエアル、ケイン、カタリナの三人。
「俺はよお、ラフェルにとっとと謝罪でもなんでもして、やつが連れてる女の子たちとハーレム生活してえんだよおっ!」
「あははっ。さすがはバカ……いえっ、クラークさん!」
「はあ……。とうとうラフェルを打ち負かす気になったのかと思って損しちゃった。とらたぬもいい加減にしてよ、もう……」
「ふわあ……まったくだねえ――って、あ、あれを見てご覧よっ!」
「「「えっ……?」」」
カタリナの台詞で前方を呆然と見やる仲間たち。この馬車に向かって大きな岩石が転がってくるところだった。
「「「「う……うわああああああぁっ!」」」」
一斉に馬車から飛び出したクラークたち。その甲斐あって全員無事だったが、馬車は岩の直撃を受けて大破していた。
「……はあ。もう歩いていくか……」
「「「……うい」」」
最早馴染みさえ出てきた惨憺たる光景に対し、項垂れつつもめげることなく歩き始める【聖なる息吹】ギルドの面々であった……。
A級ギルドから追放された回復術師、無自覚なだけで元から最強の回復能力を有していた~異常が当たり前だと思っていた元仲間達、今更取り戻そうとしたってもう遅い~ 名無し @nanasi774
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