54.酔っ払い


「うえっぷ……」


 フェリオンのギルド協会の一角にて、早くも酔い潰れた様子のクラーク。彼をマスターとする【聖なる息吹】ギルドは、ようやく見つけた依頼をこなして久々の酒と食事にありつくことができたのである。


「クラークさん、いくらなんでも酔うの早すぎじゃないですかね……?」


「し、仕方ねえだろ、ケイン……ひっく……なんせ久し振りの酒なんだしよぉ……」


「元々クラークは酒に弱いしねえ。っていうか、ラフェルとよりを戻す気なら、あいつらがまだこの町にいる間に戻ってきてって頼むべきじゃないの?」


「僕もそう思います」


「あたいもそれがいいと思うよ」


「……ひっく……って、おめーらなあ!」


 メンバーから次々と声が上がる中、クラークは我に返った様子でテーブルをドンと叩いた。


「俺だけが頼まなきゃいけねえのか!? もしラフェルの野郎に断られたらどうするよ、めちゃくそ恥かくだろうが! だったらおめーらも一緒にひざまずいて頼むべきだってんの! こんのバカカスどもがよ――!」


「――あ、あの、ほかのお客様にご迷惑がかかりますので、もう少しだけ静かにしてもらえないでしょうか……」


 そこに、いかにも申し訳なさそうに女性の係員が話しかけてきたわけだが、クラークはニヤリと笑って胸を掴んだ。


「ひっ……!?」


「ケチケチすんじゃねーっつーの! そんなんじゃこのおっぱいも縮こまっちまうぜ!?」


「まったくですよ。人生、楽しまなきゃ損かと……」


「はうっ……!?」


 ケインが嫌らしい手つきで尻を撫でながら話すと、係員の顔はますます青ざめていき、最後は飛ぶように逃げ出していった。


「まったくもー、クラークもケインもやりすぎだって……てかもっとやればいいのよ、あははっ! ひっく……」


「ったく。マスターだけじゃなくみんなも大分酔っ払ってきたみたいだねえ。この分だと結局あたいが尻拭いしなきゃなんないんだからさ、やってらんないってんだよ……」




 ◇◇◇




 名前:ミスティ

 年齢:19

 性別:女

 ジョブ:騎士

 冒険者ランク:B

 所属ギルド:【悠久の風】

 ギルドランク:A


「おおおっ、ついに私は極度のコミュ障から立ち直り、ギルドにまで入ることができたっ! 嬉しい、嬉しいぞおおおおっ!」


 ギルド協会の受付前、幼女の姿で飛び跳ねるミスティがなんとも微笑ましい。彼女が見せびらかすように掲げるギルドカードを見ればわかるように、今回も例によって一発でA級まで上がったんだ。ここのギルド協会からしてみても悲願達成らしくて、出される酒や食事はサービス価格として半額になっていた。


「それにしても、まさかあの甲冑に入っていた方がこんなに小さいとは思いもしませんでした……」


「ち、小さいなんて言われるのは……私は……正直、凄く嬉しいっ!」


「えぇ?」


「「「「あはは……」」」」


 受付嬢が不思議そうにミスティを見るのもうなずける。あんだけ暴れ回ってたんだから本体を見せたほうが納得するだろうが、その必要もなさそうだしな――


「――うわあぁぁんっ!」


 ん? 係員が青ざめた顔でこっちへ駆け寄ってきたかと思うと、泣きながら受付嬢にあれこれ話し始めた。


「ひっく……例の、苦情が入ってる方なんですけど……」


「あぁ、またあの人たちですか。いけませんねえ……」


「一体何が……?」


 折角だし、何か力になれるならと俺は受付嬢に話しかけてみることにした。


「それが――」


「――なるほど……」


 どうやらたちの悪い酔っ払いがいて、それに手を焼いているらしい。よーし、それならこっちにも考えがある。


「ミスティ、元の姿に戻って酔っ払いを威嚇してやってくれないか?」


「え……? で、でも、私は相手が自分に向かってくるならともかくも、無抵抗の相手だと正直難しいかと……」


「まあっ、なんて役立たずなデクノボウさんですことっ……」


「「「ジェシカ……」」」


「も、申し訳――」


「――あ、そうだ。もしよかったら、酒とかあれば可能かと……」


「「「「酒……?」」」」


「はい。それならこんな私でもいけるような気がするのだ……」


 そういえば、ミスティの父親って酒が原因で貴族の立場から没落したとかなんとか言っていたような……っことは、まさか……。


 早速その効果を試すべく、俺たちは酒を注文してミスティに飲ませることにした。幼女の姿なのでかなり違和感はあるが中身はちゃんと成熟してるから問題ない。


「――ごくっごく……プハーッ」


 お、早速ミスティの目が据わってきていい感じだ。


「うぅ……暴れ出したい気分だ……」


「「「「おおっ」」」」


 俺たちは明るい顔を見合わせた。これならやってくれるんじゃないかな。


 というわけで、ターゲットはどの席のやつらなのか受付嬢から聞いて、ミスティにそこへ向かわせることにした。てか、ちらっと連中の姿が見えただけだが、どっかで見たことがあるような……。気のせいかな? お、もう大女になってるし準備万端みたいだ。


「――ぬおおおおおおおおっ!」


「「「「うぎゃああああっ!」」」」


 まもなく連中の痛々しい悲鳴と係員たちの歓声が協会内にこだましたのは言うまでもない……。

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